ノーと言える日本
丸小首相は困惑していた。
X国が自国の貿易赤字を口実に、わが国に対して無理難題を吹っかけてきたのだ。
これまでも丸小首相の人の好さに付け込んで様々な要求をしてきたが、今回ばかりはそう簡単に受け入れられるものではなかった。
丸小首相はさっそく各大臣を招集し、緊急会議が始まった。
「えっ! X国はそんな無茶を言ってきたんですか?」
「何を考えているんだ! そんな事ができるわけないだろ」
「まったくだ! 首相、まさかその要求を受け入れるつもりじゃないでしょうね」
大臣たちは口々にX国への怒りをあらわにした。
「無論こんな無茶な要求を受け入れるつもりはない。来週のX国との会談の際に、はっきりノーと言うつもりだ」
「そんな強気なこと言っていいんですか? どうせ、いざとなったら、いつものようにイエスって言っちゃうんでしょ」
「そうそう。今までも、ずっとそのパターンだったからな」
「首相のイエスマンぶりは、すっかり板に付いてますからね」
大臣たちは、これまでの丸小首相の態度から、また同じことが繰り返されると踏んでいた。
「君たち、口を慎みたまえ! 私はいざとなったらやる男だ」
「その言葉が嘘にならぬよう、我々も心から願ってますよ」
翌週、X国首相が通訳を従えてやってきた。
丸小首相と大臣たちは、高級ホテルの一室に彼等を招き、さっそく会談が始まった。
通訳が言うには、X国は要求を変えるつもりはないとの事だった。
「ほらっ、やっぱりナメられてますよ」
「首相、ここは一発ぶちかましてやりましょう」
「今日こそは、はっきりノーと言ってください」
大臣たちが見守る中、丸小首相はゆっくりと立ち上がり「そこの通訳の人! 今から私の言うことを一字一句漏らさず、ちゃんと伝えてくれ!」と、通訳に向かって言い放った。
いつもとは違う攻撃的な丸小首相の姿勢に、周りは一気に緊張が高まり、大臣たちは今日こそはと期待した。
その場にいる全員が注目する中、丸小首相はおもむろに口を開いた。
「それでは、今から私の意思を伝えます。わしはのー! 広島生まれじゃけえのー! ノーじゃったら、なんぼでも言えるけえのー! あんまりナメるなよ!」
丸小首相の突拍子もない発言に、大臣たちは目を白黒させ、通訳はどう訳していいか分からずおろおろしていた。
その様子を尻目に、丸小首相はドヤ顔を決め込んだまま、意気揚々と退室していった。




