第4章 遠征編 第35話 反乱
「あ! お兄様!」
「レオン様、大変ですの~!」
『カガヤ』の前にいたのは、セリスとニーナ。遠くから俺たちを見つけると、手を振りながら駆け寄って来た。二人とも少しふっくらしたように思うが、口には出さないでおこう。
「レオン様、そんなことより、どうやら二人とも様子がおかしいっす」
「何かあったのかも知れません」
「とにかく、お兄様早く!」
「急いでくださいまし~!」
二人に引っ張られる様に、ドランブイの元に駆けつけたのだった。
◆
引きつった表情のドランブイ。そして、その奥には見知った顔がもう一人。
「レオン様!」
「ネグローニか! 久しぶりだな!」
ネグローニには世話になっただけに、旧交を温めたい気持ちもあるのだが、今はとてもそんな雰囲気じゃない。彼女の表情もこわばっているのだ。
「本日は、キール様の使者として参りました。帝国や王国に不審な動きがあり、キール様は、レオン様にお会いしたいとのことです」
「俺は異存などないのだが。とにかく何があったのか、順に話してくれないか」
「では、私から分かっていることをお話ししましょう。……まずはこれを」
ドランブイから渡されたのは、カールトンからの書状。
ブラックベリーが公爵家から遣わされた多くの使者をもてなしているという。それに加えて連日大量の移住希望者があり、受け入れ業務が難航しているという内容。カールトンをはじめ、領主館に残してきた者たちだけでは、到底捌ききれないほどの人数が急に押し寄せているという。
「ほう……嬉しい悲鳴だが急すぎるな。カールトンが気の毒だ」
「ですが、次にこちらを。とにかく急ぎとのことですので、私が返書を出しておきました」
「そうか、すまんな」
「……!」
ドランブイが次に差し出したのは、エルフ王からの文。
何とイザベルはハウスホールドの王宮に留まっているらしい。そして、公爵家からの迎えとして、裏ギルドのウーゾたちが訪れているという。
今後の対策のためにも、急いで王宮まで来て欲しいとのこと。
「一体どういうことだ?」
「公爵家がそれぞれ別の迎えの者を立てた可能性もございますが、恐らくは……」
そう言って首をふるドランブイ。
「ネグローニは、何か知ってるのか?」
「はい。ブラックベリーに向かった一団は、おそらく帝国の手の者かと」
「何だって!」
「恐らく今頃、ブラックベリーでは良からぬことが起きているやも知れません」
ネグローニによると、ブラックベリーに向かったのは武装した帝国兵およそ五十名。そして、期を同じくして、インスぺリアルを通過して、大陸南部に向かう人族の成人男性が急増しているとのこと。
移民希望者の大半は、帝国から送り込まれてきた者と見て間違いなさそうだ。
「すぐに、ブラックベリーへ向かうぞ!」
「レオン様、しばらくお待ちを」
「そおっす。もし何かあれば危ないっす!」
「くっ……」
「とにかくブラックベリーの様子を掴むのが、先決でございましょう」
皆の言うことはもっともなのだが、カールトンをはじめとして、領主館に残して来た者や、俺を信じてブラックベリーに来てくれた移住者たちのことが心配でならない。
悔しさに唇をかみしめる俺の前に、ネグローニが跪いた。
「キール様は、ハウスホールドとの同盟を希望されております。レオン様のお力もお借りしたいとのこと。今は、王国との国境を固めつつ、ブラックベリーの状況を探っておられます」
「わかった。俺たちは今からハウスホールドを経由してインスぺリアルに向かう。皆、すぐに出立だ!」
◆
その頃、ハウスホールドの王宮に戻ったリューク王は、自室にイザベルを招いていた。
「何も心配することは無い。誰が何と言おうが、そなたを帝国に渡しはしない。安心なさるがよい」
「私のことはともかく、レオン様は……」
「レオン殿なら心配ない。今頃は、ユバーラからこちらに向かっておられることだろう」
「もしや私のせいでこんなことに」
「いや、そなたは何も悪くない。こちらこそ、そなたを国同士の事に巻き込んでしまい、申し訳なく思っているのだ。今夜はもう遅い。そろそろ休んで来なさい」
「はい、伯父上さま…い、いや……」
消沈したイザベルが退出すると、入れ替わるようにして、カーノがやってきた。
「夜分失礼します。レオン様からの返書です。それからキール様より書状が届いております」
「うむ……」
「暗部からの情報によりますと、帝国は大軍を編成し、王国領近くに布陣しているとのこと」
「やはりか……」
「はい。アウル領の反乱を鎮圧する口実で軍を動かす様子でしょう」
ドランブイが書いた返書と、キールからの書状に目を通すリューク王。
「どうやら、レオン殿たちは、まだブラックベリーの一件をご存じ無いらしい。しかし反乱の濡れ衣とは気の毒な。……そしてやはりキールは帝国になど従う気が無いか」
「そのようでございます。キール様は軍を率いて砦の防備を固めておられる様子」
「そして、我らとの同盟を望んでおるのか」
「すぐに使いをブルームーンへ。我が騎士団の幹部をはじめ、周囲の里や村々の主だった者にも召集をかけよ」
「はっ」
「しかし帝国のやり口の汚さよ……。何より、イザベルを手駒としたこと、許せぬ」
リューク王は、カーノを見送りつつ、美しい顔を怒りにゆがめていたのだった。
お読みいただきありがとうございました。次から第5章 争乱編に入ります。
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