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第5章 争乱編 第32話 砦にて

 

 王都を出発した輸送部隊は、裏ギルドが集めた千人以上の亜人たちが中核となって編成されている。

 彼らは目的地に向け、粛々と進んだ。


 しかし、目指す東トーチ砦の手前でのこと。

 ブラックベリー方面から花火が打ち上げられると、それを目視した輸送隊からは、ひとり、またひとりと人知れず亜人たちが、隊列から抜けていったのだった。


 ――――――


 東トーチ砦の両側の崖には、それぞれ山エルフの抜け道伝いに登るピニャとコラーダの姿。

 そして後にはそれぞれ獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人たちが続く。

 やがて、崖の上にまで到着すると、山エルフの指示で何やら仕掛けをする裏ギルドの者たち。


 程なくして、全ての作業が終わったのか、静かにその場所を離れ、各自ばらばらになり身を伏せた。


 “ドカーン!”


 その後しばらくして、辺りに轟音が鳴り響いたのだった。



 ◆



 東トーチ砦では、第三軍が通過した後、武器や資材等の長い荷駄の列が到着していた。

 食料を運ぶ荷駄の輸送隊は、何かアクシデントが起きたらしく、到着は少し先になるとのことである。


「ふぅ……」


 執務室の窓から、長く伸びる隊列を見下ろしながら、マダルはため息をついていた。


 本陣から要求された以上の兵を送り、武器に資材も十二分にそろえることが出来た。

 食料に関しては王国に任せており、自分とは直接関係ないのだが、もし大幅に遅れるというなら、責任を負わされることだろう。


 もはや潮時か……。


 幸い自分は独り身。これ以上帝国に尽くしたとしても、明るい未来が思い描けないのなら、いっそのこと……。



「申し上げます!」


 物思いに沈むマダルに寄せられたのは、驚くべき報告だった。



「カルア海にて海戦が行われ、我が軍の船は全て沈められました」

「な、何だと……詳しく申してみよ」


 何と先日おこなわれたカルア海海戦で、帝国軍二十五万を乗せた船は、インスペリアル艦隊に全て沈められたという。

 逃げ帰ったのはわずか十万あまり。船が全て沈められたというから、この十万人以上の帰還兵は逆に多すぎる数字かも知れない。


 ブラックベリーの港の外にはインスぺリアルの艦隊が居座り、船での補給が出来ないという。

 このままでは、食料はニ十日も持たないらしい。


 昨日の夜、ブラックベリーからは、大量の花火が打ち上げられていた。不審に思っていたのだが……。



「申し上げます!」

「今度は何だ」

「王国からの輜重隊が目視されました」


 マダルが、外を見遣ると、果たして待ち望んだ食料を満載した輸送隊が列をなしていた。


「―――ッ、よし! 直ちに皆にも伝えよ!」

「はっ!」



「これで、我らの役目は果たせたぞ」

「ああ。二十五万の軍がやられたなど信じられんが、これでマダル様も一安心されたことだろう」


 物見の報告は、たちまち砦に籠る守備隊の隅々にまで伝えられ、守備隊の安堵の声に充ちた。


 しかしこの後しばらくして東トーチ砦は、驚天動地の事態に見舞われた

 のだった。



 “ドカーン!”


「何っ! 敵襲か?」

「いいえ。こちらは何の被害も受けてはおりません」

「そうか……」


 安堵するのもつかの間、今度は連続して轟音が鳴り響いた。


 “ドカーン!” “ドカーン!”


「申し上げます! 我が砦の両側の岩山が爆破された模様です!」


 “ドカーン!”


「何だと!」


 “ドカーン”“グシャ―ン!”“ドカーン”


 “パラパラパラパラ……”


「うっ、何だ!」


 “ドカーン”“グシャ―ン!”“ドカーン” “ドカーン”“グシャ―ン!”“ドカーン”


 “パラパラパラパラパラパラパラパラ…………”



「申し上げます! 大規模な落石あり!」

「総員、避難せよ!」



 ――――――



 大きな爆発音とそれに続く落石を伴う轟音は、しばらくして鳴り止んだ。



「すぐに現状確認! 復旧にあたれ!」

「申し上げます! 我が砦の前面が完全にふさがれております!」

「何だと! すぐ行く!」


 東トーチ砦の前面とは、東トーチ砦の北側。インスぺリアル領と王国領の境目の場所である。




「こ、これは……」


 マダルの目に飛び込んできたのは、砦をふさぐ大きな岩石と大量の土砂。

 これを取り除くには一体何日かかるか、見当もつかない。


 東トーチ砦は、王国側の北部はただでさえ狭い。

 両側に岩山が迫る狭隘な場所なのだが、ここをふさがれた以上、行き来は不可能。


 こうして、インスぺリアル領と王国の間が分断されたのだった。



 ◆



「どうやら、上手く行った様じゃの」


 インスぺリアル艦隊の旗艦『イザベル』の艦橋では、キールが東トーチ砦の方角から上がった花火を見上げ、笑みを浮かべていた。


「まさかレオン殿があの仕掛けを知っておったとは驚きじゃが、これは我らの秘策。御先祖様に感謝せねばの」


 東トーチ砦の両側の崖には、北から侵入しようとする敵を食い止めるため、岩山を切り崩し敵の侵入路を塞ぐ仕掛けがされていた。


 山エルフの中でも知る者が少ないこの仕掛け。レオンは幼き頃、祖父から教えられたことがあったそうだ。


「次はブラックベリーじゃぞ、レオン殿」


 腕組みしながら、ブラックベリーの城壁を眺めていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物資を断つのは戦術の基本ですね( ´∀` )
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