犬と熊編 4th-contact
4th-contact
小さな思い
「つ、付き合ってください!」
カラコンを外した途端に、告白されるようになった。
この学校の女子ちょっと飢えすぎだろ……。
「いや、今そういうのには興味ないんだ。ごめん」
断っても断ってもとどまることを知らない。
何度も何度も屋上に連れ去られては付き合ってくれと言ってくる。
「こりゃ篠田も疲れるわな……」
屋上をあとにする女子の背中を見送りながら呟いた。
「─海堂くん、えらいモテモテやな」
とニヤニヤしながら白鳥さんは言ってくる。
今のところ普通に会話ができるのは篠田と白鳥さんだけだ。
小堀さんは篠田にべったりで離れないから、あまり話すことは無い。
「あんまり嬉しくねぇ……なぁ、やっぱカラコンつけてきていいか?」
「だーめ!絶対にアカンで」
「いや、これは体力持たねぇよ」
愚痴をこぼすが、白鳥さんはまるで気にしていない。
ふと、あたりを見渡すと、クラスの女子達がこちらを、というか俺の机に腰掛ける白鳥さんを睨んでいた。
なんだか不穏な空気が流れる。
「なぁ、白鳥さん。あんまり俺に近づかない方がいいぞ」
「なんで?」
「周り見てみ、すげぇ睨まれてんぞ」
「あー……ホンマやなぁ」
白鳥さんは興味なさそうに答える。
なんだ?手応えないな。
「何されるかわかんねぇんだぞ?」
「そんときは守ってや」
「おい、そうじゃなくてだな」
「守ってくれへんの?」
「いや、そういうわけじゃねぇけどな……」
俺が守りきれるとも限らないのに、よく信頼できるな。
俺はそれが不思議でならなかった。
「守りきれるとは限らねぇ」
「そんときはそんときやな。諦めるしかないわ」
「呑気なもんだな。もう一回言うぞ。俺にあんまり近づくな。これは警告だ」
「えー……。そんな堅いこと言わんでも」
「何かあってからじゃ遅ぇんだよ。頼むから」
「ややなぁ……」
どうしても離れてくれない。
言いたくはなかったが、仕方ない。
俺は意を決して、白鳥さんに向き直る。
「生憎、俺はあんたが嫌いなんでな」
白鳥さんは一瞬にして表情を変える─焦燥と不安だ。
罪悪感がやべぇ……。
「え、だってあの時─」
「あぁ、信じてみるって言った。でもな、そんなの無理なんだよ。どうやってもな」
その表情は恐怖へと変わる。
心がいてぇ……!
「じゃあ、騙したん……?」
「はっ、騙される方が悪いんだよ。わかったらさっさと行けよ」
「っ……」
言い過ぎた……!
完全に言い過ぎたが、危険を避けるにはこれでいいのだ。
白鳥さんが唇を噛む。
そして何も言わず、自分の席に戻って行った。
✲✲✲
海堂くん、なんであんなこと言ったんやろ?
彼が言ったことを不思議に思いながら、昼休みは小堀たんとご飯を食べた。
「なぁー、小堀たん」
「こ、小堀たん?」
戸惑う小堀たんを無視して、私は話を続ける。
「さっきな、海堂くんに嫌いやって言われてん」
その瞬間、小堀たんの表情が凍りついた。
そして私の肩を掴んで
「それ、本当?」
「うん、ついさっきの事やけど。なんであんなこと言ったんやろなぁ」
小堀たんは困り果てたように不安げに私を見つめている。
「あんなに海堂くん優しいのに、何かあったの?」
「なんか、俺にくっついてたら目の敵にされんぞって言われて……」
と私が言うと、小堀たんはそういう事かと手を打った。
「実はね、私1回嫌がらせみたいなのされて、その事を海堂くんが知ってたからじゃないかなぁ?」
ふむふむ、嫌がらせ……。
「例えばどんなの?」
「足怪我させられたり、呼び出されたり、結構怖かったよ」
「うへぇ……。少女漫画みたいやな」
少女漫画?と首を傾げる小堀たん、可愛い。
でも、だからといって私が海堂くんから離れる理由にはならない。
「まぁ、いつも通り話しに行くねんけどな」
「凄いね白鳥さん。私は嫌いなんて言われたら、しばらく立ち直れそうにないなぁ……」
正直言われた時は絶望したけどな。
「まぁ、小堀たんは優しいからなぁ」
「あとその、小堀たんって言うのは……」
「あ、嫌やった?呼び方が決まらんくてなぁ」
ははっと私が笑うと、つられて小堀たんも笑い返す。
「嫌じゃないよ。ただ、その…友達にそんなふうに呼ばれたことがなくて」
少し照れるように小堀たんは言う。
しっかしこの子可愛いなぁ。
「そりゃ篠田くんもメロメロなるわなぁ……」
「へ?」
「あ、いやこっちの話」
不思議そうに首を傾げる小堀たんを見て、また可愛いとしみじみ思うのだった。