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第6章 独立編 第25話 女王

 

 大陸南部では、権力者の葬儀に際し後継者が喪主を務める。

 これにより即位式を待たずして次の継承者を内外に示すことになるのだ。

 そして、この度のリューク王の葬儀に際して喪主の席についたのは俺ではない。


 そこには、緊張の面持ちのイザベルが座っていたのだった。

 実父の死に取り乱すこと無く、弔問客に対応する姿は立派だと、各国の要人たちからも高く評価されたようである。



 ◆



「レオン様、長い間お待ちいただき、すいませんでした」


 葬儀も無事終わり、俺たちはイザベルを伴ってブラックベリーへの帰路についていた。


「俺なら大丈夫だよ。剣術に読書に街の散策に、したいことはいくらでもあるからな。イザベルは、自分の体を労わってくれ」

「ありがとうございます」


「それより、ハウスホールドの女王が俺にそんな丁寧に話すなんて、何だか変な気もするな」

「そ、そんな……イザベルはイザベルです。私は、どこまでいってもレオン様をお慕いするひとりの女に変わりませんもの」


「イザベル」

「はい。レオン様……」


「今更なんだが、イザベルはよく女王を引き受けてくれたな」

「実務は臣下の者がやってくれますし、それに……大切な跡継ぎがここにいますから」


 イザベルのお腹には新しい命が宿っていた。この子こそ、大陸の覇者としてハウスホールドを担ってくれることだろう。

 妊娠が分かってからというもの、俺は王都から旧公爵家のメイドたちを多数呼び寄せ、出産準備に万全の体制を敷いたのである。イザベルは次の即位式まではブラックベリーでゆっくり過ごすそうだ。


「レオン様! 今動きました。こんなにお腹を蹴り上げるなんて、元気な男の子に違いありませんわ」


 そう言ってほほ笑むイザベル。髪をかきあげるその横顔は出会ったときと変わらず、今もクラクラするほど美しい。


「イザベル……」


 うっとりとした瞳で俺を見上げるイザベル。

 か、可愛い……。



 くっ、俺としたことが、本能を理性でねじ伏せようとしているのだが、もはやこれまでのようだ―――。


 “ちゅっ”


「きゃっ」


「ごめん。嫌だったか?」

「いえそんな……ですが、こんな昼間で人目がありますのに……好き」



 ――――――



「お兄様!」

「うわっ!」


 イザベルに見とれていると、後ろから急に腕を引っ張られた。

 まるで力づくで現世に引き戻されたかのような感覚である。


「レオン様、ニーナたちも構って欲しいですの~!」

「イザベルちゃんは、今が一番大切な時なんですから、無理をさせてはいけません」

「イザベルちゃんは船室で休んでもらって、レオン様は私たちと過ごしてくださいまし~!」


「レオン様、今日は少し波がありますので、その方がよろしいかと」


 俺たちの騒ぎを聞きつけたのか、ネグローニがわざわざ忠告に来てくれた。


 ちなみにネグローニはめでたく結婚し、俺にちょっかいをかけてくることは無くなった。ハウスホールでいい人に出会ったのだとか。


 山エルフの正装もイザベルがキールを説得して自由化されたそうで、ネグローニも他の船員たちと同じく、白い布を体に巻くスタイルである。


 俺たちを乗せた船はブラックベリーに向けてゆっくりすすんでいったのである。



 ◆



 翌月、即位式を終えたイザベルとキールの元に、剣聖シーク=モンドが参内していた。


「女王様、そして皇后さま。老いぼれの最後の頼みを聞いてはもらえないでしょうか」


「……」


(ほれ、女王、答えんか)


「あっ、は、はい。シーク久しぶりですね」


 キールに肘でつつかれて、はっとするイザベル。その初々しい姿に周囲の者も控えめながら温かな笑顔を浮かべている。


「恐れ多いことでございます」

「苦しゅうない。そちの望み、遠慮なく言ってみてください」

「ははっ。実は……」


 シークの最後の頼みとは、最後に真剣勝負がしてみたいということ。互いに真剣で臨む勝負をし、死んでも本望なのだとか。運よく生き残ることができれば、どこか静かな所で余生を送りたいという。


「しかし、シーク殿。そなたがそうまでして闘いたい者など、この大陸中探しても果たしておるかの」


「恐れ多いことですが、某は、レオン殿下との真剣勝負を所望したく……」

「それは危険じゃ。二人とも我が国いや大陸の宝なのじゃぞ」


「何をおっしゃられます。カルア海を中心とした大陸南部は今や多くの船と人が行き交い、頼もしい若者がどんどん育っております。宝とは人。今やハウスホールドは宝の山に囲まれておりますぞ。某の命など今更惜しいものではありますまい」


「しかし、そなただけでなく、レオン殿にもしもの事があれば……。のう、イザベル」

「レオン様にもしものことなど万に一つもございませんでしょう。あの方はお強い。私が初めて立ち会った試合は、女王様もご覧になられたとか」

「はい……」


「あの試合、実力では某の敗けでござった。それから今まで運が良かったのか悪かったのか、一度も剣を交えることなく過ごして参りました。最後に己の剣がレオン殿にどれほど通用するのか試してからあの世に行きたいのです」


「……わかりました。シークの最後の望みかなえましょう」


「うむ……女王が許すなら、わらわからは何も申すことは無いわ」

「ありがたき、幸せにございます」


 この後、ハウスホールドは女王イザベルの命の元、国を挙げて試合の準備がすすめられたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作中でどれだけ時間が流れたかわかんなくなってきたぜ。 [一言] これで死んだら幸先悪いぞ(゜Д゜;) それからご懐妊! いやぁめでたい( ´∀` )
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