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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
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雲泥の認識すり合わせ、前編ですわ!

□二週間まるまる止まってしまって申し訳ありません……! 胃痛系の体調不良に陥っておりました。このご時世、体調管理というと感染予防や免疫力等に目が向きがちですが、身体全体に気を配らなくてはいけないと実感いたしました。また、全国的にお天気が不安定な日が続いており、朝晩の寒暖差が激しい季節柄ですので、皆様もどうかご体調には重々お気を付けくださいませ。


「メリット……?」

 その呟きは、まるで「メリット」という単語そのものが通じていないようにも感じられた、不可思議さに満ちたものだった。

「うー……ん」「むー……」と可愛い唸り声を出しながら、真剣に何かを考えあぐねるリアムの口からやがて飛び出したのは、「……いいことなんて何かあった?」との、心底の疑問であった。

 首をかしげるリアムにつられ、私も(あ……あれ?) と首をかしげかける。

 私が大収穫の最高地だと浮かれている間、どうやら彼は想像以上に、今日の道筋に結構な後悔をしていたらしかった。


「大アリよ! どれを取ってもいいとこづくめの道だったわ。偵察どうこうを抜きにすれば、そもそも今日はあなたと一緒に出歩けるつもりじゃなかったし……リアムと楽しくお散歩できたっていう、何より最高のメリットがあるじゃない!」


 最後の発言に対してだけは、「うーん……そうだね」と困ったように笑ってくれた。


 小首をかしげる様子が小鳥さんのようで可愛い……などと思っている場合ではない。

 私の思い込みを彼が解いてくれたように、彼の後悔も解いてあげなくては。

 何しろ、メリットを力説することにおいて、私の右に出る者はいないのだから!


  ◇◇◇


「まずね……ボク、あそこ一帯の属性を読み間違ってた。『あんまりでこぼこしてない歩きやすい道』、『安全第一に情報収集できるところ』。そして『自発能動的会話はあっても、こっちが話しかけられたりすることがない場所』……。その斥候条件のうちで、満たしてたのは最初の条件くらいだよね。ほら、ルシアちゃんの目的のためには、情報監視と隠密偵察の両立が必要だったでしょ? それなのにルシアちゃんの安全条件も守れなかった。ボクは適地を選んだつもりで、もしかしたらただ、ボクがやるべき許可とか申請の手間……自分のめんどくささだけを優先しちゃっ」


「ちょ……待って待ってちょっと、ちょっと待って! な、なになに? 待ってリアム、そんな……なんて言うか、考えてくれすぎよ! 大丈夫だから。全然そんなことないのよ? 私そこまでのこと、なんにも考えても求めてもいなかったから!」


 開幕一番、仰天してひっくり返るかと思った。

 少し舌足らずな幼い口調。叱られた子犬のようにしょんぼりする姿。小鳥のさえずりの如し可愛い声。それでなければ、その愛らしい口から紡がれたとは思えない、物々しい言葉に。


 ――どんな誤解があっても大丈夫! だって何一つ失敗なんかじゃなかったんだから! リアムの悩みは私が受け止める! ……なんて能天気に構えていたが、そんな問題ではなかった。

 一つひとつの単語を耳が聞き取っても、頭がその意味を理解してくれない。

 賢いこの子は全てエレーネ語で話してくれているはずなのに、対する私の理解力は、中学一年生に大学受験レベルのリスニング問題を聴き取らせているのと同様だった。

 私とリアム。それぞれ思い描いていたハードルの高さは、歩道の縁石と棒高跳びのバーほどに違っていたのだ。


 私の思うところの偵察と、彼の言う偵察は別物。

 なおかつ、リアムが考える方こそ正しい意味でもある。

 少し思考を巡らせれば思い至ることに、全く考えが及んでいなかった。


 例えば私が思う「〇〇作戦」というのは、「ちょっとした大計画。またそれに伴う楽しい話し合い」程度の意味であって、「戦線を組み、戦略を立て、戦術を作る」という意味は持たない。

 例えば私が考える「秘密基地」というのは、「私だけ・あるいは限られた親しい人とだけの内緒の場所」くらいの意味合いで、「敵に察知されることなく、諜報や索敵を行う極秘軍事拠点」という、本来の意味で用いようとする言葉ではないのだ。


 ただ、リアムの考えるそれは全部後者なのであって……。

 そりゃそうだ。ついつい忘れがちになるけれど、だってそういえばこの子、ごく近年まで国交断絶してた元強権軍事大国、ヴァーノンの王太子なんだから……!


「リアム。あのね。すっごく色々なことを考えてくれていてありがとうね。でも違うのよ、そもそも私は今日、『後ろ盾ゼロ&父の男爵さえ同伴してない、辺境の新興男爵令嬢が通っても怒られなさそうな場所』が知りたかっただけなの。リアムの協力がほしいっていうのも、むしろ情報を聞き出したりする方が、あなたにとってリスクがあることを知らなかったから。何かリアムが知ってることを教えてもらえないかしら? くらいの気持ちだったのよ。きっぱり断られる可能性も承知だったし、私にとってもリアムが一番なんだから、断ってくれて全然構わなかったしね。そしてね、ディアナ様や王子殿下のお噂なんかが聞けたらいいなっていうのは、『ある日どこかの公爵様がぽんと一億シュクーくださらないかな』みたいなレベルの話であってね…………」


 無計画もここに極まれり。

 説明不足、意識の歴然の差を思い知らされた私は、そんな基礎のすり合わせから始めていったのだった。


  ◇◇◇


 そして、「リアムが感じてしまっている責任と意識を私レベルまで薄める」べく、軌道修正の一問一答が始まった。


「リアムの考えてくれてた『条件』ってどういうものなの?」

「んとね……強いて言うなら『こっちの姿勢を変えなくていい』ことが第一条件だったかなぁ。やっぱり最優先したかったのは、『ルシアちゃんを疲れさせない』ことだったから。『ちょっと隠れたりする必要がでてきても、他の道にすぐ入ったり、ベンチかどこかに座らせてあげられるところ』。そもそも、泉の東屋で休憩できるかなって思ってたんだ。でもそれは無理だって、その第一条件がまず守れなかったって証明されちゃったし、それに急に引っ張ったり、茂みに隠れさせたりして……ごめんね。びっくりしたよね」


「ううん、気にしないで! そっか、そうね……確かにその条件通りで言うなら、あそこはちょっとだけ条件から外れてたかもしれないわね」

「うん……。ルシアちゃん、だいじょうぶだった? ケガしてない?」


「全然大丈夫! その条件、厳しすぎよ? リアムがずっと守ってくれてたから怖くも痛くもなかったしね。私なんてもっと適当に扱ってくれていいのよ。ああ……でもあれね、私が突然叫んだり大騒ぎして、殿下と公子様に気付かれる可能性があったわけね。でもそれも大丈夫! 私、体力皆無で貧弱なわりに、身体は結構頑丈なのよ! あとあんまり泣かないのよ。だから心配いらないわ。『せめて転んだ時くらい泣いてくれ。私達が気付けないだろう?』『お嬢様、こないだ約束したべさ。痛い痛いの時は泣いて教えてくだせえって』って、父様や領民の皆から口々に言われるくらいなのよ!」


 後者は子供扱いが過ぎて時折腹が立つこともあるのは余談だ。

 別に誰とは言わないが、お姫様扱いモードと子育てモードが混在しているがため、反応に困る。

 その反応を間違っても面倒になる。少し照れたり拗ねたりするとデレデレし始め、肝心の話が進まなくなることが多々あるのも困ったものである。別にどの五人とは言わないけども。


 確かに私が『学園シンデレラ』のルシア・エル=アシュリーと大差ない反応をするとしたら、リアムが咄嗟に引き込んでくれた際、「痛い! な……何をなさいますの⁉ このことは父様と伯父様方に全てご報告いたしますわっ‼」とあの場で絶叫していてもおかしくはない。

 そうなれば気付かれることは必至。というか、全てが全て台無しだ。リアムはそれを危惧していたのだろう。


「うーん……。そうじゃなくて、ボクがルシアちゃんを大切にしたいだけなんだけど……。まあいっか。じゃあ第一条件のうちの、最低条件くらいは守れてたのかな。ルシアちゃんが無事だったならよかった」

 ドヤ顔で親指を立てて見せる私に、彼は困ったような顔で何かを呟いた。

 私に語りかけたものではなかったのか、それはどこかヴァーノン語の響きに似ていた気がする。

 聞き返そうか迷っているうち、おそらく自分の中で腑に落ちたらしい。いつものような愛らしい笑みを満面に湛えて、リアムは笑い返してくれた。


■お待たせしたわりに短くて重ね重ね申し訳ないです……推敲・添削まできちんと終わっているところだけでも更新いたします……! いつもありがとうございます!

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