第5章 争乱編 第47話 終戦②
「レオン殿、意識が戻られて何よりじゃ。元気そうで安心したぞ」
アウルの潮風と共に、満面の笑みを浮かべるキール。しかも山エルフの正装である。正直「何してくれるんだ~!」とは思いつつも、今の俺には、キールのこぼれそうな胸より、その後ろの方が気にかかる。
「じ、じゃあ、私たちは炊き出しのお手伝いに行きますから、お兄様は安静にしていてくださいね」
「くれぐれも無理しないでくださいまし~」
「二人とも、ご苦労様じゃの。ブラックベリーの炊き出しは評判が良いという噂故、儂も試食してきたのじゃが、なかなかに美味じゃったぞ」
少しこわばった笑顔で手を振って出ていく二人を見送り、入れ替わるようにキールたちが入って来た。
正直、俺としてはドラゴンゾンビ『ブルーノ』と相対したときより緊張しているのだが……。
「レオン殿、この度は大活躍だったそうじゃの」
「ありがとうございます。ですが……全てキール様のおかげだと思います」
「ふははは……。レオン殿は相変わらずじゃの。そのように謙遜することもあるまいに」
「い、いや俺なんてまだまだですから」
「まあよいわ。だがの、女に対しては、また別じゃぞ」
「あ、あの……レオン様……」
意味ありげにウインクするキールの後に、おずおずと入って来たイザベルが、遠慮がちに声をかけて来た。キールの上着の裾を握り、心なしか後ろに隠れるような仕草のイザベル。
正直俺は最初から気付いていたのだが、あえて目を逸らしていた。
だって……。
「イザベル、久しぶり」
「はい、レオン様」
「見舞いに来てくれたのか。ありがとうな」
「……は、はうううっ!」
顔を真っ赤に上気させ、両手で頬を覆いながら身をよじるイザベル。キールにならってイザベルも正装。純白のドレスの胸元に付いた、カルア海のような青い宝石が輝いている。
ハウスホールド王室の血をひき、王国一とも呼ばれるその美貌。正直、可愛すぎます。
そして、かくいう俺も……。
「レオン殿、顔が真っ赤じゃぞ。また熱が出てきたのかも知れんの。どれ、儂が診てやろうかの」
「ち、違いますって!」
……や、ヤバい! 俺は今までまともにイザベルとしゃべったことなんて無いぞ。
というか、義妹のセリスや幼馴染のニーナ以外、俺は歳の近い女子と話したことすらないんだった。すっかり忘れてた!
今は、キールがいてくれるおかげで、何とか間は持つのだけど……。ど、どうしよう。
「「…………」」
「初々しくて羨ましいぞ。儂の若いころにそっくりじゃ」
お互い、ちらちら見つめ合いながら、目が合ったらすぐに逸らす二人。
そんな俺たちを、キールは、生温かい目で見つめていたのだった。
「ところでレオン殿、体の方は大丈夫かの」
「はい、おかげさまで少しは動けるようになりました」
「まだ無理をせぬ方が良いぞ。安静第一じゃ」
そう言いながら、キールは、俺の枕元にあったフルールを手に取るや、ミニスカートをひらりとめくってダガーを取り出し、そのままするすると皮をむきだした。
「ほら、レオン殿、あ~ん♡」
「ち、ちょっとお姉さまっ!」
「何じゃ、イザベル。そちも羨ましいなら、自分から一歩足を踏み出すがよいわ」
「そ、そんなこと……」
「い、いやキール様、大丈夫です。自分で頂きます」
「何じゃ、面白くないの」
「よいしょっと……何とか自分で体も起こせそうです」
「こ、これ! 無理するでない」
「いや、これしきの事、もう平気ですから」
「レオン様、安静にするようにとか無理しないようにとか言われたばっかっすよ~」
「これくらい大丈夫だ。それよりモルト、俺に代わって領内のことを頼む」
「はいっす」
「いいかモルト……。俺に代わり領主の仕事を任せられるのはお前しかいない。俺が倒れている間も、領内のことをしてくれたそうだが、しばらくの間、正式に俺の執務室をお前に任せたいんだ。構わないだろうか」
「は、はいっす~!」
「俺の代わりに領主としての決裁が出来るのはお前しかいない。そのことは、お前自身が一番よく分かっていることだろう」
「た、確かにこれほどの重責が務まるのは自分しかいないっす……」
もふもふ尻尾を小刻みに震わせ、両手の拳を握りしめるモルト。やがて意を決したかのように、顔をあげた。
「頼む、モルト……」
「分かったっす! このモルトが、レオン様の代わりを務めあげて見せます! もうこうしちゃいられないっす~!」
モルトはそう言い残すと、もふもふ尻尾を振りながら得意げに出て行った。
こうして、俺は執務室に山積みとなった決裁書類をモルトに押し付け……いや、任せることになったのだった。
「レオン殿も悪い奴よの」
にやにやするキールだったが、その横では、真剣な顔つきのイザベルの姿。
「あ、あの……れ、レオン様」
「…………!」
それまで、俺とキールやモルトとのやり取りをずっと黙って聞いていたイザベルが、意を決したように俺の胸に飛び込んできた。
「レオン様、イザベルは、レオン様の事を……ずっとお慕いしておりました」
そして、イザベルは、周りの目など一切気にせず、声を殺してひとしきり泣き続けたのだった。
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