〜初日にして今後ないお届けもの!?〜
開店までの期間、駆はビラ配りに看板作り、お店の外・内装、バイクの整備…と忙しく働いていた。しかし、その疲れは心地よく、とても充実した日々を送った。
開店当日、駆は2時間前からそわそわと最終チェックを繰り返した。
「今日が本当の俺のスタートだ!もうダメニートなんて言わせねぇぜ!」不安ももちろんあるが、顔のニヤけが止められないのも、また事実だった。
そして開店時間の10:00。駆の心拍数が最高潮になった。しかし、まだ客足の気配は微塵もない。少し拍子抜けしたことは否めないが、ここ何日かで忍耐力も付いたので、取り敢えずまだまだこれからと自らに言い聞かせる。そう、まだ始まったばかりなのだから焦る必要はない。
お昼近くになった。流石の駆も考えが甘かったかと焦り出す。このまままたニート生活かと溜め息を溢した。ちょうどその時、カタっと扉の辺りで音がした。
駆は、バッと立ち上がり、扉を開く。すると、外には誰もいない。気のせいか…と思い閉めようとすると、下の方から、
「…あっあの…っ。」というか細い声が聞こえた。下のを見ると5歳くらいの男の子が立っていた。
「どうしたの?…ママのお使いかな?」小さくたって大事なお客さん第1号だ。駆は怖がらせないように、やさしく話しかける。
「…えっと…たっきゅうびんやさんってなんでもはこんでくれるんですか?」
おずおずと話す男の子。宅急便屋さんと呼ばれて改めて喜びが込み上げる。
「うん!俺ができる限りのことはするつもりだ!」満面の笑みをむけると、男の子がキラキラと目を輝かせて、
「じゃあ…ぼくをはこんでください!」とハキハキ言う。
「…ちょっ…ちょっと待って!それは話をくわしく聞いてもいい?」下手をしたら誘拐になってしまう。ここは慎重に行くべきところだ。
「ボクのパパ…ひとりでおおさかってとこでおしごとしてるんです。ボク…パパにあいたくて…。ママにつれていってほしいけど、ママもおしごとしてるので…。」とうつ向く。この子なりに気を遣っているらしい。駆は心からこの子の役に立ちたいと思った。
「よっし!じゃあ大阪まで連れて行ってやるよ。でも、お母さんに連絡してからだぞ。」
「あっ…おかねは…っ!」とばっと顔を上げ言いかけたところで、
「いいって、いいって。金は取らねぇよ!それより大阪までバイクだが…大丈夫か?」お金より、この子がバイクの長旅に耐えられるか駆は心配だった。
「へいきです!よろしくおねがいします!」ぺこんと頭を下げる。
「そうだ。名前聞いていいか?俺は駆。かけにいとでも呼んでくれ。それと敬語止めろ。子供は子供らしくが1番だからな!」にかっと笑ってやると、
「うん!!ボクは太守だよ。」と満面の笑顔で返ってきた。
「なんか…変わった名前だな。でも×と+で相性はいいかもな!じゃあ狭い店だが、用意する間上がって少し待っててくれ。駆はそそくさと準備に取り掛かった。正に自分がしたかったのはこういう仕事だったのだと改めて感じた。