第5章 争乱編 第52話 新法
「この案なのだが、正直どう思う」
どうやら、キール様はモルトにこんなことを言ったようだが、こんなの世間に通用するのかどうか。俺は最初にやって来たカールに素朴な疑問を投げてみたのだった。
「はい……普通は無理でしょうね。しかし、我がアウル公国は、極めて特異な成り行きで独立した国家です。その特殊性ゆえ、大陸諸国は多少のことなど目をつぶってくれるのではないでしょうか」
「……」
「しかし、これ以上の妙案も無いかと思われます。第一、キール様の御発案であるならば、ありがたくその方針で固めていくのが最善かと」
アウル公国は、独立を果たしたものの、元は辺境伯領だったこともあり、所謂国内法は、グレンゴイン王国のそれに準じている。
しかし、カールによれば、それらの法にある程度“味付け”するくらいなら大陸諸国も目をつぶってくれるだろうということだ。
つまり……これで、心置きなくイザベルを正室として迎えることが出来る……のか??
普通、大陸諸国の王族貴族は、一夫多妻制がとられている。
にもかかわらず、生涯たったひとりの女性のみを愛した俺の祖父は、陰で貴族たちから笑いものになっていたそうだ。
そして、一般的には、この一夫多妻制度の下では、妻たちの間には明確な序列が設けられている。
例えば、正室と側室。そして側室たちの間にも、身分によって細かく格付けが定められているのが普通。
かつては、自分の妻たちを、一番嫁、二番嫁、三番嫁……など呼んでいた王まで居たそうだ。
ところが、キールの提案というのは、複数人の正室を認め、彼女たちを序列を付けずに平等に扱うというもの。
大陸中探してもこのようなことをする王なんて前代未聞。
このキールの案の異様さは、世間知らずの俺でもさすがに分かるくらいである。
「しかしな。普通“正室”なんだから、ひとりに決まっていると思うんだが……」
「だから、一国、もしくは各種族に付きひとりっす!」
「え?」
「いいっすか……コホン」
芝居じみた咳ばらいをひとつした後、もふもふ尻尾を自信ありげに揺らすモルト。
「ハウスホールド王国より、エルフ族のイザベル様、インスペリア領より白狼族のニーナ様、そして、アウル公国より、ドワーフ族とエルフ族のハーフのセリス様。セリス様は、クラーチ家に引き取られることに伴い、人族になられたはずっすので、三人共、どこからどう見ても何も問題ないっす~!」
確かにモルトの言う通り、アウル公国が独立に際して、こんなへんてこな法律を作ったとしても、どさくさに紛れて許させてしましそうだが。
しかし、大陸において貴族家が複数の妻たちを序列化して来たのも、それなりの理由があってのことだろう。例えば、家中であらぬいさかいを起こさぬためとか。
どうも、俺にとって、あまりにムシが良すぎる話に思えて気が引ける部分もある。
そして何より、三人の気持ちをまだ確かめていないし。
「レオン様、ちょっといいですかな。国際都市を目指すわが国からすると、これは決して悪くない法ですぞ」
これまで黙って聞いていたドランブイが身を乗り出してきた。
「どの種族も分け隔てなく接するというのは、レオン様自らが、即位式で各国に宣言される予定の文言にも入っておりますな。それを踏まえた新法の制定は、逆に各国、そして各種族の信用を生みますぞ」
「そこは何となく無く分かっているのだが……」
「イザベル様はもちろんのこととして、ここまで求愛を受けておられるにもかかわらず、ニーナ様やセリス様を袖にするなど、逆に外聞が悪いですぞ」
ドランブイが言うには、ニーナやセリスには、それぞれ応援団が付いているという。ニーナにはもちろん母親であるキールをはじめ、インスぺリアルの山エルフたちが。セリスにはクラーチ家の者だけでなく、王国騎士団が後ろ盾なのだとか。
「とにかくお三方を平等に正妻になさらないと、この先どのような混乱が訪れるともわかりませんぞ。レオン様、そこのところの御自覚はおありですかな」
……すいません。ありませんでした。
「しかもこの案は、キール様の願いも込められているのでしょうな」
自慢の髭に手をやりながら、ひとり頷くドランブイ。
「もうこれは、決まりっすね~」
「では、早速新法の策定に取り掛かっても宜しいでしょうか」
「ぐずぐずしておられるヒマなど無いですぞ」
「……うん」
◆
「ふんふんふ~ん♪ ららららら~♪」
その頃、ハウスホールドに帰る船の中では、上機嫌のイザベルが、廊下に誰もいないことを何度も何度も確認していた。
“よし、もう大丈夫”
「きゃ~っ! レオン様~っ!」
「いけませんわ、そんなこと……」
「まだ、式も挙げておりませんのに♡」
勢いよく船室のベッドにダイブすると、妄想全開でクマのぬいぐるみ『レオンくん』を、これでもかとばかりに、もみくちゃに……。
「きゃ~っ! 嫌ですわ~!」
「い、イザベル様……」
部屋から聞こえる物音と嬌声を耳にして、慌てて駆けつけたメイドたち。
彼女らが、船室のドアの前でドン引きしていることなど知る由もないイザベルなのであった。
次はから第6章です。宜しければ、ブクマと評価、お願いします~!




