第6章 独立編 第7話 結婚式
大戦後しばらくは、捕虜の返還や戦後交渉で慌ただしかったハウスホールドも、ここ最近はようやく落ち着きを取り戻していた。
そして今日の良き日、ハウスホールドは建国以来、最大の慶事を迎えていた。
街は大陸中の招待客や観光客で溢れ、いたるところに露店が立ち並び王家からの振る舞い酒が配られている。
午後からは、新郎新婦のパレードがあり、夜には港から盛大な打ち上げ花火があるということで、街は祝賀ムード一色に彩られていた。
◆
結婚式の会場である王宮の会場横に設けられた王家の控室では、純白のドレスに身を包んだイザベルが、緊張で顔をこわばらせるリューク王を励ましていた。
「お父様、お気を強くお持ちください」
「……」
「そろそろ入場の時間ですわ」
「も、もう少し待ってくれないか。こ、心の準備が……」
「もう。お父様ったら! 古の『賢王』の再来なんて言われておられますのに、お覚悟が足りませんわ」
「いや、それとこれとは話が……」
「もう! 王国のお父様とお母様も待っておられるのですよ」
「……そ、それもそうだな」
「行きますよ、お父様!」
「……う、うん」
イザベルは緊張でガチガチのリューク王の腕を取るや、会場へ向かっていったのだった。
◆
一方、こちらはインスぺリアル家の控室。
「お母様! 今日という今日はニーナのいう事を聞いてくださいまし~」
「うむ…しかし、それにしても……このドレスは、少し大人しすぎると思うのじゃが、どうかの……」
ニーナが用意したウエディングドレスを広げ、不服そうな顔をするキール。どうやら自分が用意してきたウエディングドレスに未練たらたららしい。
「ウエディングドレスにレースのミニスカートなんて在り得ないですの~」
「こちらの方がよく似合うと思うんじゃがの……」
「恥ずかしいですの!」
「そ、そうかの」
「しかも、お母さまがご用意されたドレスは、露出が多すぎますの! これじゃあ歩くたびに、紐みたいな下着まで丸見えですの~!」
「そう言われてみれば……。じゃがその分、色は地味な白を選んだのじゃがの……」
「ダメったらダメですの~! ニーナの気持ちもお考え下さいまし~!」
「そ、そこまで言うなら仕方がないの」
“パチパチパチパチ………………”
盛大な拍手の中、僅かに頬を赤らめながら、ゆっくりとバージンロードをすすむ新婦。
ニーナにエスコートされてキールは、イザベルに腕を組まれたリュークの元へ、ゆっくりと歩をすすめていったのだった。
◆
「ふふっ、リュークよ、そう見つめるな、照れるじゃろうが」
「きれ……だ……」
「ん? もう少し大きな声で言ってくれるかの」
「…き……綺麗だ」
「ほう、そうかそうか〜。まあ当然のことじゃ」
キールはそう言うとリューク王の腕を、自分の胸の中で抱きしめるかのように両手を絡めた。
「毎日言って欲しいものじゃの。ちなみに浮気でもしようものなら、インスぺリアル艦隊全軍で迎撃しに行くから覚悟するがよいぞ」
「そんなこと、する訳ないだろ」
物騒なことを囁きながらも、嬉しそうに寄り添うキールに、恥ずかしそうに頭を掻くリューク王。
「そう言えば、もし……もしも跡継ぎに恵まれなかったときはどうするんだ」
「ほう。結婚式で側室の催促とは、いい度胸じゃの」
目を細めて、リューク王を覗き込むキールに、必死に両掌を振るリューク王。
「い、いや、そのことについては腹案があるのだが……」
「そんなの決まっておろうが。儂もリュークと同じことを考えておったわ」
「そうか……」
「そうじゃ。うふふ……」
互いに見つめあってほほ笑む二人。
その幸せそうな雰囲気に、各国の首脳を招いた来賓席から、あたたかな視線が向けられる。
「何とも、仲の良いお二人ですな」
「お幸せそうで何よりです」
「いや~。本当に仲睦まじい限りですな」
「おうらやましい」
そして、ハウスホールドやインスぺリアルの重臣たちも感極まって涙を流して祝福していた。
「や、やっとリューク様が。これで我らも一安心というもの」
「全く、長かったですな」
「キール様、お美しいのです~!」
「ふぇ~ん!」
「これで、名実ともにエルフの国が一つにまとまりましたな」
口々に二人を讃える家臣たち。今までいろいろと苦労もあったことだろう。
そして、幸せそうな二人は、大陸中の祝福の中、口づけを交わしたのだった。
「お兄様、これで一安心ですね」
「ん?」
何だか、セリスも嬉しそうである。
ちなみにモルトは、相変わらずモキュモキュ言わせながら料理をほおばっている。
「美味いっす~♪」
◆
ここに、長らく独身を貫いて来たハウスホールド王と、夫を亡くし長らく喪に服していた(?)インスぺリアルの女王がひとつに結ばれた。
インスぺリアル領は、ハウスホールド王国に一領地として加わることになったのである。
これにより、先の大戦で荒れたインスぺリアル領は、ハウスホールド王国の全面的な支援を受け、目覚ましい復興を遂げることとなったのであった。




