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男爵令嬢の領地リゾート化計画!  作者: 相原玲香
第一章 〜リゾート領地開発編〜
30/91

天使からの贈り物と苦難の日々





「あ……!リアム、このリボンってもしかして…………」



可愛らしい装丁の施された本に、結ばれた一本のリボン。

プレゼントにリボンを巻くのは珍しいことではないし、表紙にマッチしたえんじ色が品の良さを引き立てている。

不自然なそぐわないものでは決してない。



――――でも、私達にとって。



「えんじ色のリボン」は。約束の意味合いを持つ。

叶わないかもしれない。いや、叶うはずのなかった。

"再会"の約束の。




それにこのリボン、素材はリネンでできている。

リネン生地のえんじ色リボン。それが意味することは明白だった。

私の横髪、紺色のリボンが風にたなびく。





「うん。ボクたちの『約束のリボン』だよ!……ルシアちゃんも、覚えててくれたんだね」




無邪気な笑顔を見せた彼の顔は、ふと大人びた真剣なものへと変わり。

――――一瞬、私の紅い髪に。対比する紺色に、視線を向けたように感じた。

そしてすぐにまた、幼く表情を綻ばせた。





「本物は、こっちにあるんだけどね。コレを付けても良かったんだけど、やっぱりずっとボクが持っていたくて。アシュリー商会が取引してた卸素材問屋にお願いして、全くおんなじものを納品してもらったんだ」




そう言って彼は、ぽんぽんと片手で上着の裾を叩いてみせる。

……今の今まで気が付いていなかったが、リアムが身に着けている淡い色合いのサーコート型ジャケット。

ポケットの飾りとして、えんじ色のリボンが結ばれていた。



完全に調和していて全くわからなかった。

もっと高級品なのかと思っていたし、なんなら最初から付けられて取れないような、「こういうデザインです」と言わんばかりのものにも思えていた。



そっか。男の子であっても、服飾品の一部として身に着けるのならアリだよね。

何も髪飾りにするだけでなく、こうした活用方法もあったわけだ。

聞けば彼もまた今日に至るまで、タイ代わりにしたり服のワンポイントにしたりして、リボンをどこかに着けてきたそう。



そうすれば、きっといつかリボンが結び合わせてくれる気がして。


…………どうやら二人とも、考えていたことは同じだったらしい。





「今日までは、このリボンは約束のしるしだった。……ボクにとっては決意の証でもあったかな。なんとかして会える機会を作ってみせるって。でも、それは今日こうして叶ったでしょ?」



腰元のリボンを軽く掴んで撫で、滑らかな感触を楽しむように、愛おしげに指先で弄ぶリアム。



「本物のリボンは、――――ルシアちゃんからもらった大事な宝物は。ずっとボクの側に置いておきたい。でも、約束を手元に置いたまま今日お別れしたら、なんだか次がないような……約束がこれで終わっちゃうみたい。だから今度もまた、このリボンが結び合わせてくれますようにって」





本を持ったまま一歩、また一歩。

ゆっくりこちらに近付いてこちらに差し出す。

受け取ろうとする私の手が本に触れた瞬間、彼はそのまま手放そうとせず、掴んだ両手に力を込めたのが本越しに伝わった。






「ルシアちゃんが一番喜んでくれるのは、やっぱり本だろうなって。この本……今のボクの気持ちに似てるんだ。ルシアちゃんにもきっと気に入ってもらえると思う。次に会えた時に、感想を聞かせてほしいな。…………ルシアちゃん、また会える……?」






彼の不安そうな表情はかつて見覚えがあって。

でもあの時と違うのは、…………今度はリアムではなく、私の意思と行動に委ねられたものだということ。





先程、膝の上に乗せていた時に話してくれた。




有難いことにも、リアムは今日に至るまで、様々な努力をしてくれていたらしい。

全ては私との再会の日を夢見て。




―――――――――――――――――





会いたいと望んでくれていても、実際問題として、身分差のあるルシアちゃんから接触を図ることはできない。

別になりたくて生まれたわけではない、しかし特に不便さがあるわけでもなかったこの王太子という身分が、初めて心から恨めしく思えた。


機会を設けられるのは自分だけだ。




アシュリー家が平民のままであったとしても、しっかりエレーネとヴァーノン両国の許可を得て、いつか護衛を付けお忍びで行くこともできる。

それだけの信頼を勝ち得る必要はあるだろうが、それくらいのことはこなしてみせよう。

…………一体、その日がいつになるのかはさておいて。






そう思っていた矢先のこと。

此度におけるアシュリー家の類稀なる功績が認められ、永代貴族である男爵位に叙せられたとの報せが自らのもとにも届いた。




――――やった!これで格段に会いやすくなる!



高き壁に阻まれた、完全に隔絶された身分差ではなくなった。



これまでは「平民」である彼らは、言わば塔の外側にいた。

「王族」である自分は、塔の頂きに閉じ込められていて。


あの日ボクは、誰かの手によって。

塔の上から、塔の外へと転がり落ちた。

恐怖と痛みだけがあるはずだった外には。


今までに見たことのない、鮮やかな『赤色』の光があった。




『赤色』の大切な人たちは、塔の外でたくさんの慈しみと優しさをボクにくれた。

ずっとずっと外にいたかったけれど、塔の頂きにいることがボクの務めで。

貴い血の一族()によって阻たれているとは知らずに、眩しい笑顔で送り出してくれたっけ。



塔の入口(王宮の門)は、外にいる人々(平民)には固く硬く閉ざされていて。

どう網の目をかいくぐるか。塔から飛び降りる決心をしていたところだった。


でももう、あの人たちは硬い壁の向こう側の、外にいる人々じゃなくなった。



アシュリー家に塔の玄関口(下級貴族の称号)が開かれたのだ。


ボクたちは今、同じ塔の中にいる!





飛び上がって喜んだ。

そしてそれを見た使用人たちも、そんな姿を嬉しく、微笑ましく思ったようで、一緒に手を取り合って喜んでくれた。




爵位を持つ相手。貴族家に対してならば、会いに行くだけでなく城に招待し、呼び寄せることもできる!




パーティーでも良いし、自分の住まうこの宮に招くのも良い。


男爵家が王宮のパーティーに招かれる事例はあまりないし、宮やサロンへ招き入れるのには、通常の場合相手方に相応の身分が必要となる。



だが、留学中の王太子である自分の招待枠。なおかつ、相手が「アシュリー男爵家」であるならば問題はないだろう。


何しろ高位貴族であればあるほど、今回の一件におけるアシュリー家の功勲を十分に理解している。

なんの利益も見返りもなくして、ヴァーノンとの関係悪化を未然に防いだのだ。

彼らを揶揄し、文句を言う者など誰もいまい。






あとはいつ、どのようにコンタクトを取るかだけ。




できるだけカッコよく、スマートに決めたいな。


パーティーに招待するのなら、なるべく大々的な、列席に名誉のあるものに。

彼らはそのような空間に行くことをきっと絶望して拒むだろうから、簡単な挨拶回りを終え、「ボクの招待枠」であることを周知したあとは、この宮に避難してゆっくり過ごしてもらえば良い。

パーティーというものは、出世や婚姻の足がかりを一切求めていないのならば、何も終日社交の場にいる必要はないのだから。



宮でお話しして、ルシアちゃんに甘やかしてもらうだけにするなら、何か記念すべき日に招きたい。

たとえば思い出の日。

ボクたちが会ったあの日から一年後…………はダメだ。

そんなにボクが待てない。




そうだ、誰かのお誕生日はどうだろう?


保護してもらった夜はそれどころではなかったし、その後もルシアちゃんに抱っこしてもらったり膝枕してもらったりと、ひたすらくっついて甘えることに忙しくて、何も情報を得ていないけれど。




アシュリー商会の所在地ならば覚えている。

使用人でも騎士団員でも、新兵でも良い。

誰か信用できる者に買い物客を装わせ、世間話の体で聞いて来てもらうとしよう。


誕生日でなくとも構わない。

店を構えてからの何十周年記念日であるとか、アシュリーさんが継いでから何年目であるとか。

何かの特別な日を、一緒にお祝いできたらきっと素敵だよね。




――――よし、そうと決まれば忙しくなるぞ!


楽しみだな。ルシアちゃんの笑顔がまた見られるんだ。

早く会いたいな。

ボク頑張って、キミに相応しいお出迎えをしてみせるからね!



服に結ばれたリボンを決意と共に握る。

えんじの褐色は、自然とあの美しい赤髪を想起させて。

温もりなどないはずの無機質から、彼女の体温を感じたような気がした。





計画の許可、そして協力を得るべく、エレーネの外務大臣を捜して回った。

エレーネ王宮において留学中のボクの、形式上家臣という扱いになっている者のうち、彼は最高位にあたる。

つまりボクに対応するにあたって、最も相応の身分を有する者。



アシュリー家で過ごさせてもらって改めて感じたが、実に面倒で無意味なことに、下位の者に何らかの命令を下すにも、何をするにもまず彼を通さなくてはならない。


無意識にほどいたリボンを片手に。

やがて見つけた、書類を小脇に抱えた大臣の後ろ姿へと。揚々と駆け寄った――――…………。




――――――――――――――――――



…………ここまでは幸せだった。

ねえルシアちゃん、無知って……時に幸せなんだね…………。


リアムは目を両手で覆いながら、苦々しげにそう呟いていた。

その声色には、涙の気配が確かにこもっていた。





外務大臣様を捕まえ、いざ話をしようと口を開いた矢先。

リアムの姿を目に捉えるや否や、「何をなさっておいでです!」と慌てふためき、書類を床に放り捨てて首根っこを掴まれた。

彼の宮、つまりここへと繋がる渡り廊下へ。

一瞬のうちに、まるで猫の子を運ぶように連れ戻された。



自分を見ただけで何をそれほど仰天する必要があるのか。


何が何やらわからない。

しかし、それは彼だけであったようで。


使用人の方たちは即座に飛んで来てリアムを胸に抱き、大臣様に向かって平身低頭に謝っていたそう。

…………「目を離した隙に、予測不可能に歩き回っていた」のは自分の方であったらしい。そう悟ったのだとか。






その後、焦燥に息を乱す大臣から話を聞いてみると。


そのたかだか数週間のうちに、リアムの行動範囲規制が、より一層強固なものへと改正されていたのだそうだ。




具体的には、リアムの離宮とその先の渡り廊下。

廊下から広がる本殿の『後宮』内全体。

その範囲内のみが、彼に自由が許された空間だ。



それ以外への立ち入りは、原則として不可。

王城内であろうとも、後宮より先に行こうとするならばあらかじめ評議会での審議を経て、軍部から正式に派遣されたお供が必要となった。


また、リアムに対して接触を図りたい者は、評議会を構成する諸侯貴族ロード・フューダーのうち三人以上の認定を必須とされる。

勝手な行動を取った者は、如何なる理由があろうとも捕縛。場合によっては投獄もあり得る。




それらの事柄が国王陛下の承認のもと、また念入りなことにもヴァーノン上層部の同意まで得て、制定されたあとだったそう。




だが、それも当然のことだろう。


リアムの誘拐未遂事件。

犯人の目的はおろか、その素性も身分も、何ら明らかとなっていないのだから。

王宮内に敵がいる可能性は十二分に考えられる。

リアムが安心して近付いた人畜無害そうな者が、魔の手を隠し持っていたとしても不思議はないのだ。


それは名高く高潔な騎士かもしれないし、誰からも慕われる高位貴族であるかもしれない。




『後宮』というのは、王族の方々が生活を送るお城の居住区域のこと。

国によって細かな扱いは異なるらしいが、王宮の構造は大まかに「働く宮廷」……『外廷』と、「暮らす宮廷」……『内廷』の二つに分けられている。


エレーネ王城においては、後宮は内廷の中でも最奥部に位置するらしい。

基本的に王族とその使用人しか行き来しないそうだ。


後宮より一歩踏み出した場所も内廷ではあるが、そこは財務大臣様や徴税大臣様、尚書官長様などがおわす宮廷。

王家や国民の生活に関わる仕事に携わる方が働く空間が広がっている。



犯人の目的が全くわからない以上、この「内廷」も危険ということ。

リアムの王太子という身分に価値を見出しているのか、それともリアムを害することに利があるのか。


国のため。自分の富のため。あるいは、家のため?


「かつて好戦国だったヴァーノン王家の血を途絶えさせ、エレーネに平和をもたらす」目的であったなら軍務局が危険だし、「王太子の身柄の安全をアピールすることで、大国ヴァーノンを相手に有利な取引や家の繁栄を求め」ようとしているならば、外交官省が怪しい。



つまりは、私自身さえも疑われているのですよ。

外務大臣様はそう言って、大きく息を吐いたらしい。

それも仕方のないことだろう。


ともあれ、二度と危険な目に遭わせることの無きよう、王宮では厳重警戒が敷かれていた。

危ないですからこちらの宮と、後宮から出てはなりませんよ、と使用人から確かに言われてはいたが、またいつもの過保護が始まったのかとあまり真剣に受け止めていなかったそうだ。

使用人の方は、それで通告が終わったと考えていた。

…………見事なすれ違いが起こっている。


それを知らずに彼は、外務大臣を捜して各委員会や軍務大臣様の執務室がある『外廷』の入口前をてこてこと無防備に歩いており、襟を持たれて連れ戻されて来た、というわけである。




そのため、後宮から出るのにも許可と供が必須になります。くれぐれも今後は、王宮を歩き回るなどということのなきように。離宮まで馳せ参じますゆえ、いつでもお呼びつけを。私を捜すなどもってのほかにございます。


くどくど続く諫言に内心うんざりしつつも、リアムは天使のスマイルで難局を乗り切った。

彼はこの時、自分が直接会いに行くのは無理そうだ。やはり先程計画したように、アシュリー家を何らかの名目で城にお招きすることにしよう、との考えに至っていたのだとか。



大臣の息継ぎの合間、絶妙なタイミングを見計らって、ついに話の腰を折ることに成功した彼は、その計画の全容を告げた。

命令でも強制でもなく、互いに再会を約束したこと。自分が宮を離れてはいけないのはよくよく理解したから、ぜひとも彼らを招きたいこと。

そして、そのために従者を遣わせる許可が欲しい、と。







外務大臣様はこう言った。

リアムは自分の耳を。聴覚を疑うこととなる。



「アシュリー家でしたら、与えられた領地へ越しましたよ。商会はまるごと畳んだそうです」

…………との、衝撃的な言葉によって。





――――リアムはそれまで、「領主貴族ロード・ノビリティー」というものを今ひとつ理解していなかったらしい。



それも聞けば納得だった。

なにせ彼の身の回りにいた"貴族"とは、それこそ大臣級の「諸侯貴族ロード・フューダー」か、のんびりした暮らしよりも働くことを選択したキャリア組、「宮廷貴族」のいずれか。


宮廷貴族様は貴族家の産まれにして、領地を継ぐ権利を持たない方々。基本王都や近郊に居を構え、王城へと出勤なさっている。

諸侯さま方は領地こそ持ってはいるものの、その運営や利益は家族に託し、自らは宮廷でのお仕事に専念していることが多い。



それに対して、日々を領地で過ごし、たまにお城へ仕事に来るのは当主のみ。

社交の時期だけ王都へとやって来る領主貴族たち。


彼はその存在こそ認知してはいたものの。

ヴァーノンにおいてもエレーネに来てからも、領主貴族ロード・ノビリティーとは。

王太子にとって、希薄な認識であった。

リアムのお世話や公務の手伝いをするのも、リアムを表立って敵視するのも、彼らではないのだから。




諸侯や宮廷貴族たちは、「実家に遊びに行く」という理由で、時折「領地に帰って」はいた。

彼の周囲にいる貴族たちにとって、『領地』とは自分が住まう場所でも、運営してゆく場所でもない。

ただ時折、様子を見に行くだけの土地。


つまりリアムにとって、「貴族」とは王都に住んでいる者であり、いつでも宮廷にいる者たち。

"貴族"と"領地"は必ずしも結び付くものではなかったのだ。


領民を統治していくために王都の家を離れ、与えられた領地に引っ越すなどという考えは頭の片隅にもなかった。





加えて、商会を畳むことも全くの予想外であった。



宮廷貴族様たちの中には、実家から相続した財産を元手として商人のパトロンをしている方も存在する。

そういった方たちは、移動中にも有益な情報交換をしたり、休憩時間に投資の勉強をしたりしているそう。


リアムにはそのイメージが強かった。

なんとなく、"商人"と"貴族"は両立させられるもの、という認識を持ってしまっていた。



上手くいっている商家を廃業する。

王都から引っ越してしまう。

リアムには思いもよらないことだった。





実際あの時分私達家族にも、アシュリー商会を潰してしまうことに抵抗と迷いがあった。

しかし商人としても貴族としても中途半端になってしまうのを避けるため、領主としての責任の道を選ぶことに決めた。





この時点において、リアムは計画の大幅な誤算を恥じてこそいたが、焦りはなかったそうだ。

領主邸に直接招待状を送れば大丈夫。

従者を遣いに出す計画が狂ってしまっただけで、住所さえわかればなんとかなる、と。




彼は聞いた。

「アシュリー男爵家の領地はどこにあるの?領主邸の住所を教えて」

当然の問いだった。





だが返ってきた言葉は、またしても耳を疑うべきもので。

リアムは期待に輝いた愛らしい顔のままで、硬直し石化することとなった。



「……いや、申し訳ありません。領主不在のまま廃嫡となり、代官に統治を委任していた土地が授与された、ということは聞き及んでいるのですが。その領地の所在までは存じ上げないのでございます。叙爵の儀はともかく、領地の割譲、没収等は評議会が取り仕切っており、関わる官はごくわずか。評議会から噂が漏れることはまずありませんし。…………なにぶん、アシュリー家には『貴族の親戚や知り合い』がおりませんから、情報の出処が何一つないのです」





そう。

まずそもそも、全くの平民から貴族に取り上げられる者は非常に数が少ない。

実のところ未だに私達は実感が沸いていない。

叙爵というものは、そのだいたいが宮廷貴族様に対して行われる。

宮廷での働きぶりを評価され、名誉として自分の血筋での新たな貴族家の創設を許されるのだ。


宮廷貴族様は領主貴族ロード・ノビリティーのご次男以降であることがほとんど。

家族も親戚も皆「貴族」である。


関連した者が少なくとも、瞬く間に噂が広がるものなのだろう。





それに相反して。

私達アシュリー家には、商会時代にビジネスのお相手として取引させていただいた貴族の知り合いこそいるが、その方々は叙爵より以前にお付き合いがあった方々。

男爵領に来てからというもの、本当に一切領地から出ることなく過ごしてきた。父様は父様で、出仕の際もやるべきことが終われば速攻で帰宅するのが常だし。


私達には、「貴族家」としての交流がないのである。



アシュリー男爵領の所在地をこの時点でご存知だったのは、評議会とやらの方々と、あとは下級役人さんたちくらいなもの。


圧倒的大多数の貴族様たちからすれば、「なんかいっつもすぐ帰る人」「髪と目がすごく目立つ赤だった気がする」程度の認識でしかないはずだ。

…………『のらりくらり男爵』とかあだ名を付けられている可能性もある。






リアムがやっとの思いで私達の所在を捜し当ててくれたのは。

また、ちらほらアシュリー家に招待状の類が届くようになったのは。


私達の叙爵を機に新しく編纂された、「紳士録」を見てのことだったそうだ。

その紳士録が発行され、危険物がないかいくつもの点検を挟んでようやく彼の手元に届くまで。






つまりこの時点において、私達アシュリー家は一切の「消息不明」になっていたらしいのである。








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