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〜花の記憶:咲いた、咲いた〜

簡単にO.Kしてしまったものの…記憶が探せる確証はない…駆は悩んでいた。しかし、彼女をこのままにしておくこともできない…自分のできることなら、なんとかして力になりたい。


翌朝、駆は早く起きて旅支度を済ませ、すみれを迎えに行った。彼女の「あの」話が本当なら駆に依頼したことを忘れている可能性もあるからだ。少しドキドキしながらインターホンを押す。

「…はい。どちら様ですか?」

「えっと…すみれ?迎えにきたんだけど、もう出かけられる?」ドアが開き、すみれが顔を出す。

すみれは、ドアの外にいた男に見覚えはある気がするが、よく思い出せなかった。

「…あなたは?」そう訊ねると、その男は哀しそうに笑って去っていった。


「誰だったんだろう…?」いくら考えても昨日何をしたのかが、曖昧な状態のすみれにはわかるはずもない。しかし、どうしても思い出したかった。哀しそうに笑った面影が夢に出てきた男の子に似ていたからだ。

『…ちゃん、すみれちゃん。これあげるね!』そう言って「すみれ」の花を持ってきてくれた男の子。しかし、記憶が無くて誰かと訊ねると、泣きそうな顔で笑った男の子…。

(あの男の人は、夢に出てきた男の子…?)

「…っ!」玄関を飛び出す。

(さっきのことを謝って、あの夢は過去の記憶なのかを聞きたい。もし本当にそうならあの時言えなかったありがとうと、ごめんなさいを言わなきゃ!)


どこにあの人が向かったのか分からないまま闇雲に走った。そして交差点のところで何かにぶつかった。

「っきゃ…!」倒れそうになるのを長い腕が支えてくれた。

「っと!すみません!…あれっすみれ?そんなに急いでどうしたんだ?」少し戸惑った様子で駆が言う。

「さっきはごめんなさい。あなたは…私のこと知ってるんですか?それなら、あなたのことも教えてください!」勇気を振り絞って言う。

「…そういう約束だったもんな。さっきコンビニでコレ買って来たんだよ!」と、にかっと笑い、服に貼り付けたガムテープを指す。太いマジックで「駆」と書いてある。


「改めて、先ほどは失礼なことを言ってしまい、ごめんなさい。私があなたに仕事を頼んでたんですね。そう言われてみれば、昨日出かけた記憶はなんとなく覚えてます。」

「いや、こっちこそごめん。俺も態度が悪かったな。ちょっと凹んじまってさ。」苦笑いで駆が言う。

「あの…もうひとつ聞いていいですか?」

「ん?」

「小学生ぐらいの頃に女の子に「すみれ」の花をあげたことありませんか?」

「…え?」

「私…男の子から「すみれ」の花をもらった夢を見たんです。その男の子とあなたが似ていたもので、もしかして…小学生の頃会ったのかなって…。」

「そういえば、1回母ちゃんの大事に育てていた「すみれ」の花を摘んで、ゲンコくらったことがあるな。確か誰かにあげようとしてた気がする…。じゃあその相手がすみれだったのかもな。」本当は4年の時、担任にすみれが事故で入院したことを聞き、心配でたまらなくなりお見舞いに行ったのだが、照れ臭いので、すみれには秘密にする。


「あとひとつコンビニでいいもの買ってきたんだ。すみれにはこれが必要かなって…。」スケッチブックをすみれに差し出す。

「スケッチブック…?」困惑した顔ですみれが受け取る。

「うん。コレに今日の気持ちとか、何したかとか書けばいいんじゃないかと思って。そうすればさ、読み返せば、今日のこと思い出せるだろ?…どう?」すみれの顔を窺う。

「そうですね、そうすればいいかもしれません。」かすみがうなずく。

「そうそう、それ開いてみ。こんな顔の奴見たら俺だから…。」咳払いをし、少し威張った調子で駆が言う。

そこには人…らしきものが描かれていた。どうやら自画像らしい。

「こ…れ…駆さん…?」笑うのを堪えてすみれが聞く。

「おう!上手く描けてるだろ?」鼻高々に言う駆。

「クス…これはある意味才能かもしれませんね!」すみれが笑う。

「あんまり褒めてねぇだろ、それ…。まっいいや!」駆は、わざとすねた様な顔をして見せた後、にっと笑う。


咲いた。

咲いた。

キミが咲いた。


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