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第2章 山エルフ編 第12話 アウル領


「れ、レオン様」


 涙を拭いた二ーナが嬉しそうに微笑んでくれた。柔らかそうな尻尾が小さく揺れている。


「美味しかったよ。ありがとうニーナ」


「ありがとうございます。おかわりもありますので、好きなだけ召し上がってくださいまし」


 真っ赤な顔をして、恥ずかしそうに応えるニーナ。白狼族特有の垂れた耳が柔らかそう。な、なんか……よく見ると、ニーナって、とっても、何か、か、可愛いような……。


 あれ? トラウマが落ちたせいだろうか。今の今まで気づかなかったのだが、とっても家庭的な女の子に見える。ニーナはきっと、将来いいお嫁さんになるのだろう。

 

「ニーナは、ニーナは、レオン様に美味しく召し上がっていただいて、こんな嬉しいことはありません」


 そういって、柔らかそうな尻尾をぱたぱた振るニーナ。


 俺としても、こんな美少女に喜んでもらえるのは嬉しい。互いに顔を見合わせて、恥ずかしそうに微笑み合う俺とニーナ。少年の日の思い出は、そっと水に流すことにした。


 “ビクッ”


 鋭い殺気を受けて我に返ると、セリスがじっとこちらを睨んでいたことに気付く。勘弁を!



 食後は、ニーナも交えて四人で和気あいあいと談笑した。こんなことは、よくよく考えてみれば本当に久しぶりだ。十年以上ぶりだろうか。


「ごめんなさい。私、ニーナちゃんのこと、よく覚えていなくて」


「セリスちゃん、そんなこと、気になさらなくてもいいですの」


 掌をぶんぶん振って、なぜか少し慌てる様子のニーナ。


「そういや、セリスは、ここに来るといつもメイドたちと遊んでいたな」


「はい。私だけに特別だとか言われて、奥の部屋で洋服をプレゼントしてもらったり、お菓子を頂いたりしていました」


 何だと! お前だけいい思いしやがって! うらやまし過ぎるぞ!


「そういえば、お二人ともお年頃じゃの。どなたか決まったお相手でもおられるのかの」


「あ、いや、それは……」


 興味津々の様子で、身を乗り出さんばかりの親子の前で、恥ずかしそうに顔を見合わせて小さく首を振る俺とセリス。


「で、では、レオン様はどんな人がお好きですの」


「い、いやど……どんな人かと言われても……」


「ニーナは、レオン様には、お料理の上手な人がいいと思いますの」

「これ、ニーナ。レオン殿が困っておいでじゃろ」


 セリスの冷たい視線にさらされて、口ごもる俺に、助け船を出してくれたキールなのだが……。


「ところで、わらわの好みのタイプはの……。まあ王都なぞは、殿方だらけじゃから、すぐにでも見つかるじゃろうが、しいて言えば……」


 ……そろそろ、キールの誤解を解いておかなくては。


 俺はこの度の、アウル地方への辺境伯就任の実情について、キールにきちんと説明することにしたのだった。


 …………。


「……という訳で、この度、辺境伯としてこちらに来たのです」


 ん? あれ?


 ガタガタガタ……。


 テーブルが細かく揺れている。グラスが倒れ、テーブルクロスが濡れる。き、キール! ちょっと抑えて!


「そ、そんな仕打ちを……王国の貴族どもめ! 許せぬ!」


 歯噛みしながら、体を震わせて怒るキール。俺のために怒ってくれるのは嬉しいのだが、もっと落ち着いて欲しい。


 アウル領が王国の最果ての地なんてことは知っているだろう。今更、怒ることじゃないと思う。

第一、俺自身はそんなに嫌がっていないし……。それにしても、ここまで怒ることなのだろうか。


「大丈夫ですって。俺は恨みになんか思っていませんよ」


「しかし、許せぬ」


「いいんですよ。俺は王都の貴族社会が嫌いでしたから」


 そう言う俺を、キールはじっと見据え、静かに口を開いた。


「レオン殿は、アウル領が今、どんな風になっておるのか、ご存じかの」


「えっ?」


 怪訝な顔で、顔を見合わせる俺とセリス。


「実はの……」


「アウル領は消滅しておるぞ……」


 え……。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] アウル領が消滅⁉一体?
[一言] ま、まさか既に無いだと!?(゜Д゜;)
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