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第6章 独立編 第15話 騎士団

 

「なるほど、わかった。みなまで言うな。それにしても、いかにもお前さんらしいな」


 ギルドの応接室ではウーゾが笑顔を浮かべて大きく頷いていた。それに対して、少し驚いた様子のマダル。心なしか恐縮しているようにみえる。


「いや、自分はそんなつもりは無いのですが」

「まあまあ、とにかくここは俺に任せてくれよ」

「恩に着ます」


 新興国とはいえ、一国の初代騎士団長と初代ギルド長を務める二人である。お互い言葉を尽くさなくても通じる阿吽あうんの呼吸というべきものがあるのだろう。


「とにかく、お前さんの元部下五十人を何とかしたいっていう事だろ。俺からモルトに言ってやる。なあに、レオン様の気性はよく知ってるんだ。いやな顔なんてしやしないだろうぜ」


「恩に着る。ウーゾさんには世話になりっぱなしだな」

「気にするなって。それよりいいのが手に入ったんだ。一杯どうだ」

「こ、こんないい酒、自分にはもったいないです」

「まあ、いいってことよ。俺も元は酒場の親父だったんだ。たまには客に酒をすすめても許してもらえるだろうさ」


 深々と頭を下げるマダルを制し、グラスに復刻版『近衛騎士団』を注ぎ、常温の水で割るウーゾ。


「そうそう、発売されたばかりの新作うどん今から出前で頼もうと思っていたところだったんだ。二人前頼むからお前も食ってけよ」


「ウーゾさん……」


 この後程なくして、ギルド長の執務室から、盛大にウドンをすする二人分の音が鳴り響いたのだった。



 ◆



「なるほどな……」


 旧領主館、今はアウル公国王城の執務室で、俺はモルトからの陳情を聞いていた。


「レオン様、マダルの気持ちも汲み取って欲しいっす~」

「そういうことなら話は別だ」


 俺が人数を十人と決めたのは、最初から大人数を抱え込めばマダルが苦労すると思った配慮からだった。どうやら、俺は気を使い過ぎていたらしい。


「よし、前回の採用依頼はこの場で撤回することにする。それに代わり騎士団の副団長以下の人数や編成は一任するから採用をすすめるよう、マダルに伝えてくれ」

「さすがレオン様、惚れ惚れするような太っ腹っす~♪」



 ◆



「おおおおおお……レオン様!」


 モルトから俺の許しを伝えられたマダルは血の涙を流して号泣したという。


 さすがに、副騎士団長を五十人以上をいきなり副騎士団長にするのは無理だったようが、結局は全員一般騎士団員からのスタートという事で落ち着いた。


 旧帝国軍が中心となった我が国初代騎士団なのだが、そのあり様は、かつてのそれではない。我がアウル公国第一騎士団は、結束から練度に至るまでかつてないものとなるのであった。


 その後、マダルは寝食を惜しむがごとく、騎士団の設立に奔走。見かねた俺が強制的に長期休みを取らせたほどである。

 そのやる気は認めるが、労働者に対して、一日八時間にして、週四十時間以内の拘束時間を基本とする我が国において、寝食を忘れて働き続けるマダルの心意気は誠に天晴。

 しかしそれはそれとして、このような風潮が周囲の者に伝播してしまうのは避けたい。

 マダルの働きぶりは、一個人としては尊いのだが、一歩間違えばこれが称賛されるべき特殊な事例としてではなく、皆が目指すべきモデルに思われるのは心外。

 そんなことになれば、我がアウル公国の労働環境は限りなくブラックなものになるに違いないからだ。


「とにかくマダルには一か月の有給休暇を命じる! 俺の国で働く以上、いくら自主的でも、こんな無茶な働き方をしないように。上に立つものとして、自分の行動がもたらす影響も考えて欲しい」


「おおおおおお……レオン様!」


 モルトから俺の言葉を伝えられたマダルは、またしても血の涙を流して号泣したという。


 こうして、現場主導での採用と研修が行われ、翌月には旧帝国軍幹部からなるアウル公国騎士団が正式に発足することになった。


 後にアウル騎士団を視察に訪れたハウスホールド総司令長官のシーク=モンドは、所用でブラックベリーを訪れた際、この新設されたばかりの若い騎士団を視察し、驚きと感嘆の意を込めてこう称したという。


「この騎士団の高潔さ、古今東西比類なし。その魂の純度は、我がハウスホールド騎士団の及ぶべくも無い。彼らこそ大陸における武人の鑑である」と。


 このシークの言葉がきっかけで、アウル公国とハウスホールドの間で騎士団の交換留学と技術交流の制度が始まることになる。


 後に鉄の結束と忠誠をうたわれ、騎士団の鑑とまで言われたアウル公国騎士団はこうして誕生したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うお!カッコいい!
[一言] 心配になるくらいマダルさん凄い事してるね(;'∀')
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