〜キミが教えてくれたこと〜
バイクの調子を改めて確認し、はした金を持って、さぁ出発と意気込んでいる駆とは反対に、太守は少し落ち込んでいた。どうやら母親に電話で叱られたらしい。
「…母ちゃんに怒られたんだろ?行くのやめるか…?」一応太守の気持ちを確かめる。しかし、父親の元に行きたいという気持ちまでは曲げられなかった様で、
「おっ…おこられたってへいきだもん!」と明らかに痩せ我慢している返事が返ってきた。
「じゃあ俺も連帯責任だな。」
「れ…?」太守が目をパチクリさせる。
「つまり一緒に怒られてやるってこと!」にっと笑って、太守の頭にぽんっと手を置くと、
「かけにい、ありがと!」と太守の顔が綻ぶ。
バイクが風を切って走る。風の心地良さと、風景がどんどん移り変わっていく様子に太守は心弾ませている様だ。その様子を駆は微笑ましく見守る。弟がいたらこんな感じなのかなと、少しくすぐったい気持ちになった。
太守の体調も考え、高速ではサービスエリアにこまめに寄り、休憩をとった。たくさんの人が行き交う様子を物珍しそうにキョロキョロと見渡す太守の様子が実に可愛らしく、思わず笑ってしまう。
「…クス…なんだ、太守はこういうとこ初めてか?」
「こんなにひとがいるとこなんてはじめて!それにおみせもいっぱいあるね!」太守が頬を高潮させて言う。
「腹…減ったろ?好きなもん買ってやるから、何でも言えよ?」そう言ったにも関わらず、太守が選んだのは、安いソフトクリームだった。遠慮するなと言ってもするから仕方なく、うどんを買って半分ずつ食べた。
大阪に到着すると、直ぐ様太守の持っていた父親の住む住所のメモに向かう。日曜の今日は父親は仕事は休みらしい。
「父ちゃんと会ったら、何がしたい?」と、エレベーターで父親の部屋に向かう途中、ニヤニヤしながら駆が問いかけると、
「うーんと…えっと…ママもボクもげんきだよっていいたい!」と大真面目な顔で太守が答える。その時駆は、太守が決して遠慮深い訳ではなく、元から欲がないことに気づいた。
インターホンを押すと、穏やかな男性の声が聞こえた。その声に、
「パパ!?ボクだよ、太守だよ!」と興奮を抑えられないという様子で太守が答える。やがて早足で扉に近づいてくる音が聞こえ、
「太守!?来てくれたのか?」という声と同時に扉が開き、中から出てきた父親が太守を抱き上げる。
「パパ!あのね、かけにいっていうたっきゅうびんやさんが、ボクをここまでおくってくれたの!」にっこりと太守が言う。
「宅急便屋さん…?」
「あのっ初めまして。私は、幸せ宅急便というものをやってる津和夫木と申します。」駆は深々と頭を下げる。
「この子を私のところへ送る…つまりは幸せを運んでいただいたんですね。どうもうちの子がご迷惑をおかけして…。しかし、私もなかなか会いに行けないので、とても嬉しいです。有り難うございました。」にこやかに父親が言う。
「迷惑なんてことありません。良いお子さんですよ。バイクでここまで来たのですが、無理をさせていなければいいですが。それに私が少しでも役に立てたなら幸い…で…すっ。」怒られることを覚悟してきたのに、逆に礼を言われて胸が熱くなり、涙が溢れた。
帰り際、部屋に入っていた太守が少し照れた様子で出てきた。
「…かけにい…ありがとう。これあげるっ!」そう言って駆の似顔絵をくれた。にこ宅Tシャツを着て、バイクに乗ってる絵だ。
「ありがとな、太守。お前は偉いけど、もう少しわがままになってもいいと思うぜ?コレやるよ!」駆が地元商店街の福引きで当てた遊園地1日無料券を太守に手渡す。
(一緒に行く相手もいなくて、忘れかけてたけど、結果役に立って良かった。)
「わぁ!!本当にもらっていいの!?」はしゃぐ太守。
「おう。父ちゃんと滅多に会えない分、たくさん思い出作ってこいよ!」
「また…あえる?」少し寂しそうに太守が訊ねる。
「おう!またいくらでもバイク乗せてやるよ。行きたいとこ考えとけな!」満面の笑みで返す。
帰り道は行きとは違い、なんとなく切ない様な変な気分だった。太守と父親が再会した時は、確かに嬉しかったが、やはり短い間でも弟のように思っていた太守が一緒に乗っていないバイクは、いくら風を切って走っても、物足りない気がした。しかし、お客様を幸せにするのが自分の目的であって、自己満足する為にやっているのではないと思い直し、星空の下家路へと着いた。