第6章 独立編 第3話 晩餐会①
(き、緊張した~)
「レオン様、急いでくださいっす~」
即位式を無事終えた俺は、打ち合わせもそこそこに晩餐会を迎えた。
こちらが俺たちにとっては本番なのである。
「なかなかじゃったぞ。さすがレオン殿じゃ」
「いや~。お恥ずかしい限りです」
俺は、グラス片手にキール様とリューク王の元へ。
「それにしても、なかなかの料理じゃの」
「キール様のお口に合えばよろしいのですか」
「何を言うのじゃ。儂が肉に目が無いのは知っておろうに。しかも「~様」は余計じゃ、「キール」でよいと言っておろうが!」
「すいません! キール様ならきっとお気に召していただけるであろう、料理ばかりです。是非味わってください」
「だから「~様」は余計じゃと言っておるに!」
そう言って頬を膨らませるキール。
横で微笑むリューク王は、いつの間にかキールに腕を組まれている。
目が笑っていない気がするが、この後、大陸南部の諸国、そして王国や旧帝国の要人たちを次々に紹介してもらったのだった。
――――――
晩餐会における今日のメインは、大森林で仕入れたドラゴンミートを使った各種料理。
それらの味付けには、ブランド化を進めているドラゴンソルトがふんだんに使われている。
そして、セリスやニーナもいつもの軍服やメイド服ではなく、煌びやかなドレスを身にまとって、外国からの賓客をもてなしてくれている。
「ほう、こちらの肉にはハーブが一切使われてないと?!」
「こちらの『グリーンラベル』は、お兄様……い、いや王自らが発見した源泉からの薫り高い成分が含まれています」
「これらの塩の開発には自分が深くかかわったっす」
「ほう、ほう、それはまことに興味深い。ひとつお聞かせ願えませんか……」
「はいっす~♪」
「何ともいい香りだ。こちらの肉には、香辛料がふんだんに使われているのでしょうな」
「味付けはドラゴンソルト『ゴールドラベル』だけですの~」
「そ、それはまことですか!」
「しかし、味付けひとつで料理の味わいにより深みが出ますな」
「全くです」
「皆様、たくさん召し上がってくださいまし~♪」
大陸において、香辛料やハーブは元々肉の保存に使われていたのだが、最近では料理の味付けとして使われるようになっている。
俺たちの戦略は、まず銘柄入りの高級品を富裕層に広め、ゆくゆくはそれらの廉価版を大陸中の一般庶民に広げることである。
ドラゴンミートの評判も上々。ただでさえ最高級の肉のうま味をドラゴンソルトが引き立てているのだから。
実際の商談については、ドランブイが窓口となり、一手に交渉を行ってもらっている。会場の入り口付近にデスクを構え、早速各国のお抱え商人と交渉中。
ちなみに、今日の晩餐会では、ドラゴンミートとドラゴンソルトの二つに絞ってアピールすることにしたのは、ドランブイの案である。
結果的にこの戦略は大当たりで、客人たちの興味を引き付けている様子である。
採算ベースに乗せるのが難しかったドラゴンミートは、大戦を経た現在、我が領の重要な輸出品になることが見込まれている。
大陸の南北間の交易が活発になったことにより、アウル海を行き交う船が増え、大森林へのアクセスもより容易になったのだ。
これにより、さらに値段を下げることが出来そうだ。
「ラプトルは、送料別で一頭当たり五百五十万アールから六百万アールですが、まとめ買いしていただければ、送料は無料とさせていただきます」
「では早速、十頭ほど頂きたいのですが」
「こっちは『ドラゴンソルト』も大量に卸して欲しいのですが」
「それほどまでの量をお求めでしたら、このくらいお安くできるかと……」
大口の商談が次々に決まってドランブイは得意顔。彼によると、商談を成立させたこの瞬間が一番楽しいのだとか。
そして、商談がひと段落し、俺が各国の王族と一通り挨拶を交わしたのを見計らい、俺たちは、領主館前の源泉前に作った特別スペースにゲストの皆さんを案内したのだった。
◆
「何と、まだ趣向があると?」
「なかなかに、期待が持てそうですぞ」
「これは、前代未聞の晩餐会になりそうですな」
がやがやと談笑する客をよそに、俺はその場で割烹着に素早く着替え、きゅっと前掛けを締める。
さて、ここからは俺の出番だ。
「さあ、みなさん。これから我がアウル領の新たな名物をご披露したいと思います」
俺は目の前の台の上に粉を撒くと、小麦粉の玉をこねる。こねる、こねる……。
そして、ひとしきりこねた後、棒を使って平らに延ばしていく……。
「ほう……」
「これは、大したものだ」
王族は言うも及ばす、ここに並み居る大貴族たちは料理なんてしたことが無いだろう。
国家元首自らが料理を振る舞うというこの趣向は、各国の王族・大貴族たちに軽んじられるかそれとも面白がられるか。
皆、口には出さずとも、新たに即位した俺の力量を計りに来ている。これは一種の賭けである。
(よし!)
心の中で気合を入れ直し、俺は目の前の料理に集中するのだった。




