緊張と警戒の邂逅
□いつもご愛読ありがとうございます! いよいよ明日、8月3日に一迅社アイリスNEO様より「男爵令嬢の領地リゾート化計画!」書籍発売させていただきます!
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「ディー様……!? よ……よかった、出ていかなくて……!」
「うん……引っ張ってごめんね、ルシアちゃん。もうちょっとだけここで隠れていよう?」
心配した様子で私を見上げ、服の袖をそっと払ってくれる。
いかにも申し訳なさそうに謝罪してくれるリアムだったが、謝ることでもないうえ、私には感謝しかなかった。
何しろ、「悩んでいる時間がもったいない!」と飛び出した直後のこと。
むしろグダグダ悩んでいて大正解だった……!
あと数秒早ければ、ちょうど二人と鉢合わせていた。
そうなればメルヴィルから話を聞き出す、何かの糸口を得る以前の問題だ。
二人に挟まれ針のむしろ。
逃げも隠れも発言もできない、最悪かつ無意味な緩衝材になっていたかもしれない。
リアムの機転に助けられた。本当に引っ張ってくれてよかった……!
また、リアムをもこもこ仕立てにしてきたことも大正解だった。そう改めて思う。
こうも長時間身じろぎもせず、延々と空の下にいることを考慮すれば、たとえ今日が春や秋であっても厳しかったはず。私が風邪を引く分には一向に構わないけれど、リアムだけはそうはいかない。
なんだかんだ運が味方しているというか、双子神が私達に微笑んでくれているような気がした。
私達は再び、植え込みの隙間から顔を覗かせ、特に離すまでもない手を繋いだまま。
頬と頬を寄せ合い、息をひそめて前方を伺う、偵察状態へと戻ったのだった。
◇◇◇
眼前には二人。
女神エレーネの生き写し。涼やかにして華麗、絶佳に眩くも清楚。そんな対比する言葉さえ矛盾なく成立する、彫刻細工の如き美しさのディアナ様。
そして性別や身分など、人間を分類するがための「区分」すら超越した、寵愛人形の如き愛らしさのメルヴィル・ハートランド。
深呼吸し覚悟を決める。
これから修羅場が繰り広げられるであろうことはわかりきっているからだ。
――アーロン王子や主人公ミーシャに見せる態度とは別人のように、ディアナ王女をまるで意に介さない。
立ち絵のせいもあるかもしれないが……優美な笑みで全てを受け流すあの姿は、下手な揶揄や嘲笑よりも嫌味だ。
ここに主人公がいない。つまり当然、あの優しい笑顔は、彼女に向けられることはない。
ゆえに。ディアナ王女への拒絶と嫌味を画面を越えた世界へと如実に伝えてくる、あの麗華な微笑みが……今の私には何より恐ろしい。
それはまるで鋭利な短剣の切先のように、ディアナ様のお心とプライドを傷つけ、抉るものなのだから。
乙女ゲームでのディアナ様は、気丈に立ち向かおうとはするものの……そのお姿はヒステリーそのもの。
完全にメルヴィルの方が上手であり、口論の体すら為していないと言える。
淡い恋心は傷つけられたまま。軽くあしらわれているのは見るも明らかなのだ。
それを見るのは心苦しいけれど、今は隠れているしかない。
もしかしたら、状況を把握することで手がかりをつかみ、ディアナ様のお力になることもできるかもしれない。
そのためならば……私はどんな大修羅場をも耐え抜いてみせよう!
自らの頬を両手で軽く叩き、改めて気合と覚悟を入れ直した。
さあ始まるぞ、超絶舌禍の応酬が……!
「ディ……ディアナ殿下、ご無沙汰して……おります。ただいまお召しのドレスは、新しくお仕立てになったものでしょうか? えと……よくお似合いです。本日の殿下は……宵闇に輝く月華のように可憐で、麗しくていらっしゃいますね」
「メルヴィル……! そのようにかしこまる必要なんてありませんのよ? ……ふふ、ありがとう。そうですの。王室お抱えのお針子に仕立てていただきましたのよ!」
…………あれ?
■更新正常化を目指していきます。皆様に続きを楽しみにしていただけるようなお話作り、頑張りますね! これからも相原玲香と「リゾ計」をよろしくお願い申し上げます。




