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~幸せお助けマン改め幸せプレゼンター?①~

リリン~リリン~♪電話が鳴る。

「はいっ!こちらにこにこ宅急便です!…はい、ご自宅までですね。住所は…?…はいっ…はい。では、10時ごろお伺いいたします。」電話の応対も大分慣れてきた。

カチャ…と店のドアが開く音がする。

「おはよう、駆くん!今日もよろしくお願いします。」と、言いながらすみれが入ってきた。

すみれは、あれ以来、店を手伝ってくれている。駆が彼女にもやりやすい仕事を考え、それをすみれがやるというのが習慣になっていた。

「あ、おはよう。今日は店番頼むな。もし…電話とか依頼の人が来たら、住所・電話・名前・依頼内容を聞いて、メモしといてくれ。」駆はどんな些細な仕事も、すみれに丁寧に指導した。

「えっと…住所、電話…と名前、依頼内容を聞いてメモをするっと…。」すみれは所持していたメモ帳に丁寧に記入する。

「わ、時間!…じゃっ行ってくる!なるべく早めに帰ってくるから。」時計を見て、慌ててドアを出ようとすると、

「駆くん。気をつけて…ね?」不安そうな顔で呼び止めるすみれ。

心的外傷後ストレス障害…所謂PTSDによって無意識のうちにすみれは事故に過敏になっている。待っていてくれるすみれの為にも安全に仕事をこなす責任が駆にはあるのだ。

「おう!行ってくる!」安心させるように笑い、バイクに乗る。


「おばさん、行きましたよ?」店と駆の家を繋ぐドアを軽くノックすると、

「まったく。やっといったか。時間勝負なのにね。で?なんか…言ってた?」渋い顔で駆の母が家の方から出てくる。それを見て、

「『なるべく早く帰ってくる』って…。」クスクスとおかしそうに笑うすみれ。

「早く帰ってきたことなんかないくせに…本当に口だけなんだから…。」ぶつぶつと言いながら、店の掃除を始める母。

「あ、駆くんは優しいからっ…困ってる人とか見ると、ほっとけなくて…だから帰りが遅くなるんだと思います。本人のせいじゃないですよ。」すみれも慌てて掃除を始め、フォローを入れる。

「まぁそれはいいとしても!すみれちゃんひとりに店番させるとか、あり得ないわよ。ただでさえ物騒な世の中なのに…。」母の言葉は、愚痴というより最後は心配になっていた。

駆は母に店を手伝ってほしいとは決して言わない。今まで苦労をかけてきた分のんびりと過ごしてほしいと思っているのだ。


「…ふぇっ…くしょい!…母ちゃんが俺の悪口を言ってやがるな。」駆の勘は鋭い。ただし母に関してのみだが。

「こんにちはー!にこにこ宅急便です!」気持ちを切り替えて玄関のインターホンを押す。

『はい、緑橋みどりばしです。宅急便屋さん?どうぞ、お入り下さい。』品の良さそうなおばあさんの声がした。

「失礼します!…あ、津和夫木 駆と申します。お世話になります!」丁寧にお辞儀をする駆。

「あらあら、随分お若い方なのねぇ。私は、緑橋 ウメと申します。まぁ上がってくださいな。お茶でも出しますから。」にこにこと朗らかにウメが話す。

居間に通され、すぐ目についたのは、立派な仏壇だった。そこには小さな写真立てが置いてあり、白黒の写真には、まだあどけなさの残る青年が写っていた。

「この写真ボロボロでしょう?でも1枚きりだから、それしか飾るものがなくてねぇ。」駆の視線に気づき、ウメが恥ずかしそうに話す。

「…息子さん…ですか?」なんとなく気になってしまい、無意識に聞く。

「ふふっ…そう思われても仕方ないけど、これはれっきとした私の旦那様よ。」少し胸を張り、

「でも…」と言葉に詰まるウメ。「特攻隊で…死んでしまったの。…最期まで戦争なんて間違ってるって言ってたわ。…まぁ夫婦と言っても軍が決めた上に、1日限定だったわけだけどね。でもふたりで過ごした時間は穏やかで…幸せだった…。」哀しげに、でもどこか誇らしげに、ウメは話す。その顔は、少女の様だった。

「…立派な方だったんですね…。」決められてした結婚でも、確かにふたりは気持ちが通じ合っていたのだろうと思えた。


「あっ…私ったら、湿っぽい話を話をしてしまって、ごめんなさいね。話を聞いてくれる人がいなくてね…それに、あなたがあの人と同じくらいに見えたから…つい。」申し訳なそうな顔をするウメ。

「構いませんよ。…あれ?独り暮らしなんですか?」笑顔で応え、疑問を口にする。

「もちろん!私にとってあの人以上の人はいないわ。」ウメがとても嬉しそうに笑い、

「…あなたは?」と問う。

「へ?」驚き、声が裏返る。

「あなたにはいないの?大切な人。」楽しそうなウメ。

「……あー、いるにはいる…、けど…じゃない、ですけど…その…なんというか…あんま望みはない…かも…しれません、ね…ハハッ…。」なんだか言っていて虚しい。自嘲的な笑いがこぼれる。

「諦めちゃだめよ?まだ若いんだし…。それにね、その人の近くにいられるってことだけでもすごいことなんだから、自分から逃げちゃだめ!」

「…ぷっ…ウメさん考え方が若い…。」思わず吹き出す。

(なんだか、恋愛相談に来たみたいだ。)

「恋してるからかしら?」悪戯っぽく笑うウメの顔は年齢としを感じさせない。


「実はね…今日あなたに来てもらったのは…。」ふいに真顔にウメ。

「…はい。」つられて真顔になる。

「私が死んだら、骨を旦那の散った真珠湾に撒いてほしいってお願いする為だったの。」ウメの顔からは堅い決意が窺える。

「それ…は…。」言葉を無くす。

「ごめんなさいね、びっくりさせてしまったかしら?…でもね、私もう長くないのよ。

病院の先生や看護師さんは、なにも言ってくれないけど…自分の身体だもの、解るわ。」キッパリとウメ。

「その…怖くないんですか?自分がいつどうなるかわかないのに…。」聞いているこちらが動揺してしまう。急に喉が渇いた。

「怖くないって言ったら、嘘になるわね。…でも、恐怖よりやっとあの人に逢えるっていう嬉しさの方が大きいの。…ふふっ…笑っちゃうでしょう?」少し遠い目をしてウメが言う。

「そんなことないです!」

多くの人は死に絶望を感じてしまうが、もしウメの言う様に先立った人たちに逢えるとしたら…なんと素晴らしいだろう。そうであればいい、そう信じたいという思いが駆にはあった。

「私には、頼れる親戚もいないし…駆くんなら安心して任せられるわ。こんなこと頼んでごめんなさいね…よろしくお願いします。」深々と頭を下げるウメに何も言うことはできなかった。



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