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読み切りシリーズ 『鍋』

作者: 立花KEN太郎

 ボクはおなべがすきです。

 一ばんすきなのは「すきやき」です。

 たまごとおにくをグシャっとかきまぜてたべると、あまくてしょっぱくておいしいです。

 ママが「今日の晩ご飯、何がいい?」とボクにきいてくると、ボクはぜったいに「すきやき」ってこたえるぐらいすきです。

 パパとママと、それからおとうとのハヤトと一しょにたべるおなべはおいしいです。ハヤトはまだ赤ちゃんなので、ママのおっぱいしかのめないけど、いつかハヤトもすきやきがたべれるようになるんだろうなあと思いました。


 俺?ああ、俺の一番好きな料理は鍋だね。特に……え?いやいや、本当だって。あれが好きなんだよ、マジで。冬だけじゃなくて夏にも囲みたいくらいだね。ま、そんな物好きは俺ぐらいだろうけどさ。

 それでさ、俺は鍋の中でも特に、「塩鍋」が好きなんだよ。ほら、塩ラーメンで使うスープみたいなやつに豚肉とかいれてさ。部活で疲れた後にスープの味が染み込んだ肉を口の中に放り込むと、口の中にスープと肉汁が絡んだ味がいっぱいに広がってな……おかずにすればご飯5、6杯は行けるのさ。でも俺の弟が……えーと、今6つ下の小学5年生で、あいつも食べ盛りでよ、肉をめちゃくちゃとって行くんだよ。だから毎回と言っていいほど俺と取り合いになるわけだよ。その度に母さんが肉を追加してくれて……まあ、そんな幸せな日々も含めて、俺は鍋が大好きなのさ……。

 ……ちょっと今のはナシにしてくれ。お、おい!絶対他のヤツらに言うんじゃねーぞ!!特に……いや、なんでもない……は、はあ!?関係ねーよ、菊池のことなんて!あれはただの噂だって、俺がアカネと付き合ってるなんて……あっ。

 ちょっ……待っ……おっ、そっ、そういや、お前は、ど、どうなんだよ?どんな食べ物が好きなんだよ、なあ?

 は?切り干し大根?


 私の一番好きな食べ物は鍋です。特に好きな鍋料理は「味噌煮込み鍋」です。味噌の濃厚な味わいが、あっさり目の豚肉に一番合います。

 鍋料理は、去年の12月に他界した母が作ってくれて、家族4人で食卓を囲んで食べていました。鍋を囲むと、普段は会話が少ない私の家族が、「この肉おいしいね」とか「キャベツがシャキシャキだね」など、封を切ったように話をしだすんです。私の家族にとって、鍋料理は団欒の象徴です。

 この経験を踏まえて、多くの家庭に暖かい団欒の時間をと届けたい、と言うのが御社を志望した理由の一つです。


 ……そうだな、今夜は「キムチ鍋」がいいな。舌に効くピリ辛のヤツにしてくれ。大人の味ってやつだ……そうは言ってもだな、こういうのは毎週、いや毎日だって食べたいぐらいさ。

 ……「どうして鍋が好きか」だなんて、今年で10年になる夫婦間の質問とは思えないが……まあ、答えようか。

 子供の頃は、純粋に豚肉とスープの味が大好きだった。ま、今でも大好きなんだが、家族とか、大切な人との思い出には大体鍋が付き物なんだよ。もちろん、お前達ともな。

 そうだ、まだお前に言ってなかった話があるんだ。お前が怒るかもしれないから今まで黙っていたんだが……いいか?

 分かった。まあ、高校時代のこと、本当に昔のことだ。好きだった女の子がいたんだよ。1個下の後輩、名前は菊池アカネって言うんだ。……そう、アカネ。名前は彼女からとったんだ。それで、まあ、付き合っていたんだよ、本当のことを言うとな。

 忘れもしない、俺が高校2年生のこと、12月8日のことだ。初めて彼女の家に上がって、ウブな俺はすごく緊張していたのだが、彼女は俺に塩鍋を作ってくれたんだ。それで、コタツを挟んで二人で食べたんだ。

 ……あれが彼女との最後の食事だった。次の日から、彼女は忽然と姿を消したんだ。そうだよ、全国各地で行方不明車が多発したあの日だよ。あの時の俺は、彼女の両親と同じくらい泣いたかもしれないな。その日から、彼女の塩鍋の味が、俺の舌にこびりついて離れない。……とるに足らない夢の一部だ。

 ……お、おい、悪かったよ、そんなに泣くとは思ってなくって……別に、お前より、あの頃の彼女が良かったって言う話じゃなくて……


 ……おー、藤井さんかあー、久しぶりじゃのおー。

 おーい、母さん、今晩は「おでん」を作ってくれんかあー。……何、藤井さん、バカなこと言っちゃいけないよ、うちのはまだお迎えなんてきてないよ。

 ……おーい。返事がないのおー。しょうがない、今日もワシがおでんを作るしかないかあー。

 藤井さんもよかったら、一緒に食べんか。具は何がいちばん好きかね?ワシはあー、茹で卵が好きじゃのおー。白身と黄身のコンビネーションがたまらんのじゃあー。

 おでんだけじゃなく、お鍋は1人よりも2人、2人よりも3人。囲む人数は多ければ多いほど良いんじゃよおー。

 なあ、母さん。そうじゃろう……


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 御子柴茜と申します。今日は、父の御子柴健人の葬儀に参列していただきありがとうございます。

 父は生前、鍋料理をとても愛しておりましたので、今回の精進落としは皆様に「すき焼き」を囲って頂きたいと思います。これほど多くの方々に囲まれて、父も天国で喜んでいると思います。どうか良く味わって、周りとの談義に花を咲かせられるよう望みます。

 それでは、献杯。

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