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第5章 争乱編 第36話 総攻め①

 

「ほう。遂に始まりおったか」

「キールお姉さま」


「何も心配することはないぞ、イザベル。わしの見るところ、ブラックベリーの守備は鉄壁じゃ」


 ブワックベリー港沖では、キールたちインスぺリアル艦隊が閉塞作戦を継続中。たまに小舟を見つけては、沈め続けている。


「それより、慣れぬ船上生活でそなたの体が心配じゃ」

「いえ、美味しいお食事をいただいているおかげで、元気ですわ」

「ウチの飯はうまかろう。何しろ異世界仕込みじゃからの。そういえば……イザベル、そなた少しふっくらしてきたかの?」

「まあっ!」



 東トーチ砦が封鎖されて三日後。

 ブラックベリーでは、街を包囲する帝国軍が、遂に動き出したのだった。



「ジャーン! ジャーン! ジャーン!」

「ブォオ~ッ! ブォオ~ッ!」


「よお~し、かかれ~っ!」

「行け~っ!」

「うお~っ!」



 夜明けとともに始まった今回の総攻撃は、前回とは違い投石器も高覧車もない。

 ブラックベリーの城壁前に押し寄せた帝国軍は、空堀の上に板を乗せて渡り、長大な梯子をかけて登って来る。


 このウンカのような大軍に向けて、ブラックベリーの城壁からは、大砲と矢が次々と放たれていったのである。


 ◆


「でも、若……。いくら何でもこんな戦い方なんて、ないですぜ」

「そうですよ!」

「これじゃあ、手柄なんてあげれないっしょ」


 今からほんの数刻前。帝国軍の総攻撃を控えて、敵の主力を引き受けるはずの一番隊では、多くの者がパンデレッタに不満たらたら。

 特に部隊の中核を担う虎人族は、身内なだけに遠慮が無い。


「仕方ないでしょ! このやり方が一番いいの!」

「しかし、こんな矢なんて聞いたこともありませんや!」


 ブラックベリーが用意した矢には、矢じりに分厚く布が巻かれていたのだった。


「レオン様からは、今日の防衛戦では出来るだけ相手を殺さずに戦うよう指示が来てるんだもん!」


 ただし彼らの矢じりに巻かれた布には、それぞれ赤サソリの毒が塗られていた。

 これは、致命傷にはならないが、鎧の上からでも掠るだけで手足がしびれて武器が持てなくなるという猛毒である。


「相手を殺さずに、この戦勝てるんですかね?」

「理由は、みんなに何度も説明したでしょ! 帝国軍は食料があと数日しかないんだ。こっちが帝国軍をひとり殺す度に、ひとり分食料を相手にプレゼントする様なもんなんだからね!」

「そんな理屈、何度聞いても……なあ」

「うん」


「とにかくやってみたらわかるから! お願~い!」

「若がそこまでおっしゃるのなら、仕方ありませんや」


 最初は、不満を漏らしていた隊の連中も、いざ戦いが始まると不満はすぐに収まった。

 何しろ、一矢で、数人が斃れるのである。しかも戦闘不能になるだけで致命傷に至らないため、帝国軍としては、将兵を後方まで搬送せねばならない。


「さすが若! この矢は普通の矢より何倍も使えやすぜ!」

「いや~、最初はどうなることかと思ってましたが、ここまで効果があるとは!」

「ようやく分かってくれた? それじゃあ、いっくよーっ!」


「よ~し、放て~!」


 ブラックベリー正面付近では、パンデレッタの指揮の下、迫る帝国軍を次々と撃ち倒していったのだった。


 ◆


 攻め寄せる帝国軍に降り注がれる矢の雨。

 帝国軍は、次々と戦闘不能に陥り、梯子から落ちる兵が続出。それでも、怯まずひたすら押し寄せる帝国兵。倒しても倒しても次々攻め寄せてくるその姿は、まるでアンデッドを相手に戦っているようだ。


「こりゃ、きりがねえや」

「こっちは、弾切れだ!」

「矢が尽きちまいそうだぜ!」


 動揺する一番隊にパンデレッタが声を張り上げる。


「みんな、今が踏ん張りどきだよ! 補給や応援呼んだから、もう少し頑張って~!」

「若がそう言うなら仕方ねえや!」

「虎人族再興のためにも、若に手柄を立てさせないとな!」


 そう言いながら奮戦する一番隊。やがて、武器弾薬に補充人員の到着が告げられ、息を吹き返す一番隊。


「みんなありがとうね。じゃあ、行くよ~!」

「もうひと頑張りしましょうず!」


 パンデレッタの指揮により、最大激戦区である正面城壁は帝国軍を全て退けきった。

 そんな一番隊に引っ張られるように、他の隊も奮戦しているのだった。


 ◆


 一方俺は本陣で戦況を観つつ、兵と武器の補給の指示にかかりきりである。


「お兄様。三番隊より砲弾の補充要請が!」

「五番隊からもっと人手が欲しいと連絡が来てますの~!」


 今日は、ニーナもセリスにならって軍服姿。二人とも頭には鉢金を巻いて頑張ってくれている。


 飢えた帝国軍にとって、今のブラックベリーは、砂漠に浮かぶ食糧庫のようなもの。

 まるで蟻が蜜に群がるように帝国兵は、射ても射ても向かってくる。


 帝国軍が総攻撃を敢行した目的は、ブラックベリーの陥落だけでなく、自軍の口減らしの目的もあるに違いない。


(本当に、帝国は人の命を何だと思ってやがる)


 ブラックベリー陥落のためには、どれだけの犠牲が出ようと構わないというより、出来るだけ多数の犠牲者をだしてからの陥落を目指す帝国軍。

 対するは、出来るだけ相手を殺さずに守り抜きたいブラックベリーといった、大陸史上、これまでにない攻防が繰り返されているのであった。



 ――――――



「よし、日没までもう少しだ。頑張ってくれ!」


 通常戦いは、日の出から始まろうが、昼から始まろうが、日没とともに一旦終わる。

 日が大分傾いているから、今日の戦いも後数刻で終わるだろう。


 やがて辺りが薄暗闇に包まれると、帝国兵は負傷兵を担いで引き上げていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現実の戦争じゃあ、敵国攻める際は敵国の民の手を切り落とすなりしますしねぇ。 兵士が負担となりゃそりゃあ敵の戦力も落ちるってもんですね。
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