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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
33/91

一時だけのお別れ、ですわ!



 メル次期公爵ルートでは、主人公ミーシャの関わること以外に限定すれば。

彼はとにかくアーロン王子の話しかしない。




 ――――()()殿()()は勝手に決められた婚約者ではあるけれど、僕は全く納得していない。

貴族の義務である学園を卒業さえしたら、()()殿()()のお力を借りて正式に婚約破棄の手続きを取るつもりです。



 「ですから、貴女が心配することは何もないのですよ。

どんな貴族令嬢よりも、彼女たちを飾り付ける宝石よりも。

可憐で美しい、愛しいミーシャ」




 彼の口からディアナに関連する発言が出たのは、冗談抜きにこれだけだ。

何と言っても、こちらはメルルートを死ぬほど周回した身。

記憶に深く刻み込まれているので間違いない。






 ――――これは架空の出来事としてプレイしていた地球の私は知らなかったこと。

「現実世界のアトランディア」に転生し、歴史の授業で学び初めて知り得たことだが。




 エレーネ王国の王位継承権は、現王による指名制度。

現王から三親等以内。

出生の順、男女の別は一切問わず。

最も王座に相応しいと見込まれた方のみが、学園卒業と成人の儀を終えたあとに、『ロイの名を継承する』宣下を受け、いずれ戴冠がなされる。



 つまり、ディアナとアーロンは全く対等の立場。


姉であるディアナに優先権がなく、だからこそメル次期公爵が弟王子アーロンを王座に推しているのも。

長男であるにも関わらず、ヴァーノン()()()のリアムと違って、アーロンは()()の位にあるのにも、そこに理由がある。




 ヒロインの行動次第で、彼らのどちらが王位に就くのかは変わってくる。


章によって「ディアナ=ロイ・フローレンス」だったり、「アーロン=ロイ・フローレンス」だったり。

はたまた前章ではロイ付きで呼ばれていた方が、今度はただのフローレンスになっていたりと、ゲームプレイ中は意味がわからなかった。


まずそもそも、「ロイ」って何?

疑問でしかなかった。


攻略wikiにおいても、「作中で語られない要素」に項目が作られていたっけ。




 だが、この世界での歴史を学んだ今ならわかる。


「王位を継いだ者は、戴冠の儀の折に月桂樹ローレルの冠と、建国の王神『ロイ』の名も同時に継承する」。


きっと月桂冠とミドルネームを受け継ぐことで、双子神の片割れでありこの王国の初代の王であった、ロイの正式な後継者だ……と認定し、知らしめるみたいな意味があるんだろう。






 メル次期公爵ルートでは、トゥルー・バッドに関わらず必ずアーロンが王位に就く。




 しかしアーロンルートでは。

トゥルーエンドでは立派な国王となり、ミーシャと共に王城のバルコニーから手を振って、国民から祝福される場面でエンディングを迎えるが。



 バッドエンドを迎えてしまうと、女王の座に就くのはディアナ王女。



失意のアーロンは、城から行方をくらましてしまい。

その後二度とお顔を見られるどころか、どこで暮らしているのかもわからない、一切の消息不明となってしまった…………という、ひどい結末が待ち受けている。




 メル次期公爵ルートをひたすらプレイしている最中は。


ディアナは人間性は素晴らしいかもしれないが、実際に王となれるような実力はないのだろう。

公爵令息の言うように、王に相応しいのはアーロンなのだ。

バッドエンドですら王位に君臨するのは彼なのだから。


これだけ優秀で素敵な人が心から称賛するのだから間違いない。



…………誰しもがそういった感想を抱く。


 


 アーロン王子ルートに入ると、ディアナへの印象が変わる。

彼女の人間性に疑念が生じてくる。

そして、どう頑張っても大抵はアーロンバッドエンドも経験する。


悲惨なエンディングではあるが、『ハッピーエンドでアーロン』、『バッドエンドでディアナ』。

王となるのがアーロンというのが正しい世界の在り方。

やはり、こちらが「正史」なのだろう。


ディアナが女王になるのは、世界にとって間違った歴史なのだ。


今度はそう思う。






 この二番目のルートで、すでに視点の転換が行われている。

しかしゲームが進むにつれ、それすらも「メル・アーロン・ミーシャ」という三人だけの視点からしか見えていない、狭い視界だったことを知る。





 辺境伯の隠し子ルート、芸術家の先輩ルート。

そして隠しキャラ二人と、シークレットキャラのルート。

当然トゥルー・バッドを問わず。



 いずれのルートにおいても、アーロンが王位に就くことは決してない。

その後のどのルートでもいかなるエンディングでも、月桂樹ローレルの戴冠を受けるのはディアナなのである。



 ディアナ="ロイ"・フローレンス。


その名ばかりが記憶に焼き付いているのもそのせいだ。

また、アーロンが「人形細工 失楽の王子(アイアン・ティアラ)」と呼ばれる所以でもある。





 ヒロインはメルルートではアーロンと直接の面識を持たない。

よって、ミーシャにとって。プレイヤーにとっての印象も。

自然と語り手であるメルの抱く印象と同様のものになる。




 また、アーロンルートでも同様だ。


「アーロンは人間としても素敵でカッコいい。王になるのに相応しい」。


結局のところ、自分の目線の他には、アーロンとメルの目線しかそこにはない。

信じていたそれが覆される。





そう思っていたのは、メルとミーシャ。

――――二人きりであったのだ。



非常に狭い視点からの意見。




 我々プレイヤーも各章の攻略時点では、その視点の偏りに気が付けないのである。



 メルとアーロンのルートでは、その側にヒロインがいた。

アーロンを王位に推し、陰ながらお支えするのはメル独りきりではなかった。



主人公効果というか、ヒロインパワーというか。

アーロンの王位継承は、その傍らにミーシャがいることで。

メルとミーシャ二人が側にいて、初めて叶うものだったのだろう。



一人ずつ攻略を進めるたびに、それまでの視点の大転換が起こり、面白い。

ストーリーの評価が高かったのも納得だ。








 さて、ディアナ王女とルシアに考えを戻そう。



アーロン王子ルートの中盤。

ルシアを処刑し、主人公ミーシャを助けてくれる場面。

そこまでは、彼女は「良い人」でしかない。


正義感が強くて、立派な王女で優しくて、きっと誰からも慕われていて…………。


そこからやがて、風向きが変わってくる。




 プレイヤーはこの時、散々ルシア・エル=アシュリーにイラつかせられていたために、結構ひどいいじめだったから処刑までしてくれたんだな、少し過激かもしれないけど、まあ妥当なんだろう、くらいの感覚だ。

弟アーロン、そして平民のヒロインのためにそこまでしてくれたのか、と。



彼女を慕う令嬢、令息たちは、ディアナを褒め称え憧れの念を強くする。

ヒロインもまた同様。




 しかし、肝心のアーロンの表情が晴れないのだ。

好感度が低いと「アーロンさま……どうしたんだろう……?」だけで終わってしまうが、一定以上になっていると、そこから折り行った話が聞ける。




 曰く、「あの方が何をお考えなのか…………何の目的や利益があって、『私のため』という大義名分を振りかざしたのか。私にはわからないんだ」

「あの方と私は違うから。似ているようでいて、対極にいる方だから……。私が真の意味であの方と対等だったなら。同じ高さにいたのなら…………理解できたのかもな。せめて私が……普通の人間であったなら……!」




 アーロンはミーシャに距離を置かれてしまった原因であるとは言え、自分を理由にして平民の命が切り捨てられたことに、心を痛めていたのだ。


このあとに「アーロンさまは、こうして私と同じところに……同じ高さにいて下さるじゃないですか。私にとっては、対等の。普通のお優しい方です」みたいなセリフがあって、それによって王子の心が和らいで仲が深まり…………という展開があるのだが、この際それはどうでも良い。





 この意味深な発言の数々。


ヒロインはさほど気にした様子を見せないが、なんかもう色々とおかしい。


「あの方」というのは、まず間違いなくディアナを指している。



今回の処刑についてアーロンに一切の相談もせず、ディアナが独断で行ったことが読み取れる。

普段から全くコミュニケーションがないことが伺える。

そしてアーロンは、それを本当に彼のためだとは思ってはいない。大義名分呼ばわりだ。



 その上、実の姉を「あの方」呼び。


ある程度の仲の普通の双子ならば、呼び捨てで「ディアナ」って呼ぶか。

あるいは、「姉上」「姉様」とかあたりが妥当なんじゃないだろうか。



 しかも言葉の端々から、実際の立場に格差があることが伝わってくる。

普段「普通の人間」扱いすらされていないからこそ、こんな言葉が出てくるんじゃないの?

ディアナ本人からそう扱われているのか、周囲がそういった態度なのかはわからないが…………。



 それに加え、後々にも疑念を引きずることになる、アーロンが王位に就けなかった場合の城からの失踪。


彼の意思でいなくなったように一見思えるが、ともすれば王冠奪還の可能性がある政敵。

まるで邪魔な双子の片割れを、ディアナ王女が追放したようにも思えてくるのである。





 これら数々の疑惑について、作中で深く解説されることは特にない。

そのため今挙げた事柄は、つまるところプレイヤーの想像の範疇でしかなく。

疑惑は疑惑のままで終わってしまう、微妙に後味の悪い双子である。




 先程考えたように、ヒロインにとっては「尊敬すべき素敵な女性」で在り続けるディアナ王女。


それに反して、アーロンにしてみれば直接的ではないのかもしれないが、自分を苦しめる存在。


ここまでプレイして感じるのが、『自分が気に入った相手には優しい』人であるだけなのではないか、ということ。



 アーロンルートでルシアの処刑に踏み切ったのは、いじめを受けるヒロインのためだけが理由で。

弟が悲しんでいる、というのは後付けの。

それこそ建前でしかなくて。



ミーシャ・エバンスは、ヒロイン効果なのかは知らないが、たまたまディアナのお眼鏡に適った。

だからこそ助けてもらえた。


 でもこれがもし、別の人だったなら?


ディアナ王女は同じように、その人を助けてあげただろうか?




 逆も同じことが言える。


物語の根幹…………恋に関わりのない別のルートでさえ、ルシアはディアナの手によって退学か処刑かに遭わせられる。

まあ自業自得ではあるのだが、それがまるで決まっているかのように。



『ルシア・エル=アシュリーが、ただ単に気に入らなかった可能性』。

それが否めないのだ。


もしいじめていたのが、彼女の友人の令嬢であったなら。

……ディアナは全く同じように、その人物に適切な処分を下していただろうか?

『あの方がわからない』。

アーロンの苦悩を目の当たりにした以上、どうしても拭えない疑念。



 推測の域を出ないことであるが、ルシアが嫌いなだけで、ミーシャが好きなだけで。

なおかつ、強大な権力を持つディアナ王女。


 



 つまり。


「ヒロインをいじめない」。

これは言うまでもなく当然のこと。

乙女ゲーム云々以前に、そんなひどいことは絶対にしない。


「攻略対象たちに関わらない」。

ときめきに溢れた学園生活を送るつもりはさらさらない。

さっさと卒業して平穏なリゾート領地生活を送りたい。




 ――――これらが一切合切なんの関係もなく、出会った瞬間からすでに。


ディアナ王女にとって私は、「なんとなく鼻につく気に喰わない存在」となってしまう恐れが起こり得るのだ!



物語の強制力で、予期せぬ何らかの出来事が彼女の逆鱗に触れ。

ルシア()への処分が行われてしまう可能性が高いのである…………!




それが退学であればまだ良い。でもそれが処刑だったら?

ゲームとは違ってやり直しはないのだ。

そこでゲームオーバー。無念の死を遂げる他ない。


私の生命は、彼女に全てが懸かっていると言っても過言ではない。





 ディアナの次に気を付けねばならないのが、主人公ミーシャ。


この予測が真実であった場合、ミーシャに権力や抵抗の術はないが、彼女の憂いをディアナが晴らすというのが物語のお約束。

そこまでがきっと、強制力の働く範囲だ。




 現実世界のミーシャがどのような人物であるのかがわからない以上、警戒しておくに越したことはない。

ゲームの通りの、プレイヤーが思っていた純真無垢、愛らしさの化身のような子そのものならば良いけれど。



私が上手いことディアナとの関わりを持たず平和に生きかけていた折に、『赤い髪と目が怖い』みたいなどうしようもない理由で怖がられ。

「ディアナ殿下ぁ!私、あの方が怖いです……!」といった絡まれ方でもしたら、もう目も当てられない。


怖い。想像しただけで恐すぎる。





 さらにつまり言えば、私には破滅回避のために努力できることが何もないのである。


ヒロインとライバル王女という最強のタッグによって、わけもわからぬまま処刑されてしまうことが十分に有り得る。

それまで積み上げてきたものが、一瞬にして突き崩されてしまう。

逆に何か方策があるなら教えてほしい。



 素敵な王女様と可愛らしい才女主人公は。

序盤悪役の私にとっては、最悪の。

悪役令嬢と悪役少女ヴィランに過ぎないのだ…………!







――――――――――――――――――――――



 思考の最中たびたび意識を飛ばすのも招かれている身でどうなのかとようやく思い至り、リアムが楽しそうに話してくれる会話にしっかり相鎚を打ちながら、独り冷や汗をかいていた私。



彼はそんな私の暗鬱な未来予測など当然つゆ知らず、

「ディアナちゃんもアーロンくんも、ボクにとっても良くしてくれるんだ。そうだ、今度紹介するよ。二人ともボクの2つ上だから、ルシアちゃんと同い年なんだよ。絶対ルシアちゃんのこと気にいるよ!きっと仲良くなれるよ!」


…………などと空恐ろしいことを口走っている。





 何をどうしたらあの双子が私なんぞを気に入るんじゃい!

そうツッコミたかったが、可愛いリアムが相手だったので笑って流しておいた。







 いつまでも話していたかったし、このまま永遠に喋ることも尽きないような気がしていた。

そんな中、どこか申し訳なさそうに母様が静かに口を挟んだ。



「リアム、そろそろ。名残惜しいけれど…………」



あ、と言葉を止めて二人で時計を確認すれば、時刻は3時45分を差していた。


 今度は確証のない約束ではなく、また次がちゃんとある約束。

それでもやはり、母様の言うように。

どことなく寂しさを感じさせる、名残惜しさがあった。



一時だけのお別れ。

――――帰宅の刻が訪れようとしていた。

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