第5章 争乱編 第20話 祝宴
その頃、ハウスホールドでは、ブラックベリー奪還に続き、インスぺリアル軍が東トーチ砦にて帝国軍の先鋒をさんざんに打ち破ったという報に沸き立っていた。
街では緒戦の勝利を祝い、港では、盛大に花火が打ち上げられていた。
「マリー、マリーはいますか!」
「はい、イザベル様」
「レオン様がブラックベリーを奪還されたそうですね!」
「はいっ、もちろんですとも!」
「しかも、インスペリアル軍も大勝利だとか」
「その通りでございます」
「ああ……レオン様には、いつお会いできるのでしょう」
にっこり笑顔のマリーに、天使の微笑みを向けるイザベル。
右手に握られたクマのぬいぐるみの『レオン』くんは、ズタボロになっていたのだが、いつの間にかパッチワークのようにつぎはぎが当てられている。
「イザベル様、そのお手は……」
「あっ、これは……」
毎日イザベルの愛情を一心に受けて、ズタボロになった『レオン』くんは、イザベルの手によって、応急処置が施されていた。
「イザベル様、なんて健気な……」
イザベルが奮闘した様子は、日々増え続けている両手の傷が物語っていた。
「レオン様は、ハウスホールドの精鋭と共に、ブラックベリーに籠られるとのこと。無事帝国軍を打ち破られた暁には、こちらに凱旋されますわ」
「でも、相手は大軍なのでしょう。こちらからも援軍を出さないと」
「ユバーラにはブルームーン軍五万に続き、獣人族やドワーフからも続々と援軍が到着しているとのこと。ハウスホールド軍もいつでも出撃できるよう、準備を整えているとのことです」
でも不安だわ……。
そうだ、王都のお父様に頼んでみるのはどうかしら?
自分の思いつきににっこり笑顔を浮かべるイザベルなのであった。
◆
「レオン殿! 元気そうで何よりじゃ!」
「キール様こそ、東トーチ砦では大活躍だったようですね」
「レオン殿の作戦が大当たりしおったわ」
「それは、二人で立てたものでしょう」
「そういう事にしとかなくてはの」
モルトたちを見送った翌日、ブラックベリーにはキールがインスぺリアル全軍を連れてやって来た。
「レオン殿、これは街というよりもはや要塞じゃな」
ブラックベリーは、街の防備が完了した。
最初キールにはあと七日欲しいと言ったのだが、いろいろ工夫を凝らすうち、とても足りなくなり、結局倍近い日数がかかってしまったのだが。
城壁は従来より数メートル上げされ、上にはインスぺリアルから届けられた砲台を周囲に200門備え付けられた。しかもそれぞれレールで横に移動できるようにしてある。
周囲には深さ二十メートルの空堀が張り巡らされた。防備は、東トーチ砦かそれ以上だろう。
「まずは、旅の疲れをいやしてください」
しきりに感心するキールをはじめ、主立つ者を温泉に案内する。
一万の兵は、街のすべての建物を解放し、休んでもらうことにした。当然順次温泉に入ってもらうつもりである。
本来二万人弱の収容能力しかないこの街にとっては、若干手狭となるが、そこは戦時の習い。
そして、山エルフの職人たちは、街の防備がひと段落した今、新たな宿泊施設の建設に取り掛かってもらっている。本当に頭が下がる思いだ。
「本当に山エルフの職人たちにはお世話になっています。この街の防備も彼女たちのおかげですよ」
「嬉しいことを言ってくれるの。あ奴らは儂が戦場に出ることを禁じておるのじゃ。モノ作りこそ、自分たちの戦場だと思ってくれているようじゃの」
満足げに微笑むキール。その裏表のない笑顔に、俺もつられて表情が緩んだ。本当にキールと接していると、ここが戦場であることをふと忘れるから不思議だ。
「お兄様、キール様~♪」
「レオン様。お母様、準備が整いましたの~」
「今日は私も手伝ったんです」
「おお、ニーナも元気そうで何よりじゃ! それにセリス殿も」
キールたちインスぺリアル軍を迎えるにあたり、領主館前の噴水広場前では、大宴会の準備が整えられていた。
何しろハウスホールド第一騎士団一万に加えて、インスぺリアル軍が一万。総勢二万が一堂に会することになる。
この広場は街一番の広さとはいえ、ブラックベリーは、元々数千人規模の街。かなりの混雑ぶりである。
広場では、ラプトルのバーベキューに加え、カルア海で水揚げされたばかりの海の幸がずらりと並ぶ。
そしてキンキンに冷やしたドワーフエール!
「さあ、レオン様、どうぞこちらへ」
「早くして頂かないと、皆飲みたくてうずうずしておりますぞ!」
「いやいいって。俺は口下手なんだよ」
カールとドランブイに背中を押されるようにして、俺はいやいやながらも、宴の挨拶をすることになった。ほんと勘弁して欲しい。
「もう、お兄様、しっかりしてください」
「カッコいいレオン様が見たいですの~!」
「インスぺリアルの皆さん、帝国軍を打ち負かした皆さんの武勇は、大陸中に鳴り響いたことでしょう。それから、山エルフの職人の皆さんに、ハウスホールド第一騎士団の皆さんの力でブラックベリーは今、万全の防御を整えることが出来ました。我らが力を合わせれば、帝国軍など恐れるに足らず! これまでの戦果と我らの出会いを祝しまして……乾杯!」
「カンパーイ!」
東トーチ砦の大勝利とブラックベリーの改修工事の完成。
そしてハウスホールド第一騎士団と、インぺルアル軍との出会いに、皆は心ゆくまで酔いしれたのだった。




