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~花の記憶:花守人(ハナモリビト)~

「あんた、バカ?」母がスッパリ言い、白々とした視線を向けてくる。

帰宅した駆の様子を見た母に問いただされ、すみれに告白したことを打ち明けたのだ。

「うっ…だ、だってさ…。」反論しよにも、返す言葉がない。

「なに?今まで彼氏気取りだったとか?やっだぁ〜勘違い男ってサイテー。キモーイ。」完全に母にバカにされている。

しかし、少し…ほんの少しだけ期待していた駆はぐぅの音も出ず、うつ向く。

「大体ねぇ、考えてもみなさいよ!あの子、事故に遭って記憶障害になっちゃったんでしょ?人付き合いとかもあんまりできなかっただろうし、恋愛感情知らなくてもおかしくないわよ。…それか…。」自覚してないだけじゃない?と言おうとして止める。母から見てもすみれは駆を恋愛対象として見ているように思えた。しかし、ここから先は、ふたりの問題だと考えたのだ。


「そっかぁ!母ちゃん頭いいな!」がばっと顔を上げる駆。

(そうだよな、まだフラレたわけじゃないだもんな!)なんだか元気が出てきた。


次の日。今日もすみれの記憶を探す約束をしている。駆は今までより入念に服を選び、何回も鏡の前でポーズをとる。

「女の子じゃあるまいし…気色悪い…。」開いたままになっていたドアから母が駆の部屋を覗きこんできて顔をしかめる。

「か、母ちゃん!?いいだろ、別に。…てか、勝手に覗くなよ!」

「そんなこといいから、時間はいいの?もう9時だけど?」さらっと流し、あっさり言う母。

「えぇ!?ヤッベっ、行ってくる!!」ドタドタと階段を降り、玄関を出る。


バイクの置いてある車庫の前に慌てて行くと、すみれが立っていた。

「おはよう!昨日は大丈夫だった?なんだか帰り調子悪そうだったけど…。」すみれが駆の顔色を窺う様にじっと見つめてくる。

「だっ…大丈夫!!」すみれの視線に耐えられず、声が上擦る。しかも、違う風に解釈されたとはいえ、昨日告白したばかりで、余計緊張する。

「なんか…顔、赤いよ?」心配そうに顔を近づけてくるすみれ。

(良い匂い…。…って、何変なこと考えてんの!?俺!!)

「ほ、本当に大丈夫!なんか暑くてさ…あははっ。」大袈裟に笑って言うと、すみれも安心した様だ。


その日行ったのは、横浜市の繁華街の近くだった。休日のせいか、通りは人に溢れ、賑わっている。

「…っ…すごい人だなぁ…。すみれはぐれないように…。」ついてきてと言おうとして、横を見たがすみれがいない。

「すみれ!すみれ、どこ!?」まさか本当にはぐれるとは思わなかった。必死に呼びかけていると、

「……っか…ける…君!」駆の少し後方からすみれの声がした。

道行く人を押し退け、すみれが伸ばした手をがっちり掴む。

「っはぁ〜…。見つかって良かったぁ〜。」心から安堵した。

「ご、ごめんね。離れちゃって…。なんかいろんな人に押されてどんどん遠くに…。」謝るすみれ。

「ん?まぁいいさ!ちゃんとまた会えたしっ。」ニカッと笑う。

「…それで、あの、…。」ごにょごにょとすみれが言う。

「ん?」

「コレ…。」言いながらすみれが、目線を下ろす。すみれの目線を追っていくと、駆がしっかり掴んだままのすみれの手があった。

「う、わっ!ごめっ…なんか夢中になってて…頭真っ白でっ…。」急いで離す。

「あ、嫌だったわけじゃなくてっ!もし良かったら…繋いでもらってても…いい?」すみれは、視線を合わせず、おずおずと手を出してくる。

「え?…あ、うん。」てっきり嫌だったのだと思ったので、すみれの意外な反応に驚きを隠せない。

(ちっさくて…やわらかい手だよな…。ってなんでだよ!?さっきからさぁ!!)


メモの住所には、空き家が建っていた。2階建ての普通の住宅だ。管理している人に電話をかける。


20分後。管理人らしき、50代くらいの男性が徒歩でやって来た。購入目的ではなく、住んでいた当時のものが何か残ってないか探したいと伝えたら、快く了解してくれた。


定期的に掃除されているらしく、中はとても丁寧に整頓され、キレイだった。残っているタンスや、机についた引き出しを開けてみる。

「もう何もないかもしれないなぁ。」協力してくれている管理人が、ぼやく。

駆もそうかもしれないと思った。すみれの方を見る。すみれは、真剣になって、丁寧にひとつひとつの引き出しを取り出して、奥の方までチェックしていた。

(すみれが頑張っているんだから、俺だって頑張らないと!)気合いを入れ直し、取り組む。


1時間後。もう他は全部調べてしまって、最後の一部屋となった。すみれは、ここでも黙々と探す。この家に入ってから一度も喋っていない。

(あまり一生懸命になりすぎると、無かった時のショックが大きいんじゃないかな…。)張り詰めた様子のすみれに不安を覚える。


「あった!」すみれが喜びの声を上げる。

「え!?見せて!見せて!」良かったと安堵する。

すみれが見つけたのは、スミレの花の押し花が栞にされているものだった。

「これ…きっと駆君にもらったスミレだよ!」楽しそうに話すすみれ。

「どうしてわかるの?思い出した?」記憶が戻ったのかもしれないと、矢継ぎ早に質問する。

「これを見たら少しだけ…。この花をくれた人を忘れないようにっていつも持ってたの。」微笑むすみれ。

「そっか…。」なんだか照れ臭かった。


すみれの家の前で、バイクを停め、すみれが降りる。最初は乗ったり降りたりも大変そうだったが、今ではすっかり慣れたらしい。

「今までありがとう。たった数日間だったけど…いろんなところ行けて、記憶も少しだけ戻って…なにより駆君にまた再会できて、すごく嬉しかった。」涙ぐみながらぎこちない笑みを浮かべるすみれ。

「そんなこれで最後みたいなこと言うなよ。俺はいつでもすみれの側にいるし、必要ならいくらでも力になってやる。お前はもうひとりじゃない。それを忘れんなよ。」何か他にもできることがあるかもしれないのに、こんなことしか言えない自分が歯痒い。

「…ん。あり…がと。…また…駆君ち行ってもいい…?」ぽろぽろと綺麗な涙がすみれの目から零れる。

「もちろん!いつでも!!」満面の笑顔で答えると、すみれの顔も柔らかい笑顔になった。



恋を知ったらキミは俺をどう思うだろう?

果たして俺を受け入れてくれるだろうか。

焦らなくていい。

キミのペースでいい。

キミが恋の花を咲かせるその日まで俺が側で守るから。


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