第6章 独立編 第10話 清算(マダル視点)
翌日、数人の元部下たちと共に、俺はギルドに併設された訓練場に出向いた。
昨日ギルドで、募集要項を持って受付の列に並ぶやいなや、ギルドの職員に案内され、そのまま執務室に通されたのだった。
上機嫌のギルド長たちに歓迎されたあげく、一次免除でいきなり今日の実技試験となった。王都で世話になったウーゾさんから頭を下げられた以上、俺もどうこう言うつもりはない。
「マダルさん、大丈夫ですか」
「今ならぎりぎり、引き返せますよ」
「そりゃ、同じ仕事するなら軍人がいいですけど、何もマダルさんが命をかけなくても……」
「心配するな。これは自分のケジメだ」
理不尽な目に遭いまくった、先の大戦。
まあ、それまでも帝国の軍人生活では納得のいかないことは多々あったが。
元部下だった仲間たちのこと、そしてウーゾさんのこともあるが、今回のことは、何よりも自分の中で消化不良だった帝国軍人としてのやるせない思いに対する清算でもあるのだ。
◆
目の前には、アウル公国君主にして『ドラゴンキラー』、英雄レオン=クラーチ。
身長は自分と同じくらいか。
勿論一般的な人間の成人男性よりは長身ではあるが、想像していたより小柄である。黒目黒髪の容姿からは、魔力量の多さがうかがえる。これは、亜人の若い女の子たちが騒ぐはずだ。
そしてその物腰は、柔らかいのだが同時に隙は無い。鼻唄をうたいながら散歩に出かけるような気楽さではあるものの、すれ違いざまに両断されそうな、殺気も混じっている。
これほどの猛者が一国の君主とは……。
「よく応募してくれた。早速始めよう」
こちらを見るなり、笑顔で応えるレオン様。
俺とはかつて敵味方として戦った間柄ではあるが、とにかく一国の君主がこの場でこんな自分に笑顔で語りかけてくれていることが信じられない。
◆
ブラックベリーに新設されたギルドに併設している訓練場は、すり鉢状になっており、百人程度の観客が入れるスペースが造られている。
そして、どこから噂を聞きつけたのか、そこには、満員の観衆がつめかけていた。
そのほとんどが、ギルドの利用者なのだが、中には若い女性も混じっている。ちなみに全員エルフか獣人といった亜人ばかりで、人族の女性は一人もいなかったのだが。
「きゃーっ、レオン様~♪」
「素敵!」
「すうぅ……せえのお、“愛してま~~~す!”」
レオン様は、そんなうら若き亜人女子たちの黄色い歓声にも動じることなく、真剣をすらりと抜いて上段に構えた。
「おいおい、見せもんじゃねーぞ」
相手はそう言うとこちらをみやり、小さく笑みを浮かべた。
最初は、がやがやとうるさかった観客にもレオン様の剣圧は伝わるようで、レオン様が真剣を抜いたとたん、辺りは水をうったかのような静寂に包まれた。
俺は、そのすさまじいまでの剣圧に圧倒されそうになるのを辛うじて踏みとどまる。
やばい……これは、勝てねえ。
正直、端から勝とうなんて思ってもいなかったが、これは本当に勝ち負けよりも、命の持ち帰りを賭けた試合になりそうだ。
「畜生……」
東トーチ砦で敗けて逃散した挙句、ここでもまた敗けるのか。
いや、勝ち負けなら応募を決めた時から、自分では勝てるはずがないということは分かっていた。
相手の力量を推し量る力には自信がある。
なにしろ、帝国軍に身を投じて以来、これまで幾多の戦場をくぐり抜けてきたのだから。
そして、真剣での戦いとなると、ケガを負って負けることになろうとも、命は持ち帰る自信はあった。
しかし……。
今回だけは、余りにも力の差がありすぎる。
正面からぶつかり、玉砕するか。
それには最悪の場合も想定に入れねばなるまい。
では、こちらからは仕掛けず、カウンターを狙うか。
いや、レオンの剣は一撃必殺。何しろ「二の太刀を疑わず」などと言われている程だ。
相手の仕掛けを待つなど愚の骨頂。
幸い地面は砂地。砂を巻き上げ目つぶしを喰らわせて切り込むか。
いやいや、これはあくまで採用試験。
互いに真剣を抜いて相対するという異様な状態ではあるが、試験である以上、自分の力を評価してもらわなければ。姑息なことは、査定上、マイナスにしかならないだろう。
では、どうすれば……。
そう言えば、ハウスホールド第一騎士団長のパンデレッタは、剣聖シーク=モンド以外で、唯一レオンに勝った人物だった。
ならば、レオン様の初太刀をいかに防ぐかにかかっているのだが。
こちからら仕掛けつつも、相手に仕掛けさせるように誘うか。しかし、全く隙が無い以上、こちらも軽々には動けない……。
「うっ……」
ここまで、思考を巡らせていたマダルは、初めてレオンが、構えたまま静かに目を閉じていることに気付いたのだった。




