第5章 争乱編 第48話 終戦③
「それにしてもレオン殿、ブラックベリーの籠城戦に加え、ドラゴンゾンビの討伐までも成し遂げるとは、誠にあっぱれじゃの」
「い、いや、それ程でも……」
「謙遜しなくてもよいぞ」
「いえいえ。正直、力不足で恥ずかしい限りです」
「全くレオン殿は……何を言うのじゃ」
病床からわずかに首をあげ、苦笑いする俺に、潤んだ瞳を近づけてくるキール。
甘い吐息が頬に当たってるし!
だが、それ以上に、キールの後ろで恥ずかしそうにしているイザベルの方が気にかかる。
「ち、ちょっと待ってください!」
「謙遜するでないわ。レオン殿のご活躍は、大陸無双じゃ。イザベルもレオン殿のご活躍、鼻が高いことじゃろうて。のう、イザベル」
“ふるふるふるふる……”
俺の胸の中で、思いっきり泣いたせいですっきりしたのだろう。イザベルはこちらに背を向け、恥ずかしそうに身をよじっている。
「私ったらなんてはしたないことを……。レオン様に嫌われてしまいましたら、どうしましょう~」
どうやら、イザベルは、すっかり我に返ったようで、部屋中に聞こえる大きな独り言をつぶやいている。
今日のイザベルは、超ミニの純白のフリルの付いたワンピース姿。しかも胸元は大胆に花開き、今にもたわわな果実が零れ落ちそう。
こんな際どい服装のイザベルは初めて見た。
直視すれば、ちょっと気が遠くなりそうである。もちろん俺は、ちらりとしか見てませんが……。
――――――
「レオン殿、レオン殿? ……聞いておられるか? 」
「……あ、は、はい」
「何じゃ、すっかりイザベルに見惚れておられて。レディーを前にして、そのような態度は、ご法度じゃぞ!」
眉間にしわを寄せて、俺を糾弾するキールなのだが、お願いですから、俺の目の前でこぼれそうなお胸を揺らさないでください!
「男のチラ見は女のガン見じゃ!」
え、俺はチラ見すらした覚えはないのですが……。
ここは、話題を変えるに限る。
「こ、こほん……。ところでこの度の大戦におけるキール様のご活躍は、大陸史上、唯一無二の偉業ですね」
「なんじゃレオン殿、いきなりそんなこと言われては、照れるではないか~♪」
「トーチ砦の攻防戦に加え、カルア海海戦の完全勝利、お見事でした。前代未聞の快挙として、大陸史にその名を残されたことと思います」
「うん? そ、そうかの? ふっ……ははははは!それもこれも、レオン殿の戦略のおかげじゃろうが!」
「そんな……感謝したいのはこちらの方です」
正直、カルア海戦のような完全勝利は、大陸史上例が無い。
そして何より、この大戦の戦略におけるキーマンは何といってもキールで間違いない。その功績は計り知れない。
戦略の大枠を提示したのは俺だったのだが、そのための最大の難題として住民のインスぺリアル領からの退去が必要だったのだ。
自分たちの故郷を帝国軍を閉じ込める檻にする作戦など、インスぺリアルの人々が受け入れてくれるのかどうか自信は無かった。まともに話をすすめれば、総スカンを喰らい、悪くすれば暴動すら起こっていたかもしれない。
それをキールは、俺の発案であることを隠して、二人で考えたことにし、山エルフの女王の名の下、領民全員を速やかに退去させてくれたのである。
「とにかく、お互い命が繋がって何よりじゃ」
「全くです」
「そう言えば、あのドラゴンゾンビは『ブルーノ』だったというではないか。伝説級のドラゴンゾンビを相手しての大立ち回り。話を聞いただけで血が泡立つようじゃ」
「いや、お恥ずかしい。見事にやられて、このザマです」
「いやいや、『ブルーノ』と言えば、一匹で大陸を南北に分断せしめた最強のドラゴンじゃぞ。あそこで、レオン殿が倒してなければ、この戦い自体、どう転んでいたか分からんかったの。恩に着ておるぞ」
「こちらこそ、それ以前に『アウル』が駆けつけてくれなかったら、今頃どうなっていたことか……」
「はっはっはっは! そういや、ネグローニの奴が青い顔しておったぞ。裏門を突き破って済まんかったの」
「お気になさらず。間一髪で助けて頂いたのはこちらですので」
「しかし、竜殺しの英雄が建国の王とは、カッコ良すぎるの!」
「いやあ……」
「お、お二人とも、私にも分かるように最初から説明してくださいませ」
「おお、イザベルすまんかったの」
どうやら、イザベルはさっきから俺とキールの会話に興味津々の様子。
俺たちは、少しむくれたイザベルに、この度の大戦について語って聞かせることにしたのだったのだが……。
「しかし、話すにしても、儂はこう見えて物事を筋道立てて話すのは苦手なのじゃ。むしろレオン殿の方が、上手に話してくれるじゃろうて」
「え、お、俺はこの通り、口下手ですが」
「私は、レオン様の口からお話が聞きたいです」
「……」
「ほれ、レオン殿。男なら、女を口説くくらいは、話せんとの」
「……わ、分かりました。出来る範囲でお話します」
こうして、俺はたどたどしい説明を始めたのだった。




