困惑の中の希望
▪️書籍「男爵令嬢の領地リゾート化計画! 〜悪役令嬢は引きこもりライフを送りたい〜」おかげさまで好評発売中です! ありがとうございます! お気軽にご意見・ご感想をお聞かせくださいませ!
□一部書籍版に合わせ、本文の改稿を考えております。改稿が完了したら活動報告にその旨を記載いたします。
あ……あれ……!?
(思ってた感じとちょっと違……いや、だいぶ違う……!)
薄紅を引いたような桃色をした、メルヴィルの唇から発せられたのは……予想だにしなかった、紛うことなき「褒め言葉」。そして、「ディアナ殿下」という呼び名だった。
ディー様と相対する時のメルヴィルの発言には、嫌味だけがそこにこもる。
彼の主君たるアーロン王子と対等などとは露ほども感じてはいないのだろう、ある意味極めて純粋な敵意。
それだけが有り得る関係のはずなのだけれど……。
耳と目を疑った。
まず幻聴かと考えたし、「こうだったらどんなに良いか」という私の願望が脳内再生されたのかとも思った。
あるいは偶然周囲に似たような会話をしている別の方々がいて、これまた偶然に目の前の二人の唇が同時に動いていたために、勝手に二人の言葉だと誤認したのかとも考えた。
しかし見渡した辺りに私達以外の人の気配はなく、その可能性は一瞬にして潰える。
「リア……」
これはどういうこと? リアムは何かわかる?
そう問おうとした。いや、何も考えず声を出そうとした。
景色を見回す中、当然目に入ったのはすぐ隣にいるリアムの表情。
それは彼にしては珍しい、少し難しげな、憮然としたものだった。
……それはつまり。今この事態とは、リアムにとって別段意外と言えるものではないということだ。
騒ぎ出さずにいて正解だった。状況を未だ掴めていないのは相変わらずながら、ここで大騒ぎしても、きっと彼の同感は得られなかっただろう。
無言のうちに独り慌て、独り挙動が不審になっていたが、またも無言のうちに息をひそめる。
どうやら今は、不可解さや記憶との相違、違和感を全て捨て置き、あの二人の様子を大人しく見守るほかになさそうだ。
それに案外、これは前触れにしか過ぎないのかもしれないしな……。
毎回まずはにこやかな社交辞令から始まり、徐々に壮絶なバトルへと発展していくのかもしれない。
「学園シンデレラ」のプレイヤー視点では、あるいはヒロインのミーシャの前だからこそ、社交辞令をすっ飛ばし、いきなりド修羅場から始まっていただけのことかもしれないし……。
知らないけど。わからないけど。
ーーそれにもしかしたら……!
私は今、一縷の望みを見出していた。
私……ルシア・アシュリーが前世の記憶と人格を有し、「彼女」が辿るべきーー実家を貿易商会へと成り上がらせ、傍若無人に成長する運命から、すでに全く道を違えているように。
もしかしたら。
双りと二人に、不仲の事実などなく。ただの周囲の憶測にしか過ぎず。あるいは、私には与り知れぬいつかのうちに、運命の曲がり角をすでに乗り越えていたりして。
この現実のアトランディアは、はじめから彼らが仲の良い世界である可能性も……!
今はただ、二人の動向に注目するのみ。
その可能性はゼロではない!
雑念を取り払い、リアムの体温を確かにそばに感じながら。私は視線の先に意識を集中した。
□今話とても短くてごめんなさい……。これから更新頻度を上げていきますのでよろしくお願いいたします! ようやく最低週1回の更新速度に戻せそうです!




