トネリコの接ぎ木
■もう少し早く更新するつもりでしたが、大変遅くなってしまい申し訳ありません。お待たせいたしました!
□次話こそ近日更新いたします!
行動保証。
――――アシュリー男爵家が取る行動は、全てドートリシュ侯爵家の意思によるものである。
評議会や各省庁会議、官房長会に定例国営会議……。
『国政立憲派』の方々が所属する、ありとあらゆる場において。
それぞれがそのように、宣言を出してくださったのだと言う。
これは私達アシュリー家が何をしようとも。
エレーネ王国内に多大なる影響力を持つ、ドートリシュ家が全ての責任を負うと仰ったのと同義だった。
もちろん。本当に好き勝手に行動して、積極的にご迷惑をかけてゆく気は毛頭ない。
……無知ゆえの粗相は働くかもしれないが……。
これは恐縮にも皆様が「みすみす迷惑をかけるような人々ではない」と信頼を置いてくださっている証左であり、私達もそのご信頼に応える行動が暗に求められている、ということでもあった。
ドートリシュ侯爵家の皆様のご厚意を受けるばかりなのが申し訳ないが、私達は王宮や王都において。とても身の振り方が楽になっている。
……例えば、公爵家のご令嬢であったなら。
ふと王宮でその姿を見かけたとしても、宮廷貴族や兵士、使用人たちは、誰もそれを訝しむことも、咎めることもないだろう。
公爵の仕事に付いて来たのかもしれないし、ごく限られた高位貴族だけが招かれる会に招待を受けたのかもしれない。
いかなる場合においても、別に「王宮にいても当然」の存在だからだ。
貴族という身分は、この世界においては血統・献身性・教育・人間性を証明するもの。
"公爵令嬢"という称号をお持ちであるだけで。
それはどんな関門もくぐり抜けられる、最高の身分証を首から下げて歩いているようなものだ。
「高位爵位持ち」という、ご存在自体が高度な人格や教育を証明する方と、成り上がりの男爵令嬢である私とでは、その保証される範囲が大きく異なると言って良いだろう。
そんな中、皆様方が公の場で味方についてくださった。それがどれだけ心強かったことか。
当然事実は異なるとわかった上で、広くエレーネ王宮では。
アシュリー男爵家とは、もはや"ドートリシュ侯爵家の分家筋"に近い扱いになっているのだという。
「元々クローディアとドートリシュは親戚みたいなものでしたでしょう。その流れを汲む以上、ごく自然なことではありませんかな」
「宮廷内に頼るべき親類も一切いないお家だ。いずれ高位貴族の誰かが後見となるのは必然だった」
「そもそも、貴なる血統に相応しからん人柄と見出したのは、ドートリシュ侯その人であったそうではないか。目をかけて然るべき。アシュリー男とて安心だろう」
父様が聞き及んだだけでも、皆が皆そういった認識。
どなたも異論や違和感を呈する方はいないそうだ。
まず……何より嬉しかったのが、リアムとの手紙のやり取りができるようになったことだ。
それまではリアムから招待状が送られてくるのを待つことしかできなかった。
リアムはともかくとして、私の方はごく最近貴族の仲間入りを果たした成り上がりの男爵家。
貴族としての身分や権利は認められてはいるものの。
王宮を一切介さずして、隣国の王太子殿下と私的なやり取りをするレベルの信用に値するかと言われれば、答えは否。
まだまだ信用不足である。
招待状はたとえリアムの独断で送られてきていたとしても、どうやら「公文書」という扱いになるらしく。
王宮を通した宮への招待。
最初のうちはそういった名目での、一方的な通達と同じだった。
まあ、リアムはこっそりと私的な手紙を忍ばせてくれていたけれど……。
私の方からの手紙を、とても気軽になんて送れずにいたのだ。
いや……送りさえすれば一応届きはしただろう。
しかし信用が十分でない以上、直通とはいかない。
リアムの手元に届くまでに、果たしてどれほどの人の手を煩わせることになるのか?
挙げ句そうこうしているうちに、次のリアムの手紙の方が先に届きそうだ。
招待状に対して即刻返信を送ったつもりでも、最悪それが届くよりも、次に私が来訪する方がよほど早かった……なんてことも有り得る。
それを現在は。
アシュリー男爵家の紋章で蝋封してある封筒は、その全てが検分無用。リアムの住むガーベラ宮に直通になった。
今や実質的に「ドートリシュ侯爵家から出された私文書」と同等の扱いで処理してくださるようになっているのだとか。
恩恵はリアムの方にも及んでいるらしく、彼は内廷への移動であれば、すでに「三人の諸侯貴族」……つまり、ドートリシュ侯爵様・ヴィリアンズ様・マシュー様の認可を受けた状態として、好きな軍部の官を選んで供に連れ、好きに歩き回ることが許されるようになったそうだ。
リアムの後見人ともなってくださった、ということらしい。
加えて私は、招待状なしでもすでに正式な招待を受けたものとして、王宮に自由に出入りが許されるようにもなった。
『別にいつ王宮にいても自然な存在』に。
鮮やかな赤髪のアシュリー家、それ即ち「侯爵家の縁戚」という認識に。
この自慢の赤髪が、最高の身分証と化したような状態になったのだ。
『ルシアちゃん、王宮の庭に咲いてる薔薇が枯れちゃったんだ。
ルシアちゃんがいつもそばにいてくれてるみたいで、とっても気に入ってたんだけどなあ…………。
また来年綺麗に咲いてくれるかな?
そうそう、今日は剣の授業があったよ! ルシアちゃんは屋敷でどんな授業を受けてるの? ボクの知ってる教師もいるかな。
それでね――……
××× いつかヴァーノンの王宮の庭も案内したいな リアム』
『今日もお手紙ありがとう、リアム!
うちの領地ではまだ薔薇が咲いてるわよ。森の中だし土質が良いのかもしれないわね。
リアムはよく私を薔薇に喩えてくれるわよね。赤髪を褒めてくれてるみたいで嬉しいわ!
そんなわけで、領地に咲いてた薔薇を送ります。ドライフラワーだと棘が刺さりそうだから、押し花にするわね。
それでも危ないから、使用人の方にお願いして取ってもらうのよ!
親愛なるリアムへ ルシアより』
『今日は王宮で子供たち向けのお茶会があったんだよ。
ボクはまだ社交の場に出なくても良いから、遠目で見てただけだったけどね。
ざっと見たところ、たぶん公爵家と侯爵家、有力伯爵家しか来てなかったみたい。
ボク、暇だったけど混ざる気なんて全然ないから。ご令嬢たちの着てたドレスを観ながら、ルシアちゃんに当てはめて想像して遊んでたんだ。
"ふわふわも良いけど、大人っぽいつくりのドレスの方が似合うだろうな"
"あのドレス、ルシアちゃんが着た方が絶対可愛い"――って。
ふふ、いつかプレゼントさせてね!
××× もうすぐ会えるね、ルシアちゃん! リアム』
――――こんな全然なんでもない、気安いやり取りができている。
今日までにリアムからもらった手紙は、全て大切に保管してある私の宝物だ。
ただ、気になることがひとつ。
最近もらう手紙の末尾は、招待状に手紙を忍ばせてあった時にはなかった、『×××』という記号で必ず締められているのだ。
この『×××』。
いったいどういう意味が含まれているんだろう?
□手紙の末尾の『×××』は…………。
次回明かされます!
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