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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
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天使との対談

□お待たせしております。もう少し長くなる予定でしたが、一話にまとめきれず分割しました。執筆のリハビリが必要ですね! 頑張ります!


「ホントはね。……ちょっと反対だったよ」


 おそらく彼は、満面に笑顔をたたえたつもりでそう言った。


 対面に向かい合ってから今までの様子からは、その言葉に意外性など全く感じ得ない。

 むしろ先程の快諾こそ、夢か何か……あるいは漫画で喩えるとすれば、全然関係のない別のコマが誤植で差し込まれたかのような違和感さえあった。



「でもね。ルシアちゃんはやっぱりルシアちゃんだな、ボクの考えすぎだったなあって。反対しようと思ってた気持ち、ぜーんぶなくなっちゃった」


 そう事も無げに話すリアムは、もうすっかり乗り気で外出の準備に動き出している。

 使用人さんを呼ぶまでもなく、帽子に手袋にと防寒具を次々引っ張りだしてゆく。先程あげたばかりのジャボットをいそいそと身につけ、愛らしい顔で微笑みながら。

 普段ならとっくにその頬をなで回しているところだ。



 しかし、今は置いといて。この言葉と進んでいく状況に私だけが付いていけていない。

 「な……何が?」というのが正直なところである。


「ありがとうね、リアム。あなたと一緒に庭園を見て回れるの、私も嬉しいわ。……でもどうして?」



 ……リアムは多分、最初は断るつもりだったんだろうな。


 「ジャボットが隠れるからマフラーはしないよ!」と誇らしげに可愛いことを言い放つリアムの首を、有無を言わさずミトンでぐるぐる巻きに。自分で難なく着ようとしていたサーコートを手に取り、私よりも二回りは小さい身体に着せていきながら、訊いてみた。


 「どうして」には、うまく言葉にできなかった様々な疑問が込められていた。


 そもそもどうしてこの計画に反対だったのか。それにも関わらず、なぜ今日の約束を受けてくれたのか。そして話を聞く中で、どうして賛成に転じてくれたのか……。その真意は依然としてわからないままなのだから。



「ルシアちゃんはさ」


 考えていたよりワンテンポ早く聞こえたリアムの声に、自然と下がっていた目線が上向く。


「ディアナちゃんのためにできることを探すって言ってたでしょ? その"できること"って、ルシアちゃんはどんなことだと思う?」


 一瞬「実は大して深く考えてないよね?」とツッコまれたのかと思い、心底びっくりしてしまった。

 この邪気も裏もない可愛い天使が、そんな意地悪を言うはずなどないというのに……私ときたら……!



「そうね……。……やっぱり、『絶対にディアナ様の味方でいること』だと思う」


 視線はまっすぐこちらに注ぎながら、リアムは黙って言葉の続きを待っていた。


「それと、『ディアナ様を傷付ける側に回らないこと』……かしら。どんな状況でも味方でいる。そのために何か動くべきなのか、それともただ、そのお傍にいるべきなのか。それはわからないわ」



 考えながら言葉を紡ぐ。

 リアムの質問のおかげで、ぼんやりしていた自分の考えを徐々に深められている気がする。


 そうだ。私ができること、したいこととは、具体的な解決に繋がるような大それた行動ではないんだ……。

 

 それが再度熟考して至った結論だった。



 おそらく無礼や処罰を承知の上なら、もっと派手に動き回ることもできる。

 けれどそうして私が与えられる影響など微々たるものだ。何しろ私は年幼さもさることながら、貴族としての経験も浅い。状況をひっかき回すのがせいぜいだろう。


 そしてその視野の狭さから、判断を誤ることも十分考えられる。良かれと思った行動が裏目に出れば、逆にディアナ様にご迷惑をかけ、私自らが傷付けてしまうことにもなりかねない。



 ……場合によっては、ディアナ様を糾弾することこそ「正しい方」なのかもしれない。


 それでも私は、彼女の味方であり続けたい。

 それは彼女と敵対する側を問答無用で悪と決めつけることでも、盲信しすり寄る存在に成り下がることでも、ましてやただ同調することでもない。


 そう、きっとそれは。

「ディアナ様のお心を癒すことだと、そう思うの」


 

 お話を聞いて差し上げること? それとも黙ってお傍にいること?

 きっと何にせよ、もう決して鬱屈した嫌なお気持ちにはさせない。少しでもあの方の支えになれるような、そんな行動なんだと思う。

 それが何なのかはまだわからないけど……。

 


「私はあなたの味方ですって、私はここにいますって伝えること。それが私にとってできることで、すべきことだと思うわ。……その『何か』を、見つけてみたいの」



 ここは本来、決意を秘めた優雅な笑みでも浮かべるべき場面なのだろう。

 しかし口をつく案は、我ながら随分抽象的だ。これで伝わったかなと冷や汗と苦笑しか出なかった。


 だが、やがて静かに耳を傾けてくれていたリアムの口から零れたのは、「……ふふ」と何やら満足気な声だった。



「ほらね! やっぱり。うん、そんなルシアちゃんだから。ボクも協力させてほしいなって思ったんだよ」

 

 「しっかり案内するから任せてね!」と息巻く頼もしい言葉のすぐあとに、「ルシアちゃんと二人っきりでおさんぽ楽しみだなぁ」とワクワクを隠し切れない声が続く。


 さてはそっちの方が主目的だなと思ったけれど、口に出すのはやめておく。

 その様子は実に雨上がりの日のお散歩を待ち構えた子犬そのもので、そこに水を差すのは気が引けた。

 加えて、「軍属の兵士さんも一緒だから二人っきりじゃないんじゃ……」とも思ったが、それもまた然りだ。


 まあ実際、王族であるリアムにとっては、護衛の方はいて当然の影同然。また会話の相手となる存在ではなく、同伴者という認識は薄い。その上完全に護衛なしなど有り得ないということもあるんだろうし。



 いや、そんなことより。私の「な……何が?」が一向に解決していない。

 私の発言における何らかの"私らしさ"が、リアムのお眼鏡に適ったことだけはわかった。しかし私一人が状況を掴めていないのは相変わらずである。



 もう一度お礼を言ってから、「どういうこと?」と理由を問うてみた。「リアムはきっと、最初は反対だったのよね」と話しやすいよう付け加えて。

 何しろまだ、日は長い。


 「うーん……」とただ呟くその声は、答えてよいものか、どう答えるべきか。おそらく両方で思いあぐねる彼の心情を、どんな単語よりも的確に表していた。


ーーーーーーーーーー



 手を止め振り返ったリアムは、慎重に言葉を選んで話してくれた。


 曰く。

 ディアナ様とアーロン王子。そしてディアナ様と、アーロンの親友であるメルヴィルとの仲が良好でないことは、リアムも感じていたことだった。



 だがそれは、彼ら自身をどうにかすることで解決はできないだろう。

 張本人である三方に、()()()()()()()()()()()()()

 

 誰が何をどれくらいの時間をかけて、どのように解決していけば良いものなのか。それもわからない。


 つまりこれは、決して本人同士の問題ではない可能性が非常に高いのだ……と。



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