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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
88/91

以心不伝心でしたわ!

■書籍版・連載版ともに、たくさんの方にお読みいただき本当に嬉しいです。これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします!


「……んっ?」

「あれ?」


 全然異口同音ではなかった。お互いの声に驚き、そのお互いにびっくりした表情に再び驚く。

 異口異論。それをも超え、完全に真逆の意見だった。


「え? な、なんで? どうして……? 私、あなたに謝っても許してもらえるかわからないくらいの大失敗だと思ってたのに」


 最初に疑問の声を上げたのは私だった。

 思い返せば、絶好の機会は二つあった。

「お話ししてみる?」とリアムに誘われ、一人東屋キオスクに佇むメルヴィルに挨拶ができるチャンス、そして立ち去る彼の背中を呆然と見送るディアナ様にお声をかけるチャンス、それぞれ二つ。

 仮に後先も無礼も一切考えず、ただ彼らと何らかの接点を作ることだけに注力したならば、他にも機会はあったのかもしれない。

 これらはリアムが隣にいてくれたからこそ起こり得た。それなのに、私が思い悩んでいたせいで、それを台無しに。リアムの貴重な時間を無駄にしてしまったのだ。


「えー、そんなことないよ! あの時はボク、ずっと冷や汗かいてたんだよ。誘っちゃってあのまま行ってたらどうなってただろうって」


 しかし、リアムの意見は全く違った。

 彼曰く、あの出来事はチャンスなどではなく、むしろピンチに他ならなかったのだという。


「ボクはね。メルヴィルくんが一人だったから、ルシアちゃんを誘ってみたの。ルシアちゃんは失礼なことなんてしないし、紹介しても絶対大丈夫だって思って。メルヴィルくんも、使用人とか分家筋の子たちにも丁寧な、優しい子だから……ボクがサポートしながらだったら、きっと二人で楽しくお話しできるんじゃないかなって、そう思ったんだよ」


 そこにディアナ様が現れた。わずか一刻前の発言に背筋が凍ったという。

 咄嗟に私の手を引き込んだあと、出て行こうとする気配のない私を見て、リアムはむしろ胸をなで下ろしていたらしいのだ。


「で……でもどうして?」

 それを聞いてなお、疑問はそのままだ。

 ディアナ様がいらしたところで、別にそれが危機になる理由が見当たらない。少なくとも私にとって、ディアナ様もお優しい方であることに間違いはないのだ。

 ……といった内容を、説明になっていない言葉で懸命に説明する。

 だが直後、彼の返答に心底納得したのだった。


「んー……だってディアナちゃんが来ちゃったら、ぜーったい三対一か二対二になっちゃうでしょ? もちろん二人とも、ルシアちゃんを無視したりはしないだろうし、フォローしてくれると思うけど……たぶん目的からは外れちゃうよね? 何より、ルシアちゃんがすっごく気まずいと思うもん。ディアナちゃんたちのことが気になる気持ちはあるけど、ボクのいちばんはルシアちゃんだからね」

「た、確かに……! ああ、言われてみたら本当にそうだわ……い、いたたまれない……!」


 今さらながらに事態を把握し、周回遅れの寒気が襲った。

「ボクの一番」というのは、一番の友人だということだろうか。他にもたくさんの友人と呼べる人や身分相応の方もいるだろうに、ありがたいことだ。私にとってもリアムは一番の友人なので、とても嬉しい。


 言われてみればその通りすぎる。

 おそらくあの二人は、先日知り合ったか今日知り合ったかの違いはあれど、一応知人であり、同い年であり、貴族の端くれである私を邪険にはしないはず。リアムならなおさらのこと。気を遣って話題を振ってくれたり、相槌を打ってくれたりするはずだ。


 ただそれは、四人が対等にいられる輪では絶対にない。

 二対二ならまだいい。ほぼ確実に三対一になる。

 大陸最高位、神の末裔とされるエレーネ王女。かつて神に選ばれた人間のうちの最高位、王家とハートランド家の嫡男二人。その三人が揃う中、どう同じ会話ができるというのか。つい先ほど、交わされる高尚な言葉と、そこから伺えるハイレベルな世界に目が眩んでいたばかりなのに。

 私に付いていける話でもなければ、首を突っ込み、口を挟んでいい世界でもない。


 そもそも会話以前に、同じ目線に座っていられるはずがない。

 だってどう考えたって、三人を腰かけ部分に座らせ、私は立っているのが筋だ。

 狭い東屋キオスクから広い場所に移動しようという話になるかもしれない。一緒に話しましょうと、遠慮せずに座ってと声をかけていただけるかもしれない。

 そうであったとしても。身分的にも礼儀としても……あと常識から考えるに、私は対等ですよみたいな顔をしてい続けて良いわけがない。

 いくら貞淑な貴族令嬢には程遠い私とはいえ、「あ、そうですか? じゃあお言葉に甘えてどっこいしょ」と居座れるほど、図太くたくましい神経は持ち合わせていない。


 これが「国の高位貴族とお知り合いになりたい! 懇意な仲になれるかも♪ ご挨拶して私のことを知ってもらおう☆」といったような、私個人の軽めの目的だったならそれでも良いだろう。薄くとも接点を持てること、印象が良かれ悪けれ、認識されることは間違いないのだから。

 だが目的は彼らの偵察。そこに「私」という存在は、今もこの先もどうでもいい。ひいては彼らの未来、幸せが懸かっているのだ。


 その中に堂々と加わりながら、何食わぬ顔で関係性を類推し、上手く話の流れを誘導し、何かしらの手立てを見つけ……。

(……む、無理だ。無理すぎる……!)


「これ、考えれば考えるほど正解だったのね。メルヴィル様お一人に話しかけるだけならともかく、ディアナ様までいらっしゃったら、引きどころがないものね。いらした瞬間引き上げるわけにもいかないし、そうなっても私、きっとあなたの顔色にも気付かずそこに居座ってただろうし……。そうなればもう、目も当てられないことになってた……!」


 かつ、あのまま平和に会話が続く保証があるならば、そんな状態でもなんとかなったのかもしれない。

 しかし事実はより複雑だった。メルヴィルにはディアナ様より優先すべき、突如態度を変える「何か」が存在している。私は俯瞰的に状況を把握しているつもりでいて、その実、まるで実情を理解していなかった。

 突然走り去ったメルヴィルの姿を、無礼一つなく見送ることが。悲しみに沈むディアナ様の御心に真に寄り添い、少しでも慰めになるようなことが。

 理想論、希望観測ではなく、果たして私は本当にできただろうか? ……できなかったに決まっている。

 私が失敗と思い込んでいた出来事は、まさにリアムの言う通り。全てにおいて正解の道をたどっていたのだ。


「うん……。お話ししてお友達になりたいっていう目的だったなら、あの後でもボクも行ってみようって誘ったと思うけど。ディアナちゃんをなぐさめたいって呟いてたのも聞いてたけど、あれも行かなくてほんとによかったと思うよ。ああいう時のディアナちゃん怖いし……。ディアナちゃん、とっても社交的だけど、さすがにあの状態で普通にお話はできないだろうしね。もしルシアちゃんが迷わず出て行こうとしてたら、ボク全力で止めてたよ」


 結果論としても、ご友人らしきご令嬢が現れたことにより、私の出番もなかった。

 あれで完璧な挨拶を披露しつつ登場していたら滑稽そのものだっただろう。あの時のディー様に、私にまともに構っている余裕などなかったはずだ。一瞥をくれただけで終わり、その場に放置されていた可能性が非常に高い。


「そうね、そうならなくてよかったわ……。そう考えると、この話し合いも正解だったわ。今日のあれこれを失敗だって思い込んで引きずってたら、もし次があった時、私絶対迷いなく突撃してたもの。リアムの判断に助けられたし、リアムの意見が今聴けてよかった。本当にありがとう、リアム」

「えへ! ううん、ボクはルシアちゃんが最優先だからね。今日のデ……ディアナちゃんの動きを探る会は、ルシアちゃんのお願いだったからだもん。ルシアちゃんがよかったなら、ボクもよかった!」


 あ、それが正式名称なのか。今日のこの偵察作戦は、「ディアナ様の動きを探る会」だったらしい。


「それにねー……」と呟いた後に、彼は何かを語った。しかし続く言葉は、そもそも私に聞かせようとしたものではなかったのか、あまり聞き取れなかった。

「……あんな風にイチャイチャしてる二人を、すぐそばでなんて見せられないからね。純粋なルシアちゃんの情操に良くないもん。そう、ボクのルシアちゃんには……」


  ◇◇◇


「それより……どうしてルシアちゃんは裏庭をルートに選んじゃったこと、正解だって思ったの? 誰かの噂を聞けたりするどころか、メルヴィルくんやディアナちゃんとうっかり会っちゃうかもしれない、観察には向いてない場所だって証明されちゃったのに……」

「な……何言ってるの、全然そんなことないわよ! リアムが教えてくれなかったらずっと知らないままだった、最高の場所だわ。全部リアムのおかげ。それに何より、メリットが多すぎるくらいよ!」


 私は――今日の一連の流れは、事前の想像を超えるどころか、数年越しで得られるかも不明瞭だった全てのロケーションを一度に得られた、最高の大収穫だったと考えていた。


 何しろ、調査第一日目にして、「泉の東屋」という場所がメルヴィルのエンカウントポイントだと身をもって知れたのだ。

 そのうえ、「東屋キオスクに一定時間留まる」こと、「低確率でディアナ様も出現」すること、「聖月には出現確率大幅アップ!」ということまで推測できた。


 つまり、張り込みをするのはもうここだけでいい。

 他の偵察場所を教えてもらったり、王宮の内部に入ったり。入って良い場所かも不明なまま、危険を冒してまで探索する必要はないだろう。


 庭の間近の宮廷内にはそれなりの人通り。それでいて裏庭には人気がなく、隠れる場所は探すまでもないほど。

 リアムの居城であるガーベラ宮までの道筋はもう把握しているし、今日通ったのはそこから道なりに進んだ先だけ。庭園で迷ったとしても、ただ後ろに引き返せばいい。

 そのうえ、ひっそり佇む古城……ガーベラ宮を目印に振り返って進めば、自分のだいたいの位置を把握しながら進めるはず。

 案内なしであっても、ひとり適当に歩く分には全く問題なしだ。


 何より、もうこの偵察にリアムを付き合わせてしまう必要がなくなった。リアムの時間を無駄にすることも、リアムと過ごせる貴重な時間を消費してしまうこともなくなるのだから。


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