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第1章 王都追放編 第14話 招待

 公爵令嬢として蝶よ花よと育てられたイザベルは、その家柄に加え天性の美貌と頭の良さから物心がついたころから多くの取り巻きに囲まれて何一つ不自由なく生きてきた。

 そして成人の儀がまだなのにもかかわらず、彼女の元には多くの求婚の申し込みが届いている。



「やれやれ。今日もこんなにか」

「本当ですわ。でも流石にしつこい方にはもっとはっきりとお断りした方がいいのではありませんこと」


 一度断っているのにどうして何回も申し込んでくるんだろうなどと、文句を言いつつも何故か嬉しそうにしておられる父様とお母様。


 ただ、レオン様とはじめてお会いした日を境に私の独り言が増えるのに対して、お父様やお母様との会話は少しずつ減っていったのだった。





 お父様とお母様は、今日も嬉しそうに大量の求婚の申し込みを仕分けしておられる。


「ほう。宰相殿の御嫡男からか。どれどれ……。優秀だと評判だから色よい返事だけはしておこうか」

「あ、あなた、こ、こんなものが……」


 お母様がさも汚そうに取り上げた求婚状は男爵家からのもの。


「全く……男爵家も何を考えておるのだ。嫡男ならともかく、よりによって次男だと! そんなものは返事なんてしなくていい。非常識にも程がある」


 そう言いながらも、お父様は仕分けの手を止めずに確かにこう言われた。


「侯爵家以外では、辺境伯辺りがぎりぎりか……」


「そうですよねえ。まあ辺境伯でしたら……ですが、イザベルが伯爵以下の家に嫁ぐのなんて嫌ですわ!」


 



「イザベル」


「はい、お父様、お母様」


「私たちは、お前の幸せを心から願っている」


 お父様はそう言って私をじっと見つめられた。お母様はお父様に寄り添って何だか不安そう。私の手元には、さる立派な殿方の釣り書きがある。


「イザベル。正直に話してくれないか。こんな立派な婿だぞ。結婚相手としてどこが不満なんだ」


「…………」


 正直、今までの私だったら。いや、あのお方をお見掛けする前だったら、私は両親に言われるまま嫁ぎ先を決めていたように思う。


 しかし、今となってはもう……。


 お父様とお母様が、選びに選んだどんなお相手の釣り書きを目にしても、うつむくばかりの私。そんな私に、お父様はついにしびれを切らしたようだ。



「ひ、ひょっとして、お前には悪い虫でもついているのか」


 ひゃん、と倒れそうになるお母様を、お父様がとっさに支える。



「わ、わたくしは、あのお方と一緒になりたいのです!」


 私は、一世一代の勇気を振り絞って両親にこう告げた。今まで一度も逆らったことなんてなかったのに。



「わたくし、レオン伯爵様の元に嫁ぎたいです!」


「は、伯爵……」


 そう言って絶句するお母さまと、怒りに全身をプルプルと震わせるお父さま。


「は、は、伯爵風情が、うちのイザベルに手を出しただと!」

「あなた落ち着いて!」


「ゆ、許せん! どうしてくれようか!」

「お父様、誤解です! わたくしは、全く何もされておりませんの!」


「何だと! イザベルを目にして心を奪われないなど、それはそれで失礼極まりない!」


 どちらに転んでもお父様はお怒りで話にならない。私は仕方なく……というか、予定通りお母様に理解していただくことにした。


「お母様、実は……」


 ”コンコン”


 ここで、手筈通りマリーが部屋をノックしてくれた。


「失礼いたします」


 いきなりやって来たマリーに、お二人とも少し驚かれているようだ。


「マリー。レオン様について、調べたことをお話なさい」


「はい。お嬢様」

 

 もちろんマリーとは入念に打ち合わせを済ませている。唯でさえ情報が少なく、お父様やお母様から忘れ去られているクラーチ伯爵家。


 今回の報告は、レオン様に対して私の両親が嫌がるであろう情報をそぎ落としたものにしている。


 お二人とも、元々クラーチ家のことなんて、付き合いも無ければ深くも知らないはずだ。


 いくら狭い王都の貴族社会とはいえ、この国には伯爵家だけでも数え切れないほどあるのだから忘れられるのも無理はない。


「では、ご報告申し上げます……」




 …………。




 思っていた通り、お父様もお母様も、マリーの報告を熱心に聞いてくれた。



「以上です」



 マリーの報告が終わり、少しの間をおいて、お父様が立ち上がられた。


「イザベル、お前の気持ちはよく分かった」

「ええ、そうですわ。伯爵家とはいえ、お父様のお力添えさえあれば、深く国政に関与し、将来は侯爵に取り立てられることも夢ではありませんことよ」


「うむ……。すぐにでも手を打とう。お前の成人の儀が楽しみだ!」


「イザベル、来月が楽しみですね」


 楽しそうな両親を見て、イザベルはほっと胸をなでおろしたのだった。





「何なんだこれは……」


 一方、俺は執務室でひとり頭を抱えていた。


「モルト、モルトはいるか」

「はいっす」


 使用人の持ってきた書類の束から取り出された、やや大ぶりの一通の封筒の中身を見て呆然となっていた。恐らく今までの人生の中で一番困惑していると思う。


 まったく、どこでどうしてこうなったのだ。


 勘弁を!

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― 新着の感想 ―
[良い点] モテモテレオンに女難の相あり……(・ω・)ノ
[一言] 受難が続くぜぇ( ̄▽ ̄;)
[一言] イザベルがいよいよ本腰を入れてレオン君にアプローチし始めましたね。 今のところ、彼女のキャラクター像をぼんやりとしか思い描けていないのですが、どんな特徴のある女性なんでしょう? レオンとの関…
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