第6章 独立編 第12話 騎士団長
一方、マダルは平静を装ってはいるものの、心中はとても穏やかというものではない。
しかし、この試合に臨み、剣を交えて悟ったことがある。
これは試合じゃなく、あくまで面接試験なのだと。
自分の目の前で、真剣を大上段に構えるレオン様は、対戦相手であると同時に面接官でもあり上手く行けば将来の雇用主。
ならば、姑息な小手先のことで勝ちを拾いに行くことなど無用。かと言ってこちらからは仕掛けにくい。何しろ、剣の腕では自分はレオン様の足元にも及ばないのだ。彼我の力量を正確に見積もることにかけては自信がある。何しろ自分は、帝国軍を生き抜いてきたのだから。
この立ち合いは、新設されるアウル騎士団の幹部として、自分より明らかに強い敵と相対したとき、冷静に適切な行動が取れるのか。そのように試されているような気がする。
あくまで気がするだけではあるのだが、今となってはそれに賭けるしかない。
「ふうぅぅぅ……」
マダルは、レオンと同じく大きく上段に構えると、静かに息をすべて吐いたのだった。
◆
ん?
俺は目の前の気配が明らかに変化したのを感じていた。
このマダルという剣士。さっきから、たまに剣先を揺らしたり、ふと気を抜いたりして、誘ってくるような素振りが見える。
ところが次第に動きが緩やかになってきたかと思うと、剣を中段に構えたまま動きを止め、呼吸を整えているようである。
ギルドからの報告は、全て俺の頭に入っている。
本人はどう思っているのか分からないが、確か東トーチ砦の司令官を務めていた際、砦前の落石により補給路が塞がれた状況で、状況を確認した後、すみやかに逃散したという。
そのことに対して、俺はかなり評価をしている。
で、そのような優秀な守備隊長は、このような状況でどう振る舞うのか。
俺としては興味深々である。
「レオン様、気を付けるっす~!」
「……!」
マダルは何の予備動作も見せないまま、俺の呼吸の継ぎ目の一点をつくように、一気に距離を詰めてきたのだった。
◆
「ん?……ここは?……」
マダルが、目覚めたのは、見知らぬ部屋。
意識は取り戻したものの、体はほとんど動かない。
意識があるから、どうやら命だけは持ち帰れたようだ。しかし、五体満足なのかどうかはわからない。僅かに首と利き手が動かせるくらいである。
そのまま身じろぎもできずにベッドにいたのだが、半刻ほどすると馴染みの声が聞こえてきた。
「おう、目覚めたか」
今の状況が、まだよくつかめないマダルの目に飛び込んできたのは、お世話になった大柄な犬人族。
「バド、すぐモルトに伝えてくれ」
「わかりました」
「これはウーゾさん! 俺の試合……いや、面接は?」
「そりゃ、もう結果は出ているさ。それより、頭はまだ動かさない方がいいぞ」
そう言って微笑むウーゾ。
「何から何まで申し訳ありません」
「いや、こちらこそ感謝してるんだ。何しろ応募しようなんて命知らず、居そうもなかったしな」
そう言って、“ガハハ”と大口を開けて笑うウーゾ。
「正直申し込みは有り難かったんだ。あと一日待っても、誰も来なければ、俺があんたに直接声をかけるつもりだったんだ」
「採用はともかく、試合はどうだったんですか。俺は途中までしか……」
「何だと? お前ホントに覚えてないのか?」
「はい」
あの試合、レオン様は、噂に違わずの実力だった。こちらの実力を図るためだろう、なかなか動かない俺を動かせようと、わざと隙を作ったり。試合をしながら、俺は自分の器を覗かれているような思いだった。
あきれた表情を浮かべながらウーゾが話してくれたことによると、自分は思いの外善戦したらしい。自分自身は打ち込んだ後の記憶は無いのだが。
俺の一撃をレオン様は、僅かに上体を動かして躱した。
俺としては当然躱されることは想定済みで接近戦での組打ちに持っていく腹積もりだった。
剣を放してレオン様の両腕をつかむ俺にもレオン様は動じる風なく、一瞬の気合と共に、俺の両手を跳ね飛ばし、至近距離から一閃。
俺は一撃のもとに吹っ飛ばされたのだが、こうして生きているのは峰撃ちのおかげである。
レオン様は、俺に当たる直前で、くるりと剣を回転させ、片刃剣の背中にての寸止めしてくれたという。
俺は真後ろの壁まで吹っ飛ばされ、後頭部を強打して今に至っているのだった。
このあたりの記憶がないのは、自分の未熟さゆえだろう。
「それにしても、レオン様相手によくぞ戦ったもんだぜ。さすがは元帝国軍司令官だ」
「ウーゾさん、それは言わないで欲しいです」
「おっとすまん。嬉しくてつい口が滑っちまった」
「…………」
俺はただただ恥じ入るばかりである。
◆
「さすがはマダル。帝国軍でも要職を務めていたことだけのことはあるな」
「レオン様も、苦戦されたくらいっすからね」
「ああ。すぐにウーゾに契約の件を詰めるよう伝えてくれ」
格上の相手に、待って受けるようでは、勝てるはずはない。
慎重に間合いをはかり、不意打ちからのカウンターしかないだろう。
慌てず慎重に自分に取れる範囲の中で最善の策を選択して実行したマダルを讃えてやりたいと思う。
変に姑息な手段を取らず、真正面から来てくれたことも、個人的に嬉しかった。
「とにかく、マダルのこと、よろしく頼むぞ」
「すぐに行ってくるっす~!」
こうして、俺は無事、アウル公国初代騎士団長を決めることができたのだった。




