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第5章 争乱編 第14話 要塞

 

 ブラックベリーでは、キールが送ってくれた数百人の山エルフの職人の作業を、第一騎士団が総出で手伝う形で、街の要塞化が急ピッチですすめられていた。

 東トーチ砦を越えて帝国がアウル領になだれ込んできた場合、このブラックベリーが南部諸国連合の拠点となる。

 まだまだ街には未開発の土地はあるものの、街の長期の籠城戦となると、今のところ、中に入れて戦える戦力は、二万人弱といったところだ。


「きゃ~っ! レオン様~♡」


 今日も、第一騎士団所属のエルフ女子の皆さんが、笑顔で手を振ってくれている。


「せえのお……。愛してま~~~す!」


「第一騎士団の皆か! 毎日ご苦労様!」

「きゃあ~っ!」

「何だか、みんなボクのこと無視しるんじゃないの~?!」


 俺は時間が出来ると、街の様子を見るため、パンデレッタを連れてあちこち歩くのが日課となっている。

 戦時とはいえ、活気あふれるブラックベリーの街を見て回るのはワクワクする。ちなみにセリスがいないときに限る。


「レオン様、正面防塁の高さは十分ですので、後は城壁の周りの堀を広げたいのですが」

「おお! 防塁の補強は終わったのか。引き続きカールは、堀の拡張を頼む。パンデレッタ、手の空いた者は順次外堀の拡張作業に取り掛からせてくれ」

「はっ」


 作業が順調なのは、第一騎士団の一万人が演習の一環として全面協力したことに加えて、帝国軍に占拠されてはいたものの、幸いにして街はさほど荒らされてはいなかったことも大きい。

 恐らく帝国軍としては、降伏する少し前まではこの街を自分のものとして略奪や破壊行為を禁じてくれていたのだろう。


 そして、山エルフたちは非戦闘員ながら、工事が終了後も街に残り、籠城中の街の補修や武具や防具の作製などに携わってもらうことになっている。


「レオン様、武器と食料の搬入が終わりましたぞ」

「ありがとう、ドランブイ。少し休んだらどうだ」

「なんのなんの。明日にはブルームーンからの応援物資と援軍五千が到着予定です。ゆっくりなどできますまい」


「お兄様、農地の手入れがあらかた終わりました」


 長期の籠城戦には新鮮なビタミンの補給が不可欠。折角入植してくれた住民たちは、ハウスホールドに避難してもらったので、自分たちで耕さなければならない。

 長期の保存がきく穀物はハウスホールドから運び入れて貯蔵するので、ブラックベリーの農地で栽培するのは、野菜や果物が中心となる。


「さすがはセリス、よくやってくれた!」

「お兄様、もっと褒めて下さい」

「おお、よしよし~♪」

「えへへへへ……」


「……レオン様~」

「…………ん?」


 甘えるセリスの頭を撫でてやっていると、何やら俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「レ、レオン様~!」

「おっ、モルトどうしたんだ?」

「キール様から返書が届いたっす~!」


 もふもふ尻尾を振りながら、モルトが駆け寄って来た。今日は何だか少し不機嫌そうである。


「レオン様、そんなにあちこち行かれちゃ困るっす!」

「仕方ないだろ。工事の具合を見回らないとな」


「そんなの、パンデレッタに任しとけばいいっすよ~!」

「な、なんだって~!」

「あ、いたんすか、小さくて気付かなかったっす」

「なんだとーっ! ボクはこれでもキミより少し背が高いんだからね!」


 “シャ―ッ!”


 相変わらず毛を逆立てて威嚇し合う二人。

 俺としては、いい加減にして欲しいのだが……。


「レオン様、お茶が入りましたの~」

「ありがとう。ニーナは、ハウスホールドにさがっていてもいいんだぞ」

「レオン様と離れるのは嫌ですの~」


「う~ん。そんなに危険なら自分も避難した方がいいっすよね~」


 お、お前って奴は……。


「実はモルトを見込んで、とっておきの大役を任せたいんだが」

「な、何すか? 危険じゃない仕事なら、任せて欲しいっす!」

「お前には是非、砂漠を渡って欲しいんだが……」


「……何か前線で戦うより危ない気がするっす~!」

「いや、実はな……」



 ――――――



「な~んだ、レオン様! そういうことなら、自分に任せて欲しいっす!」


 自信満々にもふもふ尻尾を振るモルト。


「うん。お前は腐ってもクラーチ家の筆頭執事なんだ。宜しくな」

「でも、向こうで危険な目に遭ったらどうするんすか? それと「腐って」は余分っす~!」

「大丈夫だ、護衛を二人付けてやるからな」

「レオン様、こちらですの~」


 カールとドランブイには悪いが、俺たちはせっかくニーナが淹れてくれたお茶を頂くことにした。


 今ではすっかり、領主館のキッチンを使いこなしているニーナ。

 正直、スイーツ以外の料理も覚えて欲しいものである。俺たちは食堂の大広間でニーナたちの給仕を受けていた。


 もちろん、俺がいただくのはお茶のみ。

 ほっぺを膨らませて、もきゅもきゅいわせながらスイーツを頬張るモルトにさっとお皿を渡す。


 ……大丈夫。誰にもばれていないようだ。


「皆さん、たくさん焼きましたので、遠慮なく食べてくださいまし~」


 俺の目の前では、スイーツを目にして、油汗を流しているパンデレッタ。どうやら虎人族は、種族的な特徴として、甘味が体質的に受け付けないようだ。気の毒に……。



「そういや、さっき言ってた護衛の二人がブラックベリーに着いたって連絡があったぞ」

「楽しみっす~!」

「こ、こら! 口に食べ物を詰め込んだまましゃべるんじゃない!」


「レオン様、ブラックベリーより御二方がお見えになられました」



「ご無沙汰しております」

「この度もよろしくお願いします」

「二人ともよく来てくれた。よろしく頼むな!」


「はい」

「それからこちらは……え、え~っと……狐様?」


「モルトっす~! ホント自分の名前、覚える気は無いっすね~!」


 相変わらず口数の少ないピニャ(姉)と元気なコラーダ(妹)のあいさつに、尻尾を逆立てて怒るモルトなのであった。


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[一言] 果たしてモルトはどんなおつかいを頼まれたのか(゜Д゜;)
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