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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
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作戦会議 冬城にて

□本当にお待たせしております。来月から徐々に通常ペースに戻せるよう努めます!



 目的は単純かつ明快だ。

 「ディアナ様とメルヴィルとの、これ以上の仲違いを防ぐ」こと。話はそれに尽きる。



 先日目の当たりにしたのは、現時点ですでに二人の関係が危ういものだと察せられる、リアムの微妙な態度。

 そしてまだ花も蕾でありながら、原作の乙女ゲームとなんら変わらずに。

ーー悲しみに顔をひきつらせるディアナ様のお姿だった。



 このまま放っておいたなら。

 これまた原作同様……二人と"双り"の関係断絶の未来が、そう遠くない日に訪れてしまう。


 主人公の選択によって振り替えられ、繰り返される世界の可能性の中で、必ず起こる事実。

 つまり、それはほぼ確定された事象なのだろう。

 私はその「現実」を知っている。

 だからこそ、放置も楽観視もできるわけがなかった。


 

 悲しみをこらえるディアナ様の姿を思い出せば、私にも悲しみが伝染してくるばかりか……ひどく痛々しさを感じさせ、今もなお心が痛む。



 「余計なお世話だっていうのはわかってるわ。……でも、殿下のために何かできることを見つけたいの」



 そう。わかっている。この計画全て、完全に余計な差し出口だ。

 何ができるとわかったわけでもない。ディアナ様と特に親しいわけでもない。


 私なんかよりずっと親密で、身分も近い関係のご友人もきっといると思う。

 もっとお傍に寄り添える人や、教養深く信頼を寄せられるような人もいるのかもしれない。


 そもそも、引きこもりで交友関係激狭の私にとっては、ディアナ様は大切かつ希少な友人であるが、社交的と評される彼女にとっては、私は「大勢いるうちの一人」にしか過ぎないだろう。



 それからもう一つ。リアムにとってはいい迷惑だということもわかっている。

 

 

 「……うん。ルシアちゃんはやっぱり優しいね」


 そう言ったリアムは、どこか困ったような顔で笑ってくれた。

 明確な返事どころか、なんだか適切な相槌にもなってはいない。やはり少々困惑しているのだろうか。


 私だけが喋り続けることのないよう、区切りの意味で声を発してくれた。なんとなくそんな気がする。

 おかげで一応の会話の体を保てたため、整理のされていない話を続けた。



 「リアムの手を煩わせるのは今日で終わりにする。それは約束するわ。今日一日でなんとか道筋を覚えてみせるから。私一人なら護衛もいらないしね」


 王都の中心であり、国の中心。また文字通り、信仰と大陸の中心でもあるこの王宮。


 とにかく広い。ひたすら広い。

 この広大で複雑な地の案内という手間に、本当は数々の用事で手いっぱいだろうリアムに、毎度毎度付き合ってもらうわけにはいかない。



 しかしだからと言って、貴族の中で誰よりもここに馴染みがない私に、一日で完全に道順を網羅するのは無理である。

 

 そのため事前にある程度算段をつけてきた。

 なるべく王宮内()ではなく、庭園()の案内をお願いしよう、と。



 外であれば、「一番高い木が二時方向に見える」「百合の庭園、薔薇の庭園に挟まれた道」など、何か特徴的な目印を見つけられると考えたのだ。

 最悪「リボンや長い草でリースを作り、枝にかけておく」など、自分で目印を作成することもできる。


 仮に「ディアナ様がよく通る宮への通路」なんかを教えてもらったとして、人々の視線に晒されながら、通るかもわからない人物を延々立ちはだかって待ち構えているわけにもいかない。

 不審人物もいいところである。


 だが外庭ならば、咄嗟に身を隠せるような植え込みや、中〜長時間待機可能な木の()()なんかもきっとあるはず。偵察活動にはもってこいだ。


 屋敷でそこまで考えた時に、今自分が貴族だということを思い出した。

 しかしながら、前世を含めて一般庶民・平民生活の方がよほど長く、現在森の深奥で暮らしている私にとって、土や草に紛れることへの抵抗はまるでないのであった。



 これが王城内となればそうはいかないだろう。


 まさか目印だと言って装飾品を勝手に移動させたり、傷やサインを彫っておくことなどできはしまい。 

 教室の机ではないのである。一応言っておけぱ、学校でもダメなのは当然だけど。

 


 それに今日であれば、王宮のどこであれ自由自在だろうが、それはリアムの同伴あってこそだ。

 

 もし今日縦横無尽に城内を駆け回ったとしても、そこにはある程度の身分の方しか入れない場所だとか、関係者以外の立入禁止区域、機密文書が管理されている部屋みたいなものが、きっと多々あるはず。


 そういった場所であるなら、新米男爵の父様にだって立入許可などあるまい。つまり私にもうろついていて良い理由はひとつもない。

 次回以降にさも当然のように歩き回り、罪に問われでもしたら洒落にならない。



 その点外庭であるならば、もし見咎められたとしても、「道に迷った」という言い訳が通用しやすい気がする。

 一見目立つ不審行動も「幼い令嬢が父の終業を待って遊んでいるだけ」と好意的に解釈してもらえそうだ。

 親切な人であれば、特に問題のない安全な道を教えてくれるかもしれない。



 この 〜王宮の庭は私の庭、私の庭は私の庭〜 作戦、我ながら完璧である。メリットばかりでデメリットはない。

 ……あくまで私個人にとっては。

 

 その証拠にというべきか、話の佳境でもリアムはどことなく難しい表情を崩してはいなかった。



「ディアナ様や王子殿下、あとは……偉人ハートランドの子孫の方だったかしら? その皆さんが通るかもしれないところ、何か関連する話が聞けそうなところ……本当におおざっぱでいいから教えてほしいの」



 つい前世での感覚、第三者視点で『アーロン王子とディアナ王女、それからメルヴィル』と言ってしまいそうになるが、この世界に暮らす「私」の立場からでは不遜も甚だしい。

 ついでにディアナ様はともかく、リアムから一度や二度聞いただけのはずの名前をつらつら挙げてゆくのもおかしいだろう。


 あくまで当事者視点。「ルシア・アシュリー」の視点で話すことを改めて心がけた。


 図々しいのは百も承知だけれど。何をしたいのかと言えば、私は。

 ーー私を友人と呼んでくださった美しい方の、あんな悲痛な面持ちをもう見たくはないのだ。


 今度埋め合わせは絶対にするわ、どうか協力してほしい。大人しく耳を傾けてくれている彼を前に、ひたすら語り続けた。



「それから」


「他の人じゃなくリアムに頼んだのは、他でもないあなたと少しでも過ごしたかったからよ。あなたに案内してもらえたら、きっと楽しいだろうなって」


 これは紛れもない本心だった。

 まあ他の人といっても、父様やドートリシュ侯爵様、ヴィリアンズ様やマシュー様くらいしかアテはないのだけれども…………。

 


「リアム。お願い」


「…………」


 これで話すべきことは話した。

 あとはリアムが首を縦に振ってくれるかどうか。


 彼はしばらく……私には永遠とも思えた沈黙のあと、少しうつむいていた顔を上げてくれた。



「……うん。わかった! ルシアちゃんとのおさんぽ、はじめてだね! じゃあ早速手配させるよ」


「…………え!?」



「そうなると……ディアナちゃんがよく通る場所はわりとあるし、アーロンくんとメルヴィルくんが通りそうな道にした方がいいかな?」


 二言目の言葉には反応もできず、また当然答えることもできなかった。

 だがそれはどうやら私に問いかけるものではなく、彼自身の自問自答の中で、わずかな時間に次々作戦が組み立てられてゆく。



 「シャルティア庭園、泉の東屋、聖エマ・フローラの道あたりかな……。あの辺りなら危なくなさそうだし、護衛がいればうるさいことも言われなさそうだね」


 「エッダ、マルガレーテ。これとこれお願いね。ボクが戻るまでに用意してくれてたら嬉しいな」



 確か中堅くらいの地位だったメイドさんを呼びつけ、テキパキと指示を出してゆくリアム。

 恭しく何かを受け取ったお二人は、一礼のあと迅速に仕事へ移っていった。


 一瞬見えただけなので定かではないが、多分どこへ行ったかの事後報告の許可書と報告書のようなものだと思う。

 リアムの直筆でなくとも構わないか、あるいはすでに承認済みとみなされる形式的なものか。

 きっと「リアム担当部署」のような、おそらくは外務省と軍部への提出義務があるのだろう。



「リアム……ありがとう。い……いいの?」


 自分から言い出しておいてなんだけど、受けてもらえる雰囲気とは思えなかった。

 

 予想に大きく反し、ものすごく積極的な返答が返ってきた事実をうまく飲み込めずにいる。

 気持ちの良いほどの快諾だ。


 今さっきの何かを考え込んでいる様子は何だったの? 

 この数分の間に、リアムの中でどういう気持ちの化学変化が起こったんだろう。

 そりゃあまあもちろん、受けてくれるに越したことはないのだけれど。



 と、思ったのも束の間だった。

 ふと見せた表情は、リアム自身知ってか知らずか、やはりどこか思うところがありそうな顔つき。


 目が脳に情報を伝えるわずかな時間での変遷。反応が追いつかず、その意味が読み取れない。


 リアムは自覚してか……すぐにまた、いつものぱっと華やぐ笑顔に変えてみせた。

 でもそれはぎこちなく。先程の「困った顔」と全く同じだったことを、きっと彼は知らない。



「ホントはね。……ちょっと反対だったよ」

▪️今話も閲覧ありがとうございます! 読者の皆様の存在が執筆においても生活においても励みになっております。いつもありがとうございます!

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