第6章 独立編 第6話 提案
「レオン様、ギルドが大盛況なんっす~!」
遠慮無しに、もふもふ尻尾を揺らしてご機嫌なモルト。
なんて失礼な奴なんだ。
キールの手前、俺も一国の君主としてガツンと言わねば示しがつかないだろう。
「モルト、お前いい加減に……」
俺の気配を察して、すっと俺の手を軽く抑えるキール。
「レオン様、それどころじゃないっす~♪」
そんな俺の心情などお構い無しのモルト。
こいつは、俺とキールのやり取りなど気付いていないに違いない。その証拠にもふもふ尻尾が、能天気に揺れている。
く、くそ……。お前、いつか思い知らせてるからな!
「とにかく、レオン様! ギルドが大盛況過ぎて、やばい状況なんすよ~!」
俺が国家元首を務めるアウル公国のギルドは、ギルド長にウーゾ、副ギルド長にバドを据え、モルトに統括させている。
モルトによれば、このもふもふ尻尾の活躍に加え、ウーゾやバドがそれなりに仕事をしているせいで、連日大盛況で早急に職員の補充が必要なのだとか。
ちなみに、我がアウル故国は、即位式で俺が述べたように、全ての人を人種を問わず受け入れた結果、人口の流入が止まらない。そして、増えた人口にはそれに見合う分の仕事が必要である。
今の所、塩づくりは専売として国が直接行うが、道路や城壁、公共施設の整備補修などのインフラ整備は、国がギルドに発注する形で移民たちに仕事を与えているのだが、人口の流入に伴う大量の求職者をさばききれないという。
「ギルドの職員が足りないなら、ギルドで職員募集の求人を出したらいいだろう」
「それで何とかなったら苦労しないっす~」
「ふむ。お困りのようじゃの」
それまで腕組みをしながら黙って俺たちのやり取りを聞いていたキールがおもむろに口を開いた。
「儂が優秀な事務員を推挙してやってもよいぞ。何人くらい必要なのかの」
「とりあえず、二十人は必要っす!」
「ほう。では早速リュークのやつに伝えるとするかの」
「ありがとうございます」
「助かったっす~」
「しかし、レオン殿。このままでは、いずれブラックベリーはパンクするぞ」
「………………」
大陸の南北をつなぐ要衝として、わずか数か月で人口は数倍になった。訪れる人がどんどん増え、宿も不足がちだという。
いっそのこと、流入人口に制限をかけたいところだが、アウル公国は誰でも受け入れるなどと公言している手前、出来ればしたくない。
労働者に支払われる大陸一高い賃金と安い物価の調整について、カールやドランブイと相談してみるか。これもできれば手を付けたくないのだが。
「しかし、どうすれば……」
「レオン殿もお困りの様じゃの。そこで、儂から提案があるのじゃ」
自信満々のキールの提案とは、俺の想像を超えたものだった。
「簡単な事じゃ。アウル公国がハウスホールド王国に入ればどうかの」
「…………あ、あのキール様……」
「どうじゃ、良い考えじゃろうが。これで全て問題解決じゃ」
「…………」
言葉を失って黙り込む俺に、キールは雄弁に言葉を続けた。
「ハウスホールドは、亜人の盟主にして大陸南部の中心じゃ。そこにアウル公国がアウル領として加われば、問題なかろう。面倒ごとは、全てリュークの奴が解決してくれるわ」
「だ、ダメっす! クラーチ家はようやく独立したばかりっす! それじゃあまたクラーチ家は辺境伯ってことになってしまうっす~!」
「ふっ……ははは! 冗談じゃ。真に受けるでないわ。実は、儂はブラックベリーの北に大規模な港を作るべきだと思っておる。砂漠の港じゃから『砂港』かの」
「『砂港』ですか」
「うむ。そしてブラックベリーの南にある港も大幅に拡充すべきかの」
「……」
キールの案では港とは言っても、ブラックベリーの北と南に、城壁で囲まれた円形の街をそれぞれ造るというもの。
そして、これら三つの街の真ん中を貫くような大通りを走らせる。
完成予想図は、ちょうど、祖父の書物に出てくる『串ダンゴ』のような形になりそうである。
「ブラックベリーはまだまだ空き地はあるとしても、せいぜい十万人で精一杯。そこでじゃ、北と南に同規模の街を二つ造る。今から着手すれば街がパンクする前に間に合うと思うがの」
「しかし人手や資金はどうしたら……」
「何を言うのじゃ! 我がインスぺリアルの山エルフに加え、ハウスホールド傘下のドワーフや獣人どもがいるぞ。南部諸国は人手は有り余っておる。資金などリュークが喜んで貸してくれようぞ」
「しかし、いくら何でも申し訳ないです」
「何を言うのじゃ。アウル公国の発展は我らの利でもあるのじゃぞ」
「レオン様、やるしかないっす。資金や人手が足りない分は、自分が引っ張ってくるっす!」
もふもふ尻尾を揺らすモルト。しかし、ここまで甘えて本当にいいのだろうか。
「キール様、今から少しお時間を頂けないのでしょうか」
「うむ。儂は少し席を外そうかの」
俺は、すぐにドランブイやカールをはじめ主だった者を集めて緊急会議を開き、その場で新たな街の建設を決めたのだった。




