後悔と反省の中編ですわ!
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「でも……ルシアちゃんは許してくれたけど、この読み違い、ほかの全部に影響してくるんだよ」
「他って……?」
「ひとつは『あそこで誰かの噂話なんて聞けっこない』ってことだね……。あそこには、ボクの思ってた以上にひとは来ない。……そしてボクが思ってた以上に、人が来ないわけでもないんだ……!」
その言葉は、一見して大きな矛盾にも聞こえる。
だが今の私は……それが一切の矛盾のない、紛れもない事実であることを、よく理解していた。
「ええ。きっとリアムは、使用人さんや官僚様たちがたまーに廊下を通る。庭の方には基本人通りはなくて、来るとしてもちょっと休憩がてら、誰か一人二人が立ち寄るくらい……。そう考えてあの道を選んでくれたのよね」
先程より、若干顔に差す陰は薄い。私の能天気な顔と声が少しばかりは気休めになっているのか、首を幾分上げてくれているからだ。しかし、こくりと頷く姿にまた陰が色濃くなる。
「うん。ボクはこの宮から出ることは少ないけど、あのへんで貴族はあんまり見かけないなぁって思ってたんだ。ルシアちゃんと歩いたあたりが近道になる省庁はいくつかあるんだけど、どれもすぐ近くだったり、あの道を必ず通らなきゃいけないわけじゃないからね」
そっか、思い返せば確かにそうだった。
人通り自体がまばらな中、お見かけした宮廷貴族様とおぽしき方は、全員急ぎ足であった。
少しでも時間と距離を短縮すべく、近道を全力活用中の方しか通らないわけか。
「でもそのぶん、宮からながめる庭は綺麗だから、きっと外庭使用人の出入りはそこそこあるはず。それと、お昼になれば女官たちが休憩に使ってそうだなって。貴族はいなくて、使用人や官僚は来る。そんな場所だろうって、勝手に想像してた」
一旦言葉は区切られたが、おそらく終わりではないはず。だから今口を挟むことはしなかった。しかしリアムが続けようとしている話、その意図はわかる。
その予測はむしろ真逆だったわけだ。
「だいたいの女官のお姉さんたち、中級か下級使用人のお兄ちゃんたち、一部の宮廷貴族相手なら、ルシアちゃんの方が身分が上だからね。一緒に東屋でおとなりに座ったり、席を譲ってくれたりしながら。ボクが知らないこととか、ボクがあんまり言えないようなお話を、しがらみなく聞かせてくれるんじゃないかなって」
「え……ええ、うん……。なるほど……?」
思わず間抜けな声が漏れる。
最近。というか、貴族の身となってから。
リアムをはじめ、リゾート領地の予約管理など、必然的に高貴な方々と関わりを持ち、その世界を垣間見る機会が増えた。
その中でもなかなか信じ難く、つい近日も衝撃を受けたのが、今リアムが述べた「どうやら私の身分は貴族最低位ではないらしい」という事実だった。
私は現男爵の嫡女であり、ほぼ確実な次期爵位継承者。
それゆえ、「兄や姉がいる男爵の娘」「伯父など親族が男爵であり、あくまで『男爵家』の令嬢に過ぎない」方。
もしくは男爵家より家格が上でも、継承権が望めない方や傍流の方。
そうした方々よりも、あくまで形式としては身分が上らしいのだ。同じ男爵令嬢の中にもいろいろあるらしい。
貴族出身の官僚様の中にはそのようなお立場の方々も多い。
しかしどうしても腑に落ちない。だって私、「そうらしい」という知識を得ただけで、未だ納得はできていないのだ。
何せ、教養の深さや御心の優しさ、血筋に抱く誇り……。思いつく限りのあらゆる点で、私がかの方々に勝るものなどないと思う。
私こそ貴族の末席である事実も変わらないのだ。貴族教育なんて受けていないも同然だからな……。
心はおそらく、一生平民のまま。
そのため、リアムの話題に頷くことすら憚られ、非常に微妙な表情で聞いていることしかできない私だった。
かわいいの極みのリアムの話をまさか全肯定できない日が来るだなんて……!
……まずは本題に戻ろう。
そう、あの道には「私が安全に、かつ望む情報を得られる」人はきっと滅多に来ない。
その代わり。こんな裏庭に来ないと予測したはずの、「私にとってもリアムにとっても危険」な人間こそがよく訪れる――!
その第一人者こそ、メルヴィル・ハートランド。
王宮に訪れた際、気が向けばあの場所に足が向いているらしき言動があった。
もしかするとアーロン王子を誘って共に過ごすこともあるのではないだろうか? もし今までそれがなかったとしても、この先起こり得る可能性はかなり高い。
訪れうる人物の一人に、ディアナ様も数えられる。
メルヴィルの方からディアナ様をお誘いすることは、今までもこの先も……おそらくない。
今日のあれこれを回想すれば、あの二人はアーロン王子という最大の接点がありながら、会う機会さえほぼないのだろう。
接点のはずのアーロン王子が全く接点となっておらず、むしろ壁と言っても良い。
下手したらお互い、非爵位貴族や下級貴族よりよっぽど顔を合わせない存在なのではないか。
「二人が最初から仲の良い世界の可能性」なんて考えもしたが、万に一つもその筋はなさそうだ。
ゲーム内での描写以上、私の想像以上に距離がある様子だった。
だがディアナ様は……きっと今日以降、たびたびあの東屋を訪れるようになる。
一番近くて一番遠い人に仕える、麗しの白茶の君の姿をそこに探して。
おひとりで裏庭に佇む日もあれば、高位貴族のご友人方を伴い、手分けして彼を捜索したり、出待ちしたりするかもしれない。
また、話に少しあったが……姿が見えなくなったメルヴィルを苦心して捜すハートランド公爵や、お三方のお付きの使用人さんが不意に顔を出すことも考えられる。
そして。今挙げた方々全員、揃いも揃ってリアムと出くわしてはいけない方ばかり。
リアムの存在を決して、影一つ感知されてはならない相手である。
散歩の前に彼が教えてくれたように、彼の一挙手一投足がヴァーノンの意志であると曲解されてしまう恐れがあるためだ。
仮に今なんとも思わなくとも関係ない話。
数日後……あるいは数十年後。
ヴァーノンとの関係に何かが起こった際、何気ない、取り留めのないはずだった今日のすれ違いがまるで動かぬ証拠のような扱いをされ、頑強な壁を決壊させる一片のヒビとなる可能性だってある。
リアムは言っていた。――「私が疲れにくい、歩きやすい道」「安全に情報が集められる」「こっちから向こうを観察することはできるけれど、話しかけられたり見つかったりはしない」――それが今日掲げた条件だと。またこのうち、わずか一つ目しか守ることはできなかったのだ、とも。
だいぶ自分の言葉で噛み砕いてしまったが、概要は合っているはずだ。
リアムが言うからにはきっとその通りなのだろう。
ただしそれは、優しくまじめなリアムが自らに課した厳しい設定で言えば……の話だけれど。
「――貴族がいないんじゃない。『宮廷貴族』がいないだけなんだ……! 使用人は、きっと実際たまに来る。でも外庭使用人じゃなくて、アーロンくんの宮やメルヴィルくんのおうちの使用人が……! 事前情報を入れて、ちゃんと調査をさせればわかってた。……だってあの場所は、メルヴィルくんのお気に入りなんだから……!」
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