~幸せお助けマン改め幸せプレゼンター?②~
ウメの家から出た時、辺りはすでに薄暗くなり始めていた。
「ウメさん…あんなに元気そうなのに…。」バイクに乗る元気もなく、押しながら歩く。もう長くないと言ったウメの言葉があまりにも衝撃的だったのだ。
「……。」無言で店のドアを開ける。
「あ!おかえりなさい。」店終いをしていたすみれが、笑顔で近寄ってくる。
「すみれ…ごめん…早く帰ってくるって言ったのに…。」笑おうとしてるのに、うまく笑えない。
「…?…大丈夫だから、私のことは気にしないで?それより、疲れたでしょ?あのね、お母さんと夕食作って待ってたの!」すみれは、駆様子がおかしいことに気づいたが、敢えて触れなかった。
駆は、それから週2回程度の頻度で、ウメの自宅に行く様になった。毎回夕方まで話をする。行けない日は、電話で話をして、さりげなく体調を確認した。
ある日いつものように、ウメの家を訪ねると、インターホンを押しても返事がなく、家の鍵も開いたままになっていた。背筋が凍る思いがして、玄関を勢いよく開き、靴を脱ぎ捨てる。
「ウメさん!?ウメさん!!」呼びかけるが返事がない。
寝室の横を通った時、小さなうめき声の様なものが聞こえた。慌てて寝室に入る。
「…っ…か…ける…くん?」ウメが掠れた小さな声で駆を呼ぶ。
「ウメさん!!大丈夫ですか!?救急車っ…!」一瞬安堵し、まだ安心できないことを悟る。
「大丈夫。…か、風邪…だと思って…たら…こじらせっ…ゴホッコホッ…。」何日か寝たきりだった様で、以前の面影がない。
「しゃべらないで下さい!温かくして…えっと…あと、何か消化の良いもの…おかゆとかっ…作ります。」とにかく元気になってもらいたい、その一心で、混乱する頭で真剣に考えた。
「ふっ…じゃあ…お茶…。」ウメが小さく笑う。
「お茶ですね!すぐ淹れます!」
(何が…幸せお助けマンだ…。全然力になれてないじゃないか。)こんな自分が情けなくて、不甲斐なくて、胸が締め付けられる。
「ウメさん!どうぞ。」努めて明るく、ウメにお茶を差し出す。
「あ…ごめんなさい。私じゃ…なくてね?」ウメが言いながら、横を向く。そこには、仏壇にあった写真がもってきてあった。夜寝る時は寝室へ持ってくるらしい。
「2、3日動けなくて、お茶も…淹れられなかったから…。」苦しそうにウメが言う。
「そうだったんですか…。でも今はウメさん自身のことも考えてください。旦那さんが心配しますよ?」ウメの想いの強さに心打たれた。
「もうね…充分。私は私の人生を生きたわ。私が生かされた…のは、多分あの人の分も平和な世を見る為…なの。だからもうこれ以上は望ま…ない。」ウメが静かに言う。その表情や口調から迷いは、一切感じられない。
「……。」言葉が出てこない。
「…でも…っ…駆くんに最期に会えたのは、嬉しかった…わ。駆が私に幸せをくれたの…。」ゆっくりと手を布団から出し、側に立つ駆の手を優しく握り、
「頼んだ…お仕事…よろしく…ね…?」にっこりと微笑むウメ。そして眠るように目を閉じた。
1ヶ月後。散骨というのは、賛否両論あり、取り決めが厳しく、又身内でもないということで、時間がかかってしまった。しかし、やっとウメとの約束が果たせるのだ。すみれと共に飛行機に乗る。
駆たちが到着した時は、既に夕方だった。大きな夕日が海面を照らしている。
「ウメさん、着きましたよ。」ウメの遺骨に話しかけ、骨壺を開けて、海へ撒く。
「ウメさん…旦那さんに再会できるといいね。」祈る様にすみれが言う。
「うん…。でも、多分逢えるさ!お互い逢いたいだろうしね。」海を見つめ言う。その時、
『そばにいられるだけでもすごいことなんだから、自分から逃げてちゃダメ!』というウメの言葉が頭に響いた。
「なぁ…すみれ。」隣にいるすみれを見る。
「ん?なぁに?」駆の方を向くすみれ。
「一緒に暮らさないか?」まずは自分から一歩歩み寄るところから始めたいと思った。
「…っ…はい!」頬を少し赤らめ、満面の笑みで、すみれが返事をした。
『幸せと笑顔を届けます。 あなたの幸せ助けマン』
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