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第5章 争乱編 第3話 戦艦

 

「この度のこと、誠にありがとうございました。感謝の言葉もございませぬ」


「礼など良いわ。我らの仲ではないか!」


 そう言いながら、豪快に笑いながら、カールトンの背中をバンバン叩くキール。赤面してよろめくカールトンにもお構いなしである。


「あ、あわわわ……キ、キール様! そのようにされましては……」


 レオンの前でいつも見せる“正装”とは違い、今日のキールは青い金属片らしきものが輝く軽革鎧に、サーベルとダガー。

 武装はしているものの、たわわに熟した美しさは、むしろ強調されている始末である。


「わらわは、そちのことも憎からず思っておるぞ」

「は、はは~っ!」


 赤面しながら恐縮するカールトンのことなどを気に留める様子もなく、山エルフ女王のわがままボディーは、船の揺れに合わせて「たぷんたぷん」と、自らの存在を主張しまくっている。


わしはこのまま、インスぺリアルに戻るつもりじゃ。帝国に備えねばならぬでの」


「ではやはり」


「うむ……。我らはハウスホールドと同盟を結び、一戦交える気じゃ」

「それは誠でございますか!」


「儂も腹は決めておる」

「キール様!」


 今回の、アウル辺境伯の謀反と帝国への宣戦布告を真に受けている者などいない。帝国とすれば、大陸北部の平定が叶った以上、中南部へ侵攻し、ゆくゆくは大陸を統一しようという腹なのだろう。これは大陸南部の亜人たちの共通の認識だという。


「ハウスホールドが加わる以上、南部の亜人たちや、ブルームーンも我らの力になってくれよう。レオン殿も我が陣営に加わってくれればありがたい」


「レオン様も必ずやそうお考えでしょう。キール様、この度のこと重ね重ね御礼申し上げます」


「よいよい。そんなことよりカールトン。どうじゃ、この船の乗り心地は」


「はい、素晴らしい乗り心地で…… 

 ……う、うわっ!」

「すまん! どこかにつかまってくれ!」


 船は、何かに乗り上げるように大きく縦に揺れた後、ひどい横揺れに見舞われた。


「……キール様!」

「大丈夫じゃ、すぐに収まる……と思う」


 キールの言葉通り、しばらく激しい揺れが続いたが、まるでさっきの揺れが嘘のように、すっかりなぎに落ち着いてきた。


「カールトン。もう安心してくれ」


「しかし、キール様この船は一体……」

「驚いたか。この船こそ我らが最新鋭の戦艦『アウル』。水陸両用であるぞ」


「な、なんと!」

「もっとも、水陸両用とはいえ、砂の上しか静かに走れんがの」


 砂漠は一般的に砂地だけでなく、荒れ地や岩場も多く、このアウル砂漠も例外ではない。どうやら、今は荒れ地を抜けて再び砂地に入ったようである。


「ですがこのように砂漠を走る船など聞いたこともございません」

「そうじゃろ。何しろこの船はインスぺリアル《ウチ》の機密じゃからの」


「そのような船で我らを御救い頂き、返す返すも感謝の言葉もございません」

「なあに、どうせ砂漠には用があったのじゃ。それに……レオン殿にも感謝してもらえるかも知れんしの。そこの所、カールトンも分かっておろうな」


 そう言って、恥ずかしそうに頬を赤らめるキール。褐色の顔にかかったさらさらの金髪を、細い指で綺麗な耳にかけている。


「レ……レ、レ、レオン様へのご報告! このカールトンにお任せください。……で、この船があるなら、アウル砂漠を渡るのもたやすいのでは?」

「まあの。しかしこの船は一隻しかないのじゃ。陸上での航行は、夜間に砂地のみと決めておる」

「そこまで希少な船でしたか!」


「そうじゃ。せっかくじゃし、そちに“いいもの”を見せてやろう!」

「軍事機密でしょうに、よろしいのですか?」

「どうってことないわ。お前の口からレオン殿に報告するがよい」


 キールの後を付いて、船倉へと降りて行くカールトン。月明かりのみで中はよく見えないが、下からは多くの何かがうごめく気配がする。



「…………こ、これは!」

「さっき言ったじゃろうが。我らは、この砂漠にちょっとした用事もあったのじゃ」


 目に前には、ラプトル用の檻を小さくしたようなものがうず高く積み上げられていた。


 その中にいるのは、ソフトシェルと呼ばれる赤サソリや、ハードシェルと呼ばれる、巨大な青サソリ。


「この船が出来たおかげで、随分と手に入れやすくなったのじゃ」


 赤サソリは、毒を取り出し、何十倍にも薄めて矢じりに付ける。掠っただけで、全身が痺れて動けなくなるという麻痺毒だという。

 青サソリは、甲羅を武器や防具に加工。鉄などの金属よりも軽くて硬いそうで、キールが身に付けている鎧にも使われているという。


「これだけあれば、この度の戦には十分足りるじゃろう。レオン殿にもいくらかお譲りするぞ」

「いえいえ、そのようなことまで」


「なに、アウル領で好きに狩りをさせてもらっておるのじゃ。遠慮はいらんぞ」

「それは、レオン様もお喜びになられることでしょう」


「うむ。我が館でレオン殿を待つことにしようぞ」


 カールトンたちを乗せた巨大な戦艦は、アウル砂漠を滑るように進んでいったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 砂を走る船……松本零士先生の作品『オズマ』とかに出てきましたなぁ( ´∀` )
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