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第6章 独立編 第18話 第一回大会

 三か月後。


 大陸中に宣伝を行い、満員に膨れ上がったコロシアムの落成記念として第一回大会が催された。大陸中の名だたる騎士団や冒険者ギルドに告知して選手を集めたということだ。

「自慢のカードを並べたっす!」と、モルトが胸を張るだけあって、なかなかのメンツが並んでいる。

 全八試合の後には騎馬レースが行われることになっている。

 

 大会に先立って、ハウスホールド軍総司令にして生ける伝説とも呼ばれるシーク=モンドによる演武が予定されている。実はシーク=モンドとメインイベントで俺との試合を交渉をしていたのだが、どうにもまとまらず、せめて演武だけでもと来てもらったのだ。


「レオン様、いよいよっすね!」

「ああ。それにしても満員札止めの大観衆は壮観だな。モルト、よくやってくれた! さすが俺の右腕のことだけはある!」

「そんな~。それ程のこともあるっす~♪」


 俺はもふもふ尻尾を揺らすモルトと共に、特別観覧席から観覧することにしたのだった。


 ◆


 静まり返る観客の前でシークは淡々と型を披露した。


 そしてひとしきりの演武を終えた後、最後に中央に立てられた巨大な丸太を一閃。


「…………」


 終始無言のまま客席に一礼し、帰っていくシーク。


 丸太はそのままに見える。

 一体何事かとざわつく観客席。


 すると……。


 無人となった試合場に据えられた丸太の柱が、音もなく斜めに滑り轟音と共に倒れた。


「うおおおお……!」


 観客がどよめいたのはその斬り口の凄さだけではない。

 どういう訳か、真っ二つに斬られた丸太の斬り口から火が付き、たちまち炎に包まれたのだった。


「レオン様、これは一体、どうなってんすか?」


 モルトは、シークから演武に際して、出来るだけ丈夫で太い丸太が欲しいと注文を受けただけだという。俺も毎日の日課である立木打ちの稽古では、煙や火が点くことはあるが、このようなことは出来たためしがない。


「とにかく、俺には手が届かない武人という事は確かだ」

「凄いっす……」

「ああ……」


 コロシアムの観客からは、地鳴りの様な歓声とスタンピードが巻き起こり、記念すべき大会が始まったのだった。


 ◆


 試合は順調に進み、観客の盛り上がりもまずまず。俺は序盤の数試合が終わった時点で大会の成功を確信した。特に試合への出場はかなわなかったものの、シークを引っ張り出してくれたおかげでこの大会にも箔が付いたというものだ。


「しかし、モルト……。俺の対戦相手なんだが……」

「何すか、これしかないっしょ!」


 そっぽを見ながら口笛を吹くモルト。

 こいつ、ひょっとしてどっかからワイロでも貰ってんじゃないだろうな。


「人を疑うなんてひどいっす~! 自分はコミッショナーとして、どの権力にも屈せず最高のカードを組んだっす~!」

「で、その最高のカードのメインイベントがどうしてこれなんだ?!」


 何しろメインイベントに出場する俺の相手は、セリス!


「いくら何でも、こんなの無茶だろう!」

「そんなこと無いっす。セリス様にはレオン様と戦って箔をつけて頂きたいっす~!」


 そういやこいつはセリスとも専属選手契約を交わしていたんだった。

 確かにセリスは、王都の騎士士官学校でもかなりの腕と聞いているのだが……。



 試合は、第一試合から第七試合までいずれ劣らぬ好カード。


 パンデレッタもセミファイナルに出場し、レグサスとかいうどこかで聞いたことのある剣士と時間をかけて渡り合ったうえ、最後はいかにもぎりぎりな感じで戦いを終えた。


 この、二人の激闘に会場は大盛り上がりで、足を踏み鳴らす重低音のスタンピードが外まで鳴り響いたのだった。



「レオン様、ご無沙汰しています!」

「お疲れ、パンデレッタ。また腕を上げたな」


 試合を終えたパンデレッタが俺たちの所にあいさつに来てくれた。

 観客は紙一重の試合だったと思っただろうが、こんな戦い方は余程の実力差がないとできる芸当じゃない。相手の力を引き出して最後は自分が勝つ。しかも相手に大きなけがを負わせずになのだから。


「ウチと専属契約して欲しいっす~」

「それは無理だね。第一騎士団の任務もあるし。レオン様の大会だったから出たんだよ」

「そうだぞ。無理言うんじゃないぞ」

「まあ、キミが土下座して頼むんなら、考えてやってもいいけどね」

「きーっ! 悔しいっす~」

 

 相変わらず仲の悪い二人だが、それはさておき、会場を存分に盛り上げたパンデレッタは人気選手になるのも時間の問題だろう。専属契約は出来ないが、次の大会も都合が付けば出てくれるとのこと。俺もいつか対戦したいものである。


「では、俺もそろそろ試合の準備をしてくるよ」

「自分も支度があるっす~」


「おおおおお……」


 試合会場では、レースに出場する騎馬の紹介が行われている。馬券の売れ行きも順調のようだ。俺は観客のざわめきを背に、試合に備えて控室に向かったのだった。


 ◆


「レディース&ジェントルマン! これよりブラックベリー第一回武闘大会のメインイベントを行うっす~!」


「うおおおお〜!」


 アナウンサーのコールに会場はヒートアップ。この試合は特別にモルトが務めている。


「青コーナーより、王国騎士団公式試合無敗、アウル公国近衛師団主席、セリス=クラーチ!」

「おおおおお……」


 セリスの戦歴にどよめく観衆。

 俺は今まであまり意識したことが無かったが、セリスもかなりの使い手であることは間違いない。知名度も俺が世間知らずなだけで、かなりあるようである。


「赤コーナより、アウル公国君主、ドラゴンキラー、『英雄』レオン=クラーチ」


「きゃあ~~~っ!」

「レオン様~!」

「せえのお、愛してま~~~す!」


 観客からの声援に、眉をひくつかせるセリス。


「お兄様! 今回は存分に胸をお貸しください!」


 複雑な俺の心中をよそにやる気満々である。


「もし、私が勝ちましたら、私たち……いや、私のいう事を聞いて欲しいです!」

「別にいいけど」

「本当ですね、約束ですよ!」

「ああ」

「やった!」


 とにもかくにも、会場の大観衆の歓声を受けて、俺は前に進み出たのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 安請け合いしてしまいましたなぁ(;'∀') というかセリスちゃん、君が胸を貸す側じゃないかな今回ばかりは(怒りパワーで)君が勝ってレオン君が君の胸元に倒れそうな気がする(ぇ
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