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第5章 争乱編 第23話 包囲 ☆

挿絵(By みてみん) 


(忘れな草 さま より)

 

 帝国軍の主力は、インスペリアル領からアウルへ海路で移動し、ブラックベリーの港に続々と上陸していた。


 警戒していた迎撃もなく、無傷での東トーチ砦の陥落とインスぺリアル領の制圧に加え、ブラックベリーの港に楽々と上陸できたこともあり、帝国将兵の顔は一様に明るい。


「難しい上陸戦になるかと思ったが、何の抵抗もなかったな」

「ああ。まるで肩すかしにあったようだ」


「おい、知ってるか」

「何がだ」

「ブラックベリーには、ハウスホールド軍一万が詰めているだけらしい」

「奴らは戦力差を考えてあえて攻撃を控えたのか」

「いやいや、奴らにそんな所まで知恵が回るはずがない。おおかた街に籠って震えているんだろうさ」


 そんな軽口をたたきながら次々と上陸する帝国兵だったのだが、街に近づくにつれて、そのような楽観的な思いが吹き飛ぶような光景を目にすることとなるのだった。



 ――――――



「お、おいあれ見てみろよ!」

「これは……」

「……」

「街というより要塞か?」

「しかも、城壁の上にあるのは大砲じゃないのか」



 ブラックベリーの街は円形の高い城壁が街全体をぐるりと囲い、更に深い空堀が掘られている。そして、城壁の上には、多数の大砲が鎮座していた。


 帝国軍にも大砲はあるが、その数はごくわずか。

 なにしろ、大陸北部の統一戦では、投石器が主力だったくらいなのだ。


 ただし、ほとんどの将兵は大砲の実際の威力を目の当たりにしたことが無いため、実感としての怖さはさほど感じてはいない。


「それにしても、静かな町だな」

「ひょっとして、東トーチ砦みたいに逃げ出しているんじゃないか」

「言えてる」

「だよな」


 ここには、ハウスホールドの精鋭と噂が高い第一騎士団一万に加え、山エルフの職人その他二千の合わせて一万二千人が籠っているということだが、戦時とは思えない落ち着きがある。


「しかし、何か妙だとは思わないか」

「お、おい、変なこと言うなよ」


 外から見ると城壁に兵が確認されるが、どことなくのんびりしているように見える。


 帝国の大軍を目の前にしても、まるで何事でも無いかのように淡々と日常業務をこなしているようなのだ。


 帝国軍は、そんなブラックベリーを不審に思いつつも続々と上陸を続け、ぐるりとブラックベリーを大軍で包囲したのだった。



 ◆



「久しぶりじゃの、リューク王」

「……」


 相変わらず静かに微笑むエルフ王の側には、イザベルが控えている。


「あ、あの……レオン様のご様子をお聞きしたいのですが」


「おお、イザベル殿か。レオン殿なら元気にしておるぞ。わしからもイザベル殿のことよろしく伝えておいたわ」

「まあっ!」

「レオン殿もそなたのことを憎からず思っておるぞ」

「きゃっ!」


 恥ずかしそうに身をよじるイザベルを見て、口元をほころばせるキール。


「で、リューク王よ。儂とレオン殿が立てた作戦について皆に説明しておきたい。主だったものをすぐにでも集めてくれんかの」

「……」

「はい。皆様すでに大広間に集まっておられます」


 人前でめったに口を開かないリューク王に変わり、王の言葉を代弁するカーノ。

「いや、もっと小さなごく少数で話し合える、小さな部屋がいいんじゃがの」

「では、すぐに用意いたします」


 その後、大陸南部の首脳による密談が夜更けまで続けられたのだった。



 ◆



 大軍に包囲されたブラックベリーの街は、きたる総攻撃に向けて準備が淡々と進められていた。と言ってもこの度の守備で新たに編成し直した第一騎士団の訓練が中心。


 山エルフたちは、宿舎の建設に続いて、農地の整備や用水路の整備を続けてもらっている。一万人以上の完全自給は無理だが、備蓄食料が十分にあるため、数年は十分に生活できる見通しである。


 俺は領主館の大広間にクラーチ家と軍の幹部たちを集め、今後の作戦方針を語ったのだった。


「…………」

「では、お兄様、私たちは、あくまで守りに徹するということですね」


「そうだ。我らの被害を極力減らし、場合によっては何年も持ちこたえるぞ」

「ニーナも頑張ってお料理します!」


「帝国軍が投石器や高覧車を出して来たら、大砲で叩く。そして無駄撃ちは禁ずる。こちらからの出撃も厳禁だ」


「こちらから攻勢をかけない以上、兵の士気を保つには、いかがいたしましょうか」

「うむ。いいことを言ってくれた」


 パンデレッタとのこのやり取りは打ち合わせ通り。

 とはいえ俺の口から「いいこと」などと言われて嬉しかったのか、丸い虎耳をぴくぴくさせている。


「とにかく砲手には、投石器や高覧車を正確に攻撃する腕を競わせよう。上位の部隊には砲手だけでなく全員に褒美を出す」

「明日から、新たな守備体制に入る。敵の攻撃の無いとき非番の者は、自由に休んでもらって構わない。酒はある程度の制限をするが、温泉や食事は好きに楽しんでもらってもいいぞ」


 当然、武器や鎧、そして食事は騎士団から支給されるのだが、カフェやレストラン、衣類や雑貨の店など、皆が楽しめそうなものをどんどん出店していくつもりだ。


 今の所、これらの店舗はすべて領主の直営店。ドランブイの伝手つてで、多くの商人に来てもらっており、いくつかの店舗はすでに営業が始まっている。


 俺は、防衛戦の最中ではあるが、というか最中だからこそ、皆に愛され守りたくなるような街づくりが必要だと思うのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >いやいや、奴らにそんな所まで知恵が回るはずがない アメリカの先住民のみなさんを野蛮で知恵が無い存在だと思ってた……思い込もうとしていた開拓者並みの思考回路(゜Д゜;) さてさて、どうなる…
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