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第6章 独立編 第21話 新婚生活

 

「イザベル様、お茶をお持ちいたしました」


(レオン様……)


 盛大な結婚式を挙げ、夢にまで見たレオンとの結婚生活が始まってしばらく経つというのに、いまだイザベルは夢見心地である。


 朝食後、午後の予定まで時間のあるイザベルは自室で寛いでいた。


「イザベル様、今夜のお召し物はいかがいたしましょう」


(幸せ……)


 いまだにどこか、ふわふわして、足元がおぼつかないような気分になるときがある。天蓋付きの豪奢なベッド。枕元には王都から連れて来たクマの『レオンくん』。


「レオン様は、昨夜「俺が忙しいときは『レオンくん』を自分だと思って欲しい」なんて言ってくれました。なんて優しいお言葉なのでしょう」


(……好き)


 イザベルは、ティーカップを傾けつつ、頬を染めている。


「イザベル様、そろそろお茶をお入れいたしましょうか」



(……えっ?!)


 マリーに声をかけられ、イザベルは初めて自分がずっと空のティーカップを傾け続けていたことに気付いたのだった。



 ◆



 イザベルにとって何よりも新鮮なのは、セリスとニーナという初めての親友の存在。レオンが不在のときなどは、三人で遊ぶことも多い。


 この前は昼間セリスの手ほどきで乗馬を楽しみ、その後はニーナに教えてもらって一緒にスイーツ作り。もちろん午後のお茶で美味しくいただいた。

 イザベルはというと、二人に上流貴族のマナーを教えている。その上、王都でもセンスのいいことで知られたイザベルはお洒落にも詳しく、今ではセリスもニーナも買い物の際には、すっかりイザベルを頼るようになっている。

 先日も王都からブラックベリーに進出してきたばかりのお店に行って買い物を楽しんだ。



「王都では、何といっても丈の短いスカートが流行ってますの」

「ええっ! イザベルちゃん、こんなの履いたら下着が見えちゃうよ」

「殿方の視線を釘付けにしつつも、絶対に見せないのが淑女のたしなみですの」

「ニーナは山エルフの正装よりこっちの方がいいですの~」

「でも私、何だか恥ずかしいよ」

「セリスちゃんも絶対似合うから、早く試着してくださいまし~」


 笑顔でポーズを決めるニーナに急かされ、セリスも試着&購入を決めた。

 その後は三人ともさっそくミニスカートに着替え、ブラックベリーの大通りを闊歩。街の男性たちの視線を釘付けにしてきたのだった。

 ちなみにこのことは街でちょっとした騒ぎになり、きょとんとするニーナをよそに、セリスとイザベルは、お付きの侍女たちからこってりと絞られることになったのだった。




 イザベルには今までもそれなりに仲の良い友達はいたのだが、これほどまでに対等で気の置けない存在はいなかった。

 イザベル自身は気にも留めていなかったのだが、周りの者が常にイザベルの顔色を窺う環境で育ってきたせいか、自然とそういうものだと思ってきた。

 周囲から見れば常軌を逸するようなわがままぶりも、本人からすれば口にすれば全て叶ってきたのだから、それが自分にとってごく自然でしごく普通のことだったのだ。


 ところがレオンと出会い、初めて自分が思い通りにならない目に遭った上、イザベルに対して遠慮せずあくまで対等に接してくれる友達が出来た。

 セリスとニーナは親切で優しい。もちろんそうはいっても個性は強いのだが。

 ささいな事で言い争いをすることもあるけれど、それはそれとして三人とも割り切っている。

 こう見えて全員さばさばとした性格同士だったことも、仲良くなれた要因だろう。


 ところがお付きの者たちは主人たちとは違い、それぞれ対抗心を持っているようだ。裏で誰がレオンの第一子を産むかで張り合っているという。


 先日、ハウスホールドからリューク王とキール王妃を館にお迎えする時もこんなことがあった。



 ◆



「ちょっと、そこは代々クラーチ家の者の席です」

「は? まさかキール王妃のお子であるニーナ様に席を譲れと?」

「それを言うなら、イザベル様こそリューク王の実子。しかもグレンゴインとハウスホールド、二つの王室をご実家に持たれております。イザベル様が上席につかれるのが当然かと」

「実家の権力をかさに着て横車を押すなんて、まさに『悪役令嬢』の所業ですわね」

「な、なんてことを! 言うに事欠いて『悪役令嬢』だなんて!」

「もうこれではらちがあきませんわ」

「それでは、席についてはレオン様に決めてもらいましょう」


「…………」



 ◆



 それぞれ家臣団の忠誠はありがたのだが、当の自分たちがそれほど気にしていないことまで、気をまわされるのは逆に迷惑というもの。


 結局、三人の序列は、誰が跡継ぎたる第一子を無事出産するかにかかってきそうだったのだが、レオンは、将来生まれるかもしれない我が子には国を継がせず、二代目の王はしかるべき人物に禅譲ぜんじょうすると宣言。

 しかも、子宝に恵まれないときは養子を貰ってもいいという。


 大陸貴族の女性にとって、王の妃になるのはこの上の無い名誉であると同時に、後継者を産むという半端ないプレッシャーを背負うことになる。

 レオンなりの妻たちへの気遣いなのだろう。



 ◆



 レオン様と腕を組んでの四人での散策。

 もちろん二人っきりの方がいいに決まっているが、こうして、みんなでわいわい過ごすのも楽しい。


「ちょっとセリスちゃん、レオン様とくっつきすぎですの~」

「私は今までお兄様をお守りしてきたの。当然これからもお守りするのは当然よ」

「ニーナからお守りなんてしないでくださいまし~!」


 自分はこの二人よりレオン様と一緒にいた時間は少ない。だけど、その分これから取り返そうと思う。


「どうしたイザベル、元気ないな」


 心配そうにのぞき込まれるレオン様。

 私はさっと両手を伸ばしてきれいな黒髪を包む。


「ん?! ……ぷはっ、イザベル?!」


「お兄様! 隙だらけだからこんなことになるのです!」

「イザベルちゃん、ずるいですの~!」

「うふふ……早い者勝ちですわ」


 レオン様を巡ってのこんな言い争いも楽しい。

 とにかく、新婚生活は、何から何まで新鮮で刺激的。


 愛する人と二人の親友に囲まれて、イザベルは自分が新しく生まれ変わったような気分を満喫しているのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >仲良くなれた原因だろう。 個人的な意見ですが、原因だと悪い印象な感じがします。要因とかなら大丈夫……かな?(;'∀') [一言] >王都では、何といっても丈の短いスカートが流行ってま…
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