第2章 山エルフ編 第2話 告白
「そういやレオン様、あのときは大騒ぎされていましたよね。蜂に刺されたとかいって、何であんな変なことをされたんすか」
「あのときって……いつの話だ?」
「レオン様は、ひょっとして露出が趣味っすか。もしかして変態っすか?」
「あほか、そんな訳あるか! それから疑問文を疑問文で返すんじゃねえ!」
「そういや、坊ちゃまは異世界の知識にお詳しいそうですが、何でも異世界には鉄の馬車があるのだとか」
「ほう、それはいい質問だ。実はな……」
「そうそう。お兄様は女の子に言い寄られると、いつも恥ずかしそうにもじもじされておられます。どうしてはっきりとお断りされないのですか」
「い、いや、だって、女の子に冷たくするのは、何だか申し訳ないだろ……」
「何ですかそれ! いつもお守りしている私の身にもなってください。セリスも女の子ですよ!」
「全く……。レオン様って、いっつもそんなんっすよね。はっきりしないというか優柔不断というか」
「ぷっ、わっはははは! 王国ナンバー2の剣士が優柔不断とは。坊ちゃま、そりゃ傑作ですな!」
おい、そこ、笑いすぎだ! 少しは遠慮しろ!
こんな感じで、俺たちは楽しく食事を続けていたのだが……。
お、おい、ち、ちょっと待て! 何だか俺の話だけが続いているぞ。
「そう言えばレオン様って……」
「な、何だ」
「街に出る度に、エルフや獣人の女の子がつきまとってきて自分らは困ってるっす。でも、当のレオン様本人は、何か嫌そうじゃないような気がするっす」
「お、お兄様!」
い、いや、セリス。それは違うからな。頼むからわかって欲しい。
「誤解だ。俺も困っているんだぞ!」
…………。
「ええい! さっきから、本当~に、俺の話ばっかりじゃないか!」
俺は、文句を言いつつも、ドラゴン肉に付いていた骨を皆にばれないようそっと取り出して、ナイフで真四角に削っていく。
そんな俺を見遣りながらも、モルトは、ほっぺたを膨らませ、口をもきゅもきゅさせている。
「レオン様も、もう少ししっかりして欲しい所っすね~」
はなはだ失礼な奴ではあるが、それはともかく、こいつは、今、俺が何をしようとしているかまでは、わかっていないようだ。
そして、モルトは、また余計なことを言いだした。
「そういや、レオン様って王都に好きな人とか残してきていないんすか?」
こ、こいつは……何てことを言いだすんだ!
セリスは、モルトの言葉を聞くや否や一瞬にしてすっと冷めた表情になった。
ちらりと俺の態度を確認するや、静かに脇に置いたレイピアを引き寄せている。
いや、セリス! それを一体どう使う気なんだ?
「お兄様……」
「は、はい?」
「お兄様、私は……」
「い、いや、そんな子なんていない。本当だ! 信じてくれ!」
「あれ~。でもいっぱいプレゼント貰っていたじゃないっすか。何であの女の子たちは泣いてたんすか?」
も、モルトの奴~!
目の前のセリスこそ、レイピアを抱えて泣きそうな顔をしているじゃないか! お前、どう責任とってくれるんだ!
「そ、そうなのですね……お兄様。よくわかりました」
いや、何もわかっていないと思うぞ! 勘弁して欲しい。
「ち、違う! 大丈夫だ。俺は無実だ」
今にも泣きそうなセリスを目にして、俺は、仕方なく覚悟を決めた。何てことだ。……本当に仕方ない。少々、恥ずかしいけれど、白状してしまうしかないのか。く、くそっ! それもこれも、全部お前のせいだからな、モルト!
俺は、大きく息を吸うと、心もち声を張るようにしながら、皆をゆっくりと見回して、こう宣言した。
「はっきり言おう! ボッチの俺には、特定の女性はおろか友達すらいない!」
…………。
「何だが、涙が出てきたっす」
お、お前が言うな! 何でこんな恥ずかしいことを宣言しなくちゃならんのだ! 俺の方こそ、泣きたくなってきた!
「お兄様、大丈夫です」
何が大丈夫なのか、よく分からないが、どうやらセリスには理解してもらえたようだ。涙をそっと拭いて、微笑んでくれているのだから、そこは間違いないだろう。
ところでモルト! この恨みは一生忘れないからな!
◆
「俺の話以外、何か無いのか?」
俺は、さっきからナイフで、ドラゴン肉に付いていた骨を真四角に削っている。試しに転がしてみて、うまくいくことを確認してから、六つの面にそれぞれ一~六の数字を書いていく。
……よし、出来た。我ながら会心の作といってもいいだろう。
「ここから先は、お前たちが話をする番だ。誰の話になるかは、この骨を転がして出た数で決める。モルトが一と四、セリスが二と五、カールトンが三と六だ」
いまいち意味を掴めていない三人に、俺は丁寧に説明を繰り返した。
「いいか……自分が話す番になったら、他の者からの質問には、正直に、本当のことを答えないといけない」
フフフ……モルトめ、観念するんだな!
「さて、第一投目だ。皆、心の準備はいいな」
俺はそう言って、サイコロをコップに入れ、軽く振った。俺たちは、シートを敷いて、車座になって食事をしている。俺は、テーブル代わりの鞄の上に、サイコロが入ったコップを被せるように置いた。
「よし、取るぞ……」
…………。
俺たちは、無言でコップの中身を凝視していたのだった。出た目は……。




