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〜花の記憶:すみれ〜

どこかの国では、睡眠は死ぬことで、目覚めることは、生まれ変わることだと信じられているそうだ。彼女は正にそんな感じだった。


店がOPENして、早3ヶ月。最近は店の切り盛りにも慣れた。相変わらず、収入の変動はあるが、それでもなんとか暮らしていける程度の範囲内だった。しかし、仕事内容は、引越しの荷物の運搬の手伝い、米・野菜などの仕送り等、普通の宅急便の仕事と変わらず、駆の思い描く様な仕事は、なかなか来なかった。

「仕事ってのは、好きなことだけできるわけじゃないのよ。ほとんどがやりたくないものの方が多いんだから!」と母の小言を思い出す。その時はわかった気でいたが、改めて痛感する。


「こんにちは…。」扉が開き、駆と同世代くらいの女性が入ってきた。

「…っあ、ハイ!いらっしゃいませ!」急いで営業モードに入る。その女性はメモの様なものに目を通し、

「お仕事をお願いしたいんですけど…いいですか…?」少しこくびをかしげ、戸惑った様な顔で言う。

「はい。何でも仰ってください!…っあれ?清水きよみずさん…!?」可愛いらしい少女から少し大人びた印象にはなっているが、やはり可憐な雰囲気か変わっていない。加えて自分の初恋の相手なのだから間違えるはずもない。嬉しいやら恥ずかしいやらなんだかテンションが上がる。

「…?…あの、どちら様ですか?私たち会ったことありましたっけ…?」澄んだ大きな瞳で駆を見つめてくるが、覚えてないらしい。ひとり舞い上がっていた駆はガッカリする。

清水かすみは小学4年の時の駆の同級生だ。見た目はもちろん、頭も良く、男子の憧れの的だったが、事故で両親を亡くしてから、遠くへ引っ越してしまったのだ。

(クラスメイトなのに覚えてないって俺って影薄いのか…。まぁどうせ眼中になんか入ってなかったんだよな。)そう思い、

「あー…の、一応俺小学4年の時のクラスメイトだった津和夫木駆。でも話したこと無かったし、覚えてなくて当然だよな。」渇いた自嘲の笑みを浮かべる。

「そうだったんですか!?すみません、失礼なこと言ってしまって…。」すみれがうつ向く。

「あっ気にしてないから大丈夫だって!それより仕事内容の方聞いてもいいか?」なんだかすみれの様子を見ていたこちらが悪い気がしてきて慌てる。


「仕事の内容をお話する前に、理解しておいてほしいことがあります。」表情を少し硬くし、すみれが言う。

「理解…?」なんのことだかさっぱりわからず返すと、こくりとすみれがうなずく。そして先ほどのメモに少し目を落とし、

「小4の時のクラスメイトの津和夫木さんなら知っているかもしれませんが、私は事故で両親を亡くしました。そして、その時の怪我で、私自身も記憶障害になってしまったのです。」他人事の様にすみれが話す。

「…!?ちょっ…ちょっと待って。記憶障害って…?」事故にすみれ自身も事故に巻き込まれたのは知っていたが、その後遺症が残ったなんて初耳だ。

「具体的に言うと…昨日の記憶が私にはすごくおぼろ気で、一昨日より以前の記憶は白紙も同然。だから、あたなのことを覚えてなかったのも、その障害のせいだと思います。今日改めてあなたのことを覚えたとしても、明日にはまたぼんやりとした記憶になってしまうんです。」すみれの顔が悲し気に歪む。

「…っ…!…で、でもそしたら、何回でも何十回でも自己紹介するよ!忘れたら、また覚えればいいだけの話じゃん!」正直衝撃は受けたが、何よりすみれの悲しむ顔は見たくなった。

「嫌…じゃ…ないんですか?私のまわりの子は、私から離れていったのに。」すみれが不思議そうに聞いてくる。

「全然!じゃあ俺が新しく友達第1号だ!!」にっと笑う。

「…クス…津和夫木さんて…変なひと…。」少し呆気にとられた後、すみれが笑う。

「ハハッそうそうその笑顔!やっぱり清水さんは笑顔が似合うよ!」照れながら本心を言う。

「それと!元クラスメイトなんだから、敬語とさん付けは禁止な。駆で良いって。」ちょっと真面目な顔をして言う。

「じゃあ…そうする…ね。私のこともすみれでいいよ?」少しはにかんで、すみれが言う。

「よっ…よろしく…な、す…みれ…。」なんだか恋人同士みたいだと感慨にふけっていた駆は、

「…で、お願いしたいのはね…。」というすみれの声で我に返った。

「っあぁ!…うん。ごめん、ごめん。」仕事中に何を考えているんだと心の中で自分に喝をいれる。

「…私の…過去を探して…。」

「…過去?」

「両親を亡くして…自分も障害を負って、いろんな県に住む親戚にタライ回しにされていたから、その時の…。私が確かに生きてきた証を見つけてほしいの!」

「…す…みれ…の生きてきた足跡を辿るみたいな感じでいいのか?そうすれば、少しでも記憶に残っている風景とかあるかもしれないな。」まだ呼び捨てに慣れない。

「うん、一緒に来てくれると嬉しい。1人旅は不安で…。でもこういうのは…畑違いかな…?」さらさらのストレートの黒髪を耳にかけながらすみれが言う。

「いっ…や、そんなこと…ないよ。俺にも手伝わせて!!」駆は鼓動が速くなるのを感じた。



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