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八 楽土

これで完結とします。

途中で区切って二話にすべきかもしれません。

少し長いですが、悪しからず


『道中薬 越前屋』そんな(のぼり)が高々と掲げられたのは、嵐から五日ばかり後のことだった。それがどうだということではなかったはずだ。

 幟を掲げて四日後の朝、約束通り船頭がやってきた。海からは土手が邪魔になって屋敷が見えなかったとかで、広大な敷地と建物の数に腰を抜かしていた。

 残り物だがと断って朝餉を食べさせた仁平は。早速用向きを伝えた。

「お願いしたいことが二つあります。まず、大坂へ行ったら飛脚にこれを託してください」

 そう言って手文庫から分厚い包みを出した。普通の文の三倍くらいの厚みがあった。

「あて先は、ここです。差出は、このとおりにしてください」

 そう言ってあて先と差出人を記した紙を上に載せた。

「本多藩? く、く、国家老に? 大丈夫かね、そんなことをして」

「手前はこの人から頼まれただけですが、心配することはないでしょう」

 仁平はすずしい顔でそう言った。

「それともう一つ。大坂で信用のおける商人をさがしてください。実はこの嵐で夜着がびしょ濡れになったのですよ。なんとか乾かして使っているのですが、バリバリになってしまいました。そこで、屋敷が新しくなったことですから、夜着を分厚いのにしたい。もちろん敷き布団も必要です。御存知のとおり三十を越える人数がいますから、余分をみて五十組買いたい。値の張るものでは困りますが、かといって安物を買ってすぐにだめになったのでは意味がない。値打ちに良いものを揃えてくれる商人を探してもらいたいのです。。手間がかかるのは承知しています。ですので、失礼だがこれを手間賃に」

 仁平はそう言って紙に包んだものを船頭の膝元にすべらせた。

 船頭は一瞥しただけで手元に引き寄せようとはしない。その包みは見るからに小判だとわかる。しかも少なからず厚みがある。

「旦那、相手を見てからにしてくださいよ」

 急に船頭がむくれてしまった。頼みというなら手伝いもするが、金を貰ったら手伝いではなくなるというのが理由のようだ。おやっと仁平は船頭の目を見た。そして顔を赤くして素直に包みを引っ込めた。

「これはすまないことをしました。面倒なことをお願いするのだから、相応の手間賃をと考えたのですが、相手を見損なっていました。どうか気を悪くしないでもらいたい」

 仁平は素直に詫びて、夜着が必要になった訳を話した。

「なんと言いなさったね、妾に子が授かった? 冬に向けて寒い思いをさせちゃいけないというのはわかった。けど、妾がここで暮らしている? そんなことってあるのかね?」

 普通に考えれば、妾は別に家を与えられ、賄いの婆さんと暮らすというのが通り相場だ。思い切ったことをする旦那だと船頭は感心した。

「旦那、まだいるって、妾がですか? まいったねぇ」

 女房だけでも持て余すというのに、よくもそんなに妾を(かこ)えるものだと目を丸くした。

「それはともかく、手前どもは子を授かるお手伝いをして何某かのものを頂戴していますので、妾であれ誰であれ子ができるのはありがたい。それが信用につながるかもしれません。お前様も見たでしょう、大勢の若者がおります。なるべく早いうちに祝言をあげさせたい。するとどうなります? 一斉に子ができるかもしれません。そんな無茶なことにはならないでしょうが、そういうことも考えておかねばなりません。ということで、夜着がどうしても必要なのです」

 仁平は正直に事情を説明したつもりだが、船頭にはあまり理解できないようだ。が、仁平の頼みを快く引き受けてくれたのだった。


 船頭が立ち寄ったのは、それから四日後のことだった。

 まず、飛脚に文を託した。だけれど実際に飛脚が走るのは月に二度だということで、届くまでには少し日がかかりそうだと船頭は言った。そして、大店ではないが、客の足元を見るような商いをしないことで評判の店を紹介してもらったと言った。船頭が見て豪勢なものを揃えられるかと訊ねたところ、胡散臭げに見られたそうだ。しかし、荷と引き換えに代金の支払いをすませることと、大金を持っての旅が不安だろうから警護をつけると仁平の言伝を話したら、とりあえず品物を用意すると約束してくれたそうだ。ただし、荷を届けるのに一ト月の猶予がほしい。船頭は言伝を伝え、なんなら船で運ぼうかとも言った。

「それはありがたい。船なら一度に運べますからね。わかりました。日が決まったら大八を差し向けましょう」

 機嫌よくそう答えた仁平は、先日一度引っ込めた包みをあらためて船頭の膝元へすべらし、こう言った。

「本来なら自分がすべきことをお前様がしてくれたのです。どうか収めて下さらんか」

「それはお断りしたはずだ」

 どうしてそこまで固辞するのかわからないが、船頭はあっさりと突き返した。

「そう言ってくれるのはまことにありがたい。ですがな、私が大坂へ行くとすると宿賃もいります、途中で茶店にも寄るでしょう。それに、何日も屋敷を空けねばなりません。そうすると患者に迷惑がかかるのはもちろんだが、稼ぎを失ってしまいます。ですから、気持ちよく収めてください」

 つまり、自分がすべきことを代わりにしてくれた代償だといって納得させた。それにしても気持ちのいい人物だと相手をもちあげ、今後の交誼を願ったのだった。そしてまだ名を知らないことに気付き、苦笑いをした。

 船頭は松吉と名乗った。そして、名も知らぬ相手をそこまで信用できるのかと真顔で訊ね、旦那の言ったとおりの人だと感心している。旦那とは重吉のことらしい。そういえば重吉も仁平が全幅の信頼を寄せる一人だ。何日か共に働いた仁平は、店の切り盛りをすべて任せると言って重吉を慌てさせたものだ。松吉は、重吉や草薙剛直、それに富永と同様に信用できる相手だと仁平は見切ったのだ。

「無茶を言う旦那だなぁ」

 松吉は困ったように身分違いであることを訴え、そこまで過大評価してくれるなと頼んだ。それに、仁平の人物評定がいつも正しいとは限らないだろうとさえ言った。すると仁平は、確かにそうだろうが、自分の眼力に狂いはなかったと言って重吉の名を、草薙剛直の名をもちだした。そういえば、前の勘定奉行、橋詰助五郎も気持ちの良い人物だとなつかしげに言った。そして咲や三人の妾の名を挙げた。

「さんにん? め、妾が三人? 正気かね、旦那。子供は? それぞれもうけた。そろいも揃って一つ屋根の下で暮らして、その内の一人は武家娘だって? しかもお父上も屋敷内にいて信用できる相手ねぇ」

 それは宿替えの時のことを言っているのだろうと仁平は思った。

「乗りましたよ、四人揃って」

「まてよ、あんときは……。いや、年増は二人くらいしかいなかったはずだが」

 年増と言われて仁平は初めて気がついた。松吉は勘違いをしていると。

「あぁ、松吉さん、勘違いをしてなさる。お前様を部屋へ案内したのが女房の咲です。お茶を持ってきたのが、このたび身篭った絢女。子供たちの世話をしているのが園で、もう一人の勝には子種屋をあずけています。どれも似たような年頃です」

「えらい別嬪の女子衆だと思ってたんだが、あれが御寮さん? こう言っちゃなんだが、旦那の娘といっても通るような齢じゃないですか。えらくまた若いのをもらいなさったねえ。さっきのが妾のひとり? あと二人も似たような齢頃ねえ……。無茶なことをする旦那だ、今にカスカスになってしまいますよ。そういえば旦那がしみじみ言ってます、不思議なお方だって」

 まるで独り言のように松吉がぶつぶつ言った。そして暫く黙り込み、じゃあ、時おりお茶を御馳走になりにきますと呟いた。

「そうしてくれると嬉しいよ、松吉さん。ところで、仲間になったということなら、こういう水臭いことはいけないねぇ。ここは綺麗に引っ込めるとしましょうか」

 そう言って仁平が金包みに手を伸ばすと、松吉がそれを払い除けた。

「そんなことしたら越前屋仁平の名がすたるよ。こいつはありがたく水夫(かこ)に分けてやる。そうすりゃ、気張って働いてくれる。それが旦那のやり方だそうだな」

 松吉はニタッと笑ってそれを懐へ大事にしまった。

「ところで、あの文はいったいなんなのです?」

「愛想をつかして姫路を出てはきたものの、真っ当に勤める侍がほとんどでしょう。その人たちが路頭に迷うのを見るにしのびない。町の衆に災いがふりかかってもいけない。それで大掃除をね」

「おおそうじ……。また思い切ったことをするねぇ、旦那」

 松吉の声がかすれていた。誰にも聞かれていないかとキョロキョロして、へぇーえと言ったきり口を噤んでしまった。何も知らないほうが身のためだと、仁平もそれ以上は言わなかった。


 嵐で傷んだところの修理が済み、大戸の取り付けももうすぐ終わる。

 皆が度肝を抜くような嵐だったが、その片付けで相性がみえてきたのを収穫とすべきだろうか。仁平たちがウンウン唸りながら考えた組み合わせが、まったくの見当外れであることがわかったことを善しとせねばならないだろう。自発的に協力するのを見て、あらためて組み合わせを決め直そうということになった。


 おせんは、自ら望んで三木村から出てきた娘だ。既に子種屋は順調に営業しており、その要員として働かせるつもりはなかった。賄い方でなら雇うと言う仁平についてきた。そしてずっと賄いをしてくれている。年頃は子種屋の娘たちと同じようなものだ。そのおせんと原田蜂助が協力するのを富永が認めた。

 手に余ることがあると蜂助はよくおせんに手伝わせた。またおせんが一人で苦労しているのを目ざとく見つけると、蜂助は頼まれなくても手を貸した。あの二人なら間違いあるまいと富永は目を細めて見ていた。

 富永の提案に皆が様子を窺ってみると、なるほど富永の言うとおりだ。しかし、そこで仁平が異論を唱えた。

「なるほど富永さんの見立ては誤っていないようです。ですが、せんは三木村の出。樵や山猟師の娘です。国の御両親が納得されるでしょうか」

「それは先にも申したはず。良い縁を結んでくれと文にあった。身分違いをどうこう申すことはあるまい。仮に、せんがしかるべき家格の娘だとしたら、それこそ吊り合いがとれずに終わる話ではないかな。当人同士の相性がよければなにより。拙者は左様心得るが」

 富永が太鼓判を捺すくらいなら後々に肩身の狭い思いをさせずにすむだろうと仁平は思った。

「では、原田蜂助さんとせんを夫婦にさせましょう。ただし、せんにはこれといって躾らしいことをしておりません。急こしらえで躾ましょうが、それには二タ月ほどかかります。それをご承知ください」

 富永に断っておいて、咲には言葉遣いを、勝には応対を指導するよう言いつけた。自分は、立ち居振る舞いを指導するつもりだ。

「旦那様、私は何をすれば良いでしょう」

 悪阻(つわり)がひどくて青白くなっている絢女も口をはさむ。

「そうだな、お前は字の稽古をしてやっておくれ」

 咲も園も悪阻のときは塞ぎこむ傾向があった。それは勝も同じだった。その記憶があればこそ、仁平は気晴らしのために役割を与えたのかもしれない。最後に富永に対し、原田への申し渡しを頼んだのだった。


 仁平がおせんを呼び出したのは翌日、朝餉が済んだ後のことだった。

 おせんにしてみれば呼び出されるほどの失敗はしていないつもりだ。しかも仁平の部屋ではなく、仁平の仕事場に呼び出されたものだから顔が強張っていた。

「そんなに硬くならないでおくれ、なにも叱るつもりはないのだから」

 他人の目を気にするあまり自分の仕事場に呼び出したことを仁平は後悔した。なんの理由もないのにおせんが怯えた顔をしているからだ。もっと気楽になれといってもそれは無理なことだろう。大勢がいる中で呼び出されるほうがまだ安心できるかもしれない。 

「何か気に障ることをしたのなら謝ります。どうか追い出さないでください」

 何を勘違いしたのか、ペコペコ頭をさげまくった。

「なにも失敗などしていませんよ。なにを勘違いしているのだね」

 三木村でのせんは、苛められる女だったようだ。しかし仁平の元ではそういう揉め事など一切おこっていない。だから普通の娘になっていると思い込んでいたのだが、こうしてすぐに頭をペコペコ下げる癖は直っていないようだ。それはともかく、小言ではないことを知ると頭を下げるのは止まった。ただし、うなだれて膝元に目をやっている。仁平が少しの間黙ったままでいると、その目だけがぐるりと上を向いた。

 嵐の後片付けで蜂助と息が合っていたと言い出したとたんに、またしてもすみませんを繰り返す。そうではなくて、良い組み合わせだと皆で噂し合っていたのだと言うと、背を丸めてうなだれた。

「背を伸ばしなさい」

 渇を入れると、背筋がピンと張った。

「そこでだ、おせん。蜂助さんとお前を夫婦にしようということになった。承知してくれるねと言ってはみるが、お前はきっと遠慮するだろう。けど、奉公人の嫁ぐ相手を決めるのは主人の務め。それが世間のしきたりです。どうしても厭だというのなら別ですが、考えておいておくれ」

 どんな顔をするだろうと、仁平は言いながらおせんの顔をのぞきこんでいた。すると、目がまん丸になり、徐々に顔全体に赤味がさしてきた。

「ただし蜂助さんは武家ですから、今のお前ではだめです。そこで、お前に指南役を付けますから、よくいうことをきいて励んでおくれ」

 仁平はそう言って花嫁修業を言い渡した。そして、これが一番肝心な稽古ですと言ってその場に立たせた。ぱっと裾をはだけると細い腰に黒紐を一巻きした。腰の後ろ側から股をくぐらせて前に渡す。こうでもしないと歩き方なんか簡単に直せないのでねと言い訳をしながら前に大小二つの玉を納め、後ろには数珠を挿し込んだ。

「いいかね、足の付け根を絞り上げるように力を入れたまま歩きなさい。そうすれば自然と内股になる。お咲のように綺麗な歩き方になります」

 そう言って仕事に戻らせたのだった。

 これまで何人もの娘をそうやって躾けてきたのだが、今回は期間が短い。別に慌てる必要はないのだけれど、できれば年内に祝言を挙げさせてやりたかった。


 仁平の科した奇妙な稽古も四日目の夜には馴れてきたようで、おせんが辛そうにすることは少なくなった。そして五日目の朝、仁平は兎狩りに行こうとおせんを誘い、顔色を白くさせた。

 足の付け根を締め続けることにはなれてきたのだが、それは屋敷内でのこと。もっぱら勝手場が持ち場のおせんにとってみれば、多少の段こそあれ平地にいることに変わりはなかった。だからこそ言いつけ通りに玉を落とさずにいられたのだ。時おりふっと気が緩むことがあっても、渡した紐が零れ落ちるのを防いでくれた。しかし山ではそうはいかない。いたるところに木の根がとび出しているし、大きな石も転がっている。枝を避けるのに腰を屈めねばならないことが多いのだ。兎狩りなら草原だろうか。しかし傾斜地を駆け下ることが多かろう。想像するだけで顔色が失せるのだろう。しかし仁平はそ知らぬ顔で丘を登った。山猟師の足取りよりもはるかに軽やかに。

 草地がきれるあたりまで登った仁平は、草をひとつかみ千切って風向きを確かめた。音や臭いは風下にいれば気付かれ難いものだ。そうして慎重に場を定めた。

 仁平が一息ついてもまだおせんは登ってこられないでいる。きつく顔をゆがめ、下腹に手をやって、そうとう堪えているようだ。しかし時がない。おせんには気の毒だが、今できることはこれしかないと仁平は敢えて知らん振りをした。


 おせんが少し先の草叢を指差した。笹が生い茂っている真ん中に丈の低い草叢があり、そこに茶色いものがいた。野兎だ。丈が低いのはハコベだろうか、鳥や兎が好んで食べる草だ。

 仁平はそっと背に負うた籠をおろし、おせんにも降ろすよう身振りで指示をした。そして、自分が追い込むから籠で捕まえろと、これまた身振りで指示をした。おせんが頷き、逆さまにした籠で上からかぶせる真似をしたのを見て満足そうに頷いた。

 仁平は籠の中に石をたくさん入れてきた。少し大きめの石を右手で握り、左手には卵大のものをいくつか取った。

 投石にびっくりした兎が駆け出し、行く先々へ仁平が石を投げる。すると兎は少しづつ逃げる向きを変えた。そうして上手に誘導された兎がおせんの姿に気付いた。そのまま駆け抜ければよいものを、兎は一瞬どうしようか迷ったようだ。ほんの少し先の茂みに逃げ込めば助かるとでも思ったのだろう、急に向きを変えようとした。そうして動きが鈍くなったとき、おせんは見事に籠の中に捕えることに成功した。

 中で兎が暴れている。何度も籠にぶち当たり、逃げ場を探しているようだった。ガサガサと籠が揺れなくなってからおせんが手を突っ込んだ。とたんに悲鳴があがる。が、歯を食いしばったままズルズルと手を引き出した。

「おっ、やったねぇ。さすが猟師村の娘だ、鮮やかな手並みです」

 そう言って仁平は兎の首を掴んだ。自由になる足を蹴り、激しく身をくねらせて逃げようとするが、首っ玉を掴まれてしまってはどうにもならない。と、そのとき仁平がいかにも失敗をしたと言った。どうしたのかと訊ねたおせんに、縄を忘れたと言い、お前は持ってきたかと逆に訊ねた。

 が、そんなことを言ってはみても、急に決まった兎狩り。おせんが忘れたとしても責められない。とはいえ、このままでは逃げられてしまうと仁平は思った。少なくとも後足だけでも括っておかねばとそればかりが心配だ。難しい顔をして考え込んでいた仁平が、そうだと大きな声を上げた。

「ありますよ。手ごろな紐があるではないですか、すっかり忘れていました。ちょちょっと取るから、こいつを捕まえていてくれないかね」

 仁平はそう言って兎の首っ玉と背中をおせんに掴ませた。

「絶対に逃がすじゃないですよ」

 言うがはやいかおせんの前にしゃがみこみ、目の前の着物をぱっとめくったのだった。

「これこれ、これですよ。ここに余分な紐があるのを思い出しました。これで括りましょう」

 両手がふさがっているおせんは口で抗議するしかなく、一方の仁平は、紐が必要なだけだとすずしい顔。こんな真昼間に恥ずかしいところを見られることに変わりはない。おせんは内股を擦りつけるようにして抵抗したのだが、玉を落としてしまいますよと囁かれると諦めざるをえなかった。

 たった一筋の細い紐ではあるが、それでもおせんにとっては身を隠すものだろう。それを剥ぎ取るとき、おせんは歪めた顔を横に向けていた。


 再び暴れだした後足を一つにまとめてクルクルと紐で括り、ついでに前足も同じように括れば逃げようがない。兎を籠に納めた仁平は、籠を負わせると、そろそろ帰ろうかと言った。兎を食べたかったわけではなく、これもおせんに対する教育の一つなのだから長居する必要はないのだ。しかも兎を捕えたことで紐を外させる口実になった。

 丘を登るときには足を大きく上げねばならない。そうすると忍ばせている玉がこぼれそうになるはずだ。ひょっとしたら半分くらい顔を出していたかもしれない。だからおせんは顔をゆがめていたのだろう。しかし紐が塞いでくれるとどこかに安心があったはずだ。これからは下りばかりだが、なだらかな下りではない。木の根をまたぎ、大石を踏み越えねばならない。それに、どうしてもドスンと足をつくことが多くなる。頼りないとはいえ、紐を取られて困っているのではないか。仁平はそう思った。

「さてと、帰って昼にしましょう」

 自分も籠を背にして歩きかけ、思い出したように呟いた。内股を拭っておきなさいと。


 姫路の町でもそうだったが、町衆のほとんどすべてが通過する儀礼に夜這いがある。その仕組みは土地によって若干の違いはあるとはいえ、若衆頭が仕切るのは同じだ。特に山間僻地ともなれば夜祭が盛んである。夜祭とは、ひらたくいえば管理されない夜這いを指し、自由に好いた者同士がひと時を楽しむ場をも指し、乱れ婚をも指す。おせんが生まれ育った三木村でも乱れ婚が折々に営まれていた。そこでおせんは大勢によって集って犯された経験をもっている。それはおせんにとって屈辱的なことだったに違いない。だからそんな集いを受け入れることができず、屈折した性癖を身につけてしまった。おせんとの出会いからそれを知っている仁平は、所帯をもたせるにあたりなんとしてでもそれを治してやりたかった。だからこそ残酷ともいえる仕打ちをしているのだが、おせんも人の子だ。ほかの娘たちと同じ反応をみせ始めていた。


「お前は、こっちよりこっちのほうが好みだったね」

 翌朝、例によって仕事場へ呼び出した仁平は、尻尾のように垂れ下がった数珠を揺らしながら言った。と、おせんが眉を寄せて身悶えした。

「けど、昨日は大変なことになっていましたよ、こっちが。あんなにはしたない娘もめずらしい。つまりねおせん、お前もこっちのよさに気付き始めたということです。ですから、一段上の稽古に替えましょう」

 そう言って仁平は忍ばせていた玉を取り出しにかかった。おせんは、抵抗できぬまま口に手を当てて声が洩れるのを防いでいた。そのかわり、ひくっと腰が跳ねていた。

「今日からは小さい玉にします。小さければよけいに油断できませんよ。しっかりここを絞るように心がけなさい」

 なんという無茶なことをとおせんは恨んでいるだろう。が、仁平は譲歩などしない。これを一ト月も続けさせれば見違えるほど感じ易くなるはずだと信じている。

 おせんがどんなことをされているのか、子種屋の者には察しがついている。いつもてきぱきと用事をすますおせんが、そわそわしだした。当たり前の日常であるはずなのに、突然棒立ちになったり、クッと咽を鳴らしたりする。それは屋敷で暮らすすべての娘が経験させられたことだった。そのうち、おせんはこうなると予想がつく。あのむず痒い感覚がむしろ懐かしく思い出される。

「もうこれは取ってしまいましょう。こうしなくても、お前のここは十分に締まることを覚えたでしょうから」

 最後にタランとぶら下がっている数珠を掴むと、引いては止め、引いては止めして抜き取ってしまった。為すべきことを終えて裾を整えてやったにもかかわらず、おせんは足を開いたまま立ちつくしていた。


 おせんが深い吐息をつきながらノロノロと足を閉じたときにそれは起こった。

 誰だったかが大慌てで一大事を告げにきた。何事かと後を追うと、屋敷の周囲に廻らせた掘割でしきりと下を指差している。他の者も大勢がそこに群がっていた。

 皆が騒いでいたのは、迷い込んだ猪だった。この前の嵐で山に食べ物がなくなったのかもしれない。でなければこんなに開けた土地に出てくるはずはない。

「おせん、お前の出番ですよ。今夜は猪肉を食べさせておくれ」

 横から覗き込んでいるおせんに声をかけると、仕留めてくれたらすぐに捌きますとすまして応えた。

 それからは仕事もなにも放り出して、皆が夢中になって猪を追いたて、仕留めようとした。

「そんなことをしたら皮が穴だらけになってしまう」

 掘割に飛び降りようとして仁平に止められた若者たちは、竹槍で突き殺そうとした。それをおせんは厭がっている。ならばということで若者たちは一抱えもありそうな石を投げ落とした。

 いかに山の獣とはいえ、大石を次々にぶつけられては抵抗もそこまで。敢え無く殺されてしまった。そこからがおせんの独壇場だった。

 若者たちに獲物を引き上げるよう頼み、別の者には筵を何枚か敷くよう頼んだ。そして仁平には鉈と山刀を貸してくれと頼む。また別の者には深い穴を掘るよう頼んだ。自分はというと、右の袖から左の袖へ紐を通し、頭の後ろで結んだ。邪魔になる袂は帯に捩じ込んだ。


「仁平殿、これはまた勇ましい娘でござるな」

 これは両腕をむき出しにして仁王立ちになっているおせんを頼もしげに見つめる富永の呟きだ。三木村の樵か山猟士の娘だというふれこみだがなかなかどうして、武家の妻になるに不足はないとあらためて思っているようだ。

「富永さんは猪を捌くのをご覧になったことは? ないのでしたら驚くのはこれからです」

 仁平はクスクス笑いながら相槌を打ったのだが、そんな話をされているとはまったく知らず、おせんは次々に指図をしていた。


 仰向けにされた猪の胸元に切れ目が入った。ねずみ色の毛に覆われたところに白い身が見える。おせんが再び刀をふるうと白身の奥に赤い肉が見えた。気の弱い者は、これだけで目をそむけた。

 猪の腹をおせんが断ち割ってゆく。乳色をした膜を切ると、臓物が詰まっているのが見える。顔をそむけていた者は、それを一目見るなり逃げさってしまった。

「原田様、しっかり持っていてください」

 前足を持たされている蜂助も初めて見る光景に気分を悪くしたようだ。つい手を放しそうになっておせんに叱られた。そのおせんは、こんどは胸元から口の下まで切り広げ、口につながっている管を切った。

 生き物の腹を断ち割ったところなど誰も見たことはない。案外血まみれではないものの、ブヨブヨした臓物には様々な色がついていて気味が悪い。ましてやアバラがむき出しになっているのはおぞましくさえ見える。しかしそのおぞましいところへおせんは鉈をふるった。


「もう少しの辛抱です」

 そう言って前足を持たせた若者にアバラを開かせたおせんは、口につながっていた管をメリメリと引き剥がした。すると臓物が一繋ぎになってズルズルと剥がれてくる。それを両手で抱えて、筵の上に置いた。

 もう三枚ほど筵を敷いてくれと指示をだし、こんどは皮を剥ぎにかかった。


 きれいに皮を剥かれ、首を落とされた獲物から足を切り取り、背骨を取った。もう生きていたときの姿は想像できなくなっている。丁寧に骨を外して肉だけにする。その作業をおせんはたった一人でしてのけた。

 おせんの株が上がり、仁平も手放しで褒めた。思いがけなくも猪肉を振舞われた村人も、うら若い娘がたった一人で捌いたと聞いて感心した。普段は勝手場で働いているおせんには、おもわぬ褒め言葉でちょっと得意げだったが、仁平が耳元で囁いた、玉は大丈夫だろうねの一言で頬を染めて俯いてしまった。


 それはともかく、他の娘たちの相手選びもほぼ決まった。

 おうめは亥蔵と、おつやは留十と既に祝言を挙げている。残るおみつには森本尚吾を、おこんには中村友七を、そしておきぬには手塚徳次郎をという組み合わせがよかろうということで話がまとまった。おせんと原田蜂助との組み合わせも皆がみとめ、おいとは医者の与之助に娶わそうと今決まったところだ。新参者のおこまとおようには山之下文鹿か三之輔を充てようということも皆の意見が一致した。この四人は年齢が低いので、もう一年くらい後でも決して遅くはないからだ。独り者ばかりだった屋敷が、むせかえる熱気に包まれる日も近いはずだ。


 やがて弱い嵐がひとつきて、それをしのぐと急に涼しさが増した。月見のときに白い穂をそよがせていたススキも、いつしか茶色の茎を立てるばかりになった。そんなある日、松吉がふらっと立ち寄った。

「旦那、せっかくの店やお医者も閑古鳥だなぁ、これで食っていけるのかね?」

 荒っぽい言葉だが情が籠っている。あいかわらず患者の姿がないことを心配してくれているのだ。仁平は、それはまあと曖昧に笑ってすませた。

「ところで旦那、たしか大掃除がどうとか言ってましたよね。それと関わりがあるのかは知らないが、なんだか大きな騒ぎが持ち上がっていますよ」

 松吉の目が笑っている。どんなことか知らぬほうが良いと言われたものの、侍共が右往左往するのが痛快なようだ。が、約束通り文の中身を訊ねようとはしない。

「騒ぎですか。はて、何か困ったことでもおきたのでしょうか。こっちへ宿替えしてから浦島になっていましてなぁ。それよりも、どうすればこの越前屋のことを大坂で広められるか、そのほうが大事でして」

 気のない返事。聞き耳を立てている者がいたとしても、いまさら姫路の出来事など興味がないと思うだろう。しかし仁平の目は笑いながら先を促している。

「なんでも、老松という遊女屋の亭主が役人に引っ張られたそうですよ。どこで聞いたのかは知らないけど、うちの旦那は地獄耳ですから。それと、藩医が家老の屋敷に集められたとも言っていましたよ、旦那が」

「藩医といっても、どうせ本道医でしょう? 私なら剛直先生にすがるが、いったいどんな病なんでしょうね」

「さぁ、そこまではわからないようです。そういえば、物産方奉行の屋敷にも医者が出入りしているとか。金持ちはいいねぇ、気楽に医者にかかれて」

 どうやらそれは重吉からの言伝でもあるようだった。藩の重役ともなれば酒席に招かれることも多かろう。しかし外聞を憚って料理屋を使うはずだ。しかし時には遊女屋へ繰り出すこともあるだろう。その際、相手をさせる女をよく吟味するはずだ。いくら名が売れた遊女であっても病もちとは床を一つにしないはず。では、どうして老松の亭主が引っ張られたのか。

「ところで旦那、この前大坂へ行ったときに例のお店に寄ってみたのですがね、そろそろ荷が揃うと言っていました。今日もこれから大坂へ行くのですが、準備できてるかもしれませんよ。また寄ってみましょう」

「そうですか。このところ急に冷えてきましたからね、準備できたのならすぐにも運んでもらいたい。大坂からの帰りはいつだね?」

「何事もなければ三日後。着くのは昼すぎだねぇ」

 では、三日後の昼過ぎに船着場に荷車を待たせておくと仁平は約束した。そして、代金を支払うから主人を同行させてくれと頼んだ。

 おせんが塩漬けにしておいた猪肉を珍しそうに食べた松吉は、手をひらひらさせて去っていった。

 そして約束の日、山から浜へ向けて強い風が吹いていた。昼餉にはまだ間がある時刻、お天道様が真上にさしかかる少し前のことだった。

 大蔵谷から人足がやってきたのを機に、仁平は咲と連れ立って船着場に向かった。仁平の屋敷も風が吹きぬけるが、船着場に吹き付ける風はいちだんと強く感じられる。あれは江崎というのだそうだが、淡路島の突端を右へやりすごした船が大きく向きを変えた。大きく張った帆をたたみ、半分ほどの大きさの帆をあげてジグザグに近づいてくる。あれが松吉の船かもしれないが、あの調子ならまだしばらくかかりそうだった。

 人足たちは宿替えのときに世話になった者で、仁平のことをよく覚えていた。

 その人足たちを誘って茶店で船を待つ。白波のたつ海を眺めていると咲と昼を食べた浜のことがなつかしく思い起こされた。

「何をニヤニヤされているのです、綺麗な人でも見つけたのですか?」

 思い出してはふっと笑っていたのだろう、咲がからかうように袖を引いた。

「いや、いつだったか二人で昼を食べたのを思い出したのだよ。煮売り屋で買った魚、あれは美味かったなぁ」

 仁平がそう言うと、咲はポッと頬を染めた。

「旦那様はいたずらが過ぎます。朝っぱらからあんなことして」

 そう言いかけ、更に頬を染めてうつむいてしまった。その仕草はまだ馴れ初めの頃から変っていない。可愛くて腹が据わっていて、すぎた女房だと仁平は思った。

「きっとあれが松吉さんの船ですよ。新しい夜具が揃ったら、皆を並べて祝言をしなくては」

「並べてですか?」

 えっと驚いたように咲が仁平を見つめた。

「自分たちが目立っては気恥ずかしいでしょう。だったら一斉に杯事をしてやろうじゃないですか。それが越前屋ですよ」

「皆でいっしょに、いいですね」

 ちょっと普通ではないけれど、祝ってくれるのは越前屋の者だけ。だったら型に嵌らないやりかたもいいではないか。ふわーっと咲に笑みがこぼれた。

「ところで、おせんはどうだね? ちゃんと稽古に励んでいるかね?」

「まあ、大丈夫でしょう、根が素直ですから。叱られながら覚えれば良いではないですか。私も失敗ばかりしていましたから」

 叱られるどころか、最近は自分を叱ることが増えたと言いかけて、仁平は口をつぐむかわりに茶を飲んだ。

「あの子、あんなことができるなんてねぇ。富永様ですら身を引いていたくらいだから、手伝わされた者は肝をひやしたことでしょう。それにひきかえ、お侍を顎で使うのですから、たいしたものです」

「そういえば村名主が言っていました、捌くのが上手いと。けど、あれほどとはねぇ」

 外見で人はわからないものだ。得手なことには意外な力を発揮する。凡庸に見える者こそ実は非凡なのかもしれないとあらためて思う仁平だった。


「待たせたな、旦那。海から旦那のことが見えていたんだけどな、風向きがあかんがな。船が進まなくて往生したよ」

 風に押し戻されまいと松吉が大声で怒鳴った。その隣に実直そうな男が立っている。旅姿のその男は、仁平が頭を下げると同じように深くおじぎをして返した。

 男は藤村屋徳三郎といって、船場の片隅に店を構える呉服屋の主人だそうだ。齢のころなら三十を三つ四つ出たところだろうか。変に商売気のない男のようだ。

 五十組もの夜着と布団を準備するには、高い崖から跳び下りるほどの覚悟がいっただろう。徳三郎にしてみれば、代金を店まで持ち帰ってようやく安心できる。こうして体面しただけではまだ不安なはずだ。

 手渡しで大八に山と積んだ夜具が、もしかしたら奪われるのではないか、代金のかわりに人斬り包丁を突きつけられるのではないか。おそらくその不安でいっぱいなのだろう、しきりと周囲をキョロキョロ見回している。

 そんなことには頓着せず、松吉は仁平の耳元で囁いていた。

「旦那、こちらが御寮さんで? かーっ、お大尽は違うねぇ。別嬪だわ、上品だわ、そのうえ若いときてる。バチがあたるよ、旦那」

 松吉はそう言ってもう一度咲を見た。


 では、そろそろ参りましょうかと仁平は先に立ち、その後に咲が続いた。

 船着場から屋敷までおよそ十町ほど、すぐそこといっていいほどの距離だ。そろそろ中食の頃合いだが、次の大蔵谷宿まで一里ほどだから無理して歩き続ける旅人が多い。

 屋敷への入り口をくぐるときに、仁平は背後で徳三郎の驚く声を聞いた。広さに驚いたのか建物の数に驚いたのかはわからない。ごみごみした町中に住む者からすれば、桁違いの屋敷に見えるだろう。それを聞きながら仁平は玄関口へと案内した。

 玄関脇に筵が敷かれている。皆が心待ちにしていることがよくわかる。会釈をした咲が勝手場へ姿を消した。と、わらわらと若者が集まり、丁寧に頭を下げた。

「旦那、気持ちの良い出迎えだね。躾が行き届いている」

 松吉が感心した。しかし仁平は、お世辞を言うなと返しただけだった。

 大坂の藤村屋さんが、わざわざ届けにきて下さったことを皆に告げると、またも一斉にお辞儀をする。すると咲が、皆で荷物をおろすよう指示した。

 このところ少しづつ自分が前に出ることを始めていた咲が、今は自分の意を汲んで指示を出している。仁平にはそれが頼もしく思えた。

 荷降しを始めようとする勝に咲が耳打ちすると、勝は一人だけ勝手へ引っ込み、すぐに湯呑を載せた盆を持って戻ってきた。自分たちのすべきことを奪われて呆気に取られている人足たちに茶を勧める。

 さて、これからどうするだろうと仁平が静観していると、咲が紙挟みから懐紙を取るのが目に入った。そして紙入れから小粒を取って懐紙でくるむ。人足たちに背を向け、手早くくるむ仕草も好ましい。そして、茶を啜っている人足たちにそれを与えた。

「御寮さん、こんなにいただいてはいけません」

 人足たちは口々にそう言ったが、咲は笑みをうかべた顔をおだやかに振り、旦那様の言いつけですからどうか収めてくださいとだけ言った。

 これだけできれば上々だ。仁平はそう思った。

「だんな、旦那」

 畳んでしまえば小さく感じるが、五十組ともなるとずいぶんな嵩があるものだ。めいめいに与えるものは良いとして、予備として買ったものをどこにしまっておこうか。そんなことを考えていると松吉が脇を突いているのに気付いた。

「あれもお妾さんかね? よちよち歩きの子、あれが産んだ子だね?」

 松吉が指差したのはお勝の産んだ千代だった。

「いや、あれはお勝の子、茶を配ったのが親です」

「じゃあ、子はまだ産んで……、あれっ、二人の妾は既に子を産んで、このたびは三人目の妾って言ってたっけ。どういうことかね」

 どうしてわからないのだと言いかけて、はたと気付いた。松吉は女の背格好や年齢で判断しているのだと。

「お園の子は、ほら、布団を抱えている小さい方の」

 仁平が指差す先を見て松吉が目を丸くした。いったいいくつで産んだのだと。

 そうする間にも荷は綺麗に並べられ、きちんと注文した数が揃っていることが確認された。

 ちらっと仁平を振り返った咲は小さく頷くと、余分なものは離れに片付け、それが済んだら各自が持ち帰るよう言いつけた。また、絢女には人足を送り出すよう命じ、立たせたままだったことを詫びて座敷へ案内した。

 これならどこへ出しても恥ずかしくない女主人だ。あの元気者の咲がよく成長してくれた。藤村屋を招じ入れながら、仁平はそんな感慨にひたっていた。


「さて、早速で恐縮ですが、お代の支払いを先に済ませましょう」

 仁平はいきなり支払いを申し出た。茶を飲むなり、昼餉を済ますなりしてからでも遅くはないだろうが、これが初めての取引であることを考えれば、なにより肝心なことを一番にすることが信用を得易いと知っている。藤村屋もその点に不安を感じていたらしく、すぐさま書付を取り出した。

「布団と夜着を五十組、確かにお引渡ししました。そのお代でございますが、一組が三分ですので、しめて三十七両と二分でございます」

 説明しながら書付を仁平の膝元にすべらせた。

「なるほど、三十七両と二分ですな」

 書付にもその通りの値が記してあった。うんと頷いた仁平はお咲に手文庫を持ってこさせ、まず半紙を一枚敷いた。そこに小判を二十枚置いて扇形に広げてみせた。そしてもう二十枚を同じように並べると、それを相手の膝元にすべらせた。

「松吉さん、船賃は二両で勘弁してくれないかね」

 松吉に訊ねると、どうせ帰り船だから船賃などいらないと手をひらひらさせた。

「四十両をお支払いします。この中から船賃として二両を松吉さんに払っていただけますかな。わずかで申し訳ないですが、残りの二分をご祝儀に」

 そう言った仁平は、別に小粒を紙に包んだ。

「これは、水夫への心づけです。くれぐれも重吉さんには内緒にしてくださいよ」

 口の前に指を立てておどけてみせ、その包みを松吉に与える。そして咲に目配せをした。

 滞りなく支払いが済むと、藤村屋は書付を手元に置いた。そして矢立を取り出してさらさらと書き加えた。金四十両、右、将に受け取り申し候、と。


 少し遅い昼餉を済ますと、松吉は帰っていった。同じように帰ろうとする藤村屋に、こんな刻限からでは西宮に泊まらなければならないと言って、仁平は泊まることを勧めた。大金を抱えたままで知らぬ宿に泊まるより、ここのほうが安全だと勧め、藤村屋もそれに従った。

「初めに船頭さんがお越しになったとき、騙そうとしているのではないか。失礼ながらそう思っていました」

 と、藤村屋が語った。藤村屋が生返事をしていたら、まともに取り合っていないことに気付いたようで、注文主はこちらだと。しかし大坂ならいざ知らず、姫路のお大尽と言われても俄かに信用できるものではなかったが、あまりに熱心なので根負けして揃える約束をしたのだそうだ。品物を奪われては困るので、自分もやってきたというのが本当のことだそうだ。そして屋敷に案内されて驚き、その場で支払いを済ませてくれたことにも驚いたとも語った。それは無理からぬことだと仁平が相槌を打っていると藤村屋が訊ねた。

「そもそもこちら様は、どのようなお商売をなさっているのでしょうか」と。

 元は姫路で薬種問屋をしていたのだけれど、咲を孕ませてしまったために店を追い出され、便秘治療をしていたこと。知り合いの子作りの手伝いをしたことがきっかけで子安方という部署の創設に携わったこと。町の衆にもその恩恵をと考えて子種屋を始めたことを話した。そして領主の国替えにより二匹目の泥鰌を狙う者があらわれ、執拗に協力を求められたことを話した。そんな姫路に嫌気がさし、こうして藩の手が及ばないところへ宿替えしたのだと正直に語った。

「子作りの手伝いって、そんなことができるのですか」

 説明を聞いた藤村屋は呆れたようだ。なるほど子は天からの授かりものには違いないが、およそ六割くらいはそれで授かっていると仁平は答えた。が、それでも信用できないようだった。

「子安方は、お大名の跡継ぎ作りのお手伝いをしています。もうずいぶんの子が産まれているそうですよ。国替えに際し、どうしても厭だということで手前の元に残った者がいます。それと、子安方一行の宿として離れを建てました。ですから、そこを警護するという名目で、子安方配下の警護役筆頭同心が派遣されています。藤村屋さんが大坂へお帰りになる際には、そのお侍に警護してもらうことになっています」

 藤村屋は、滅相もないと手を振りはしたが、手伝いの意味が理解できないようで、しきりと首をかしげている。

「畑に種を撒いてはじめて野菜ができるように、女という畑に精を撒かねば子はできません。うちの娘たちは、殿方の精を吸い出して、それをご夫人に注ぎ込むのです。手伝いとはそういうことです」

「くちで、口でねぇ」

「娘たちには気の毒ですが、紙に受けようが手で受けようが、ご婦人に撒くことはできません。考えつくのは口しかありません。といっても、一度や二度の治療では効果がないので、ご逗留いただけるようにしたのですが閑古鳥でした。なにか宣伝の方法をかんがえねばいけません」

「逗留というと十日ほどかかるのですか?」

「すぐにでも授かればなによりですが、二タ月ほどしないと結果がみえません。なにせ、授かりものですから」

 そこまで話すと仁平は立ち上がった。屋敷内を案内しようというつもりだった。


 真新しい治療室の奥は、長逗留のために個室を並べてある。一部屋の広さは六畳ほどしかないが、長屋と違って土壁の仕切りとしておいた。それなら会話が洩れることは少ないはずだ。ところがその部屋はまだ使ったことがない。子種屋自体の知名度が皆無に等しいのだ。宿替えをした際にどんなことをするかを披露した。集まった衆は感心して聞いているようだったが、よそ者が奇怪なことを言っているくらいの受け止めだったのだろう。

 医院も患者が来ない日が続いている。たしかに医者にかかるということは法外な散財だということが頭にしみついているからだろう。逗留して療養するということを考える者など、この世にはいないのだろうか。ごみごみした町中で寝ているより、静かで空気の良い田舎こそ早く病が癒えるのではないか。無人の療養部屋を見て、仁平は残念な気持ちになった。

「せめて大坂の近くなら縋る人もいるでしょうが、こちらまでの旅でさえ辛い人には難しいでしょうね」

 空気もいいし眺めも良い。率直にそれは認めつつも、藤村屋は患者が集まらない理由を考えてくれた。

「それでしたら、松吉さんの船で運べば良いと思うのです。しかし宣伝といいますか、どうすれば皆さんにここのことを知っていただけるか、その方法が思いつきません」

 自嘲気味に仁平が言うと、藤村屋はなるほどと応じただけだった。

「道中記か名所図絵に載せてもらえれば事は簡単でしょうが、そんな手づるがありません。藤村屋さんには、なにかそういう知り合いがいませんか。いやいや、それなりのお礼はさせていただきますよ」

 子種屋を始める時に仁平は瓦版を使って宣伝につとめたことを思い出した。しかし山田村はもちろんだが大蔵谷宿では患者などいないと思っている。長期の逗留をしてまで子を望むとなれば、ある程度裕福な家でなければいけないからだ。しかし藤村屋は、頼りなく首をかしげるばかりだった。


「なるほど子宝に恵まれず妾を囲っている旦那衆が何人もいます。もしかすると興味を示すかもしれませんから、寄り合いの時にでも話してみましょう」

 あまりに仁平が困った言い方をするのを気の毒に思ったのか、藤村屋はそれとなく宣伝することを承諾したものの、六割くらいが成功したというのを信じられないようだ。それと、小さくていいから幟を立ててはどうかとも提案した。なるほど淡路へ渡る旅人は多い。しかし世に名だたる渦潮を怖がって陸路を選ぶ金比羅詣でも多いではないかと仁平に説いた。大蔵谷のすぐ近くに、こういうかわった治療をほどこす医者がいるということは、やがて国許で広まるのではないかというのだ。なるほど、それも一つの方法だなと仁平は思った。

「あくまで授かりものですから。ただ、それくらいの確率で授かったのは事実です。」

 仁平は、そう言って胸を帳り、幟ということに気付かなかった。さっそくそのようにしようと言った。


 日がずいぶん傾き、空が茜の色に染まりだした。そろそろ風が冷たくなるから座敷に引き上げようという矢先だった。三之輔が亥蔵に言われて仁平を呼びにきた。薬の処方に困っているから知恵を貸してくれということだった。

 すぐに行くといって藤村屋を座敷に連れ帰り、居合わせた富永に相手をたのんだ。

 診察室を開けて目にとびこんできたのは、上品な夫婦者と手代風の若者。その正面に亥蔵が腕を組んで考えている姿だった。診察台の上では、連れの娘が苦しそうに体を丸めている。

 この四人は金比羅詣での帰りだそうだ。体調がおもわしくない孫娘を気遣って岡山周りで帰ってきたのだそうだ。今朝、加古宿を発つときも腹の痛みを気にしていたのだが、船着場まで来て辛抱できなくなったのだそうだ。これでは日が暮れるまでに西宮に着くことは到底無理なので大蔵谷へ戻ろうとした。その際に薬屋に気付いたのだそうだ。

 しかしながら薬屋にできることは、症状を訊ねることくらい。せいぜいできたとしても、目蓋の充血を診るか、舌や咽の異変を診るのが関の山だ。どんな薬を勧めるべきか悩んだ末に、亥蔵の診察を勧めたのだった。

 すぐに亥蔵が診察したが、はっきりしたことがわからない。病の原因がわからないのだから薬を与えることができない。と、弱り果てていた。

 仁平には苦い記憶がある。腹痛をうったえていた娘を死なせてしまったことだ。そのとき、藩医が早々に手を引く中で、生きている者の腹を断ち割ってでも治療しようとする医者がいた。それこそ、仁平が全幅の信頼をよせる草薙剛直だ。その病と同じということはないのかと仁平は訊ねた。亥蔵は、念入りに触診をした結果からして、それはないと断言した。では、このような苦しみ方をするのはどういう病か訊ねたのだが、思いつくものは少しづつ症状が異なるのだと言う。だから診断がつけられないのだと苦々しげに言った。

「では、手前からお訊ねしますが、今日はどのようなものを食べましたかな」

 仁平は、今日の食事を手始めに、傷んだものを食べなかったか訊ねてみた。そしてお通じはどうだと訊ねた。仁平が知りたかったのは、毎日きちんと排便しているか。もし毎日でなくとも、何日目かに決まって用足しできているかということだった。当然だが付き添っている者にはわからないことだい、余人に知られたくないという気持も働くだろう。そこで、周囲には聞かせぬよう、耳元で囁いたのだった。

 娘が苦しそうに首を横に振った。

「わかりました。そういうお方は、実は大勢おられます。すぐにでも苦しみを取り除いてあげましょう」

 腹が痛くなったら摂り合えず厠に籠る。それは庶民ならずとも実行されている解決方法だ。しかし枕が替われば寝付けないように、他人の厠での用足しができない者もいる。この娘もある意味で潔癖症のようだ。若い医者に施療院へ運ぶよう言いつけた仁平は、亥蔵に付き添いたちの相手をたのんだ。

 仕事着に着替えて湯殿を確かめる。患者がいないので湯はぬるくなっている。が、冷たくはなかった。

 手桶に汲んだ湯でシャボンを溶かす間に、仁平はいつから排便できていないかを思い出させていた。

「まず間違いなく、排泄できていないことが原因でしょう。しかし、それだけの日が経っているとすれば、おそらく石のようになっているはずです。それを取り除けば楽になるはずですが、少し体に触れねばなりません。しばらくの間辛抱してくださいね」

 ちょうど出合ったときのお園と同じ年頃の娘だ。別棟に運んだから悲鳴が漏れ聞こえる心配はなかろうが、後でなにを言われるやらわかったものではない。それは医者でない者の弱みでもある。

「では、触れさせていただきますよ」

 仁平が務めて平静に声をかけると、娘は苦しそうに頷いた。

 仁平が最初にしたことは、娘を仰臥させて裾をはだけることだった。あっと娘が前を隠そうとするのを払いのけ、腹の周辺をそっと圧してみた。アバラで護られていない腹は誰でも柔らかいものだ。が、娘のそこは旅人の脹脛ほどの硬さがあった。臍の横あたりから胸のほうへ少しづつ場所を変えて圧しても同じような感触がする。その硬いところをたどってゆくと、右脇から左脇へと門のような形になっていた。

「硬くなっているのがわかりますか? こういうかたちに硬くなっています。なんでもなければ、こういうふうに柔らかなはずです」

 硬い部分をなぞってみせ、次に臍のあたりをかるく圧した。

「触れるまでないとは思いますが」

 呟きながら下腹へ手を移すと、厭っと慌てた声を出した。触診だから我慢しなさいと強めに言うと抵抗がおさまった。その下腹は、臍から下がるにつれて硬さが増し、もやっと生えかけの柔毛の周囲は硬くしこっていた。

「これを出せなかったから苦しいのですよ。大丈夫、全部すっきり出してあげます。そうすれば嘘のように楽になります」

 仁平は、安心させようと思ってそう言った。しかし娘はその意味するところを察して厭がる。

「厭かもしれませんが、ここは我慢してください。これが元で命を落すこともあるのですからね」

 最後の一言が効いたのか、娘は静かになった。

 娘をうつ伏せにさせた仁平は、不都合な身動きをさせないために手と膝を紐でくくり、排便しやすくなるように揉んでみた。しかし、便が出口のすぐ近くにまで押し寄せていていっこうに柔らかくならない。ヘラの柄で押し込んでみたが、奥へ押し戻すことはできなかった。せめてもう少し出口までに余裕があればシャボン液をしみこませることもできるだろう。しかし居間の状態では液を留めることもできないだろう。つまり、それだけ体は排出したがっているわけど。一方で、揉まれたり異物を挿し込まれたりで娘は悲痛なこえを上げていた。

「これはいかん。先が平になってしまっています。無理なことをすれば痔になってしまいます。ちょっと太すぎるようですので、削って形を整えましょう。気持ち悪いでしょうが、しばらく辛抱してくださいね」

 仁平は細い竹ベラを挿し入れて中に詰まっているものを先細りになるように削った。そして、少しでもシャボン液がいきわたるよう、押し込んだのだった。

 わずかな隙間に望みをかけて液を注入し、しばらく待った。

 娘は身に降りかかったことに動転してか、腹痛を訴えなくなっていた。

 やがて厠で尻に詰めた栓を抜くと、ジャジャッと液が迸り、満を持したかのように先端がのぞいた。かなりの太さがあるにもかかわらず、一番太いところが顔をのぞかえると、ヌルヌルヌルヌル切れることもなく送り出されてきた。

 娘が悲痛な声を上げた。いつまでたっても尻が開きっ放しだから疲れたのだろう。なら一旦切ればよさそうなものだが、自力ではそれができないようだ。仁平は丈ベラで根元を切ってやり、一旦尻を閉じさせてやった。

 そして滑りがよくなる薬だと偽ってシャボン液を注入することを繰り返した。

 娘を施療代に仰臥させて腹をおさえてみると、片側の下半分を残して他は柔らかくなっている。仁平はこれで最後のつもりで液を注入いた。何度も継ぎ足し、入りきれずの噴出すところまで注入した。

 仁平が栓を抜くと、勢いよく噴出す液とともに、残ったとおぼしき一本がとび出て、あとは液ばかりば流れ出ていた。

「ようやく全部出しきることができました。どうですか、腹の痛みは」

 つとめて感情をこめない言い方で訊ねると、娘は急いで裾を整え、治まりましたと蚊の鳴くような声で答えた。


 亥蔵のところへ二人が戻ると、付き添いの三人が一斉に娘を見、具合はどうだと訊ねた。

「おかげですっかり治りました」

 相変わらず蚊の鳴くような声だ。仁平は、どうやら娘の潔癖症が災いしたのだろうとだけ告げ、詳しいことは言わずにおいてやった。しかしそれで納得するはずはなく、事の仔細をききたがる。そこで、余人も使う厠では、他人の足音が気になったりするもので、たまに用足しを我慢する者がいることを教え、遠まわしの返事に代えた。

 施療に手間取り、すっかり外は真っ暗になっている。一行は、闇に包まれたのを知ると大蔵谷で旅篭を探すと言った。しかし、年寄りと若い娘にはわずか一里とはいえ物騒なことだ。そこで仁平は、このまま泊まることを勧めた。幸いなことに藤村屋も明日の朝大坂へ帰る。その警護として富永が同行することになっているのだから、一緒に帰れば良いと勧めたのだった。


 逗留用の部屋を作っておいたことが幸いした。仁平は単にそう思っただけだ。もし夜道を帰して賊に襲われでもしたら、それこそ寝覚めがわるくなるというものだ。時には非情なことをしてのける仁平だが、それくらいの情は持ち合わせているつもりだ。そんなことよりも肝心なのは娘の様子だった。しかしあれから呼び出されることはなく、朝餉もきちんと鋸さずに食べた。

 老夫婦は、大坂の米問屋の隠居だと名乗り、くどいほど礼を言った。そして治療費を払うといってきかない。宿賃も払うと言ったが、仁平は施療費として二百文受け取っただけだった。そんなことより、もしその気があるのなら大坂で越前屋のことを宣伝してほしいと冗談めかして言うにとどめた。


 そしてまた一ト月がすぎた。その間に大坂から文が届いている。文は二通。一通は藤村屋からで、その場で決済してくれたばかりか泊めてもらい、あろうことk道中警護まで気遣ってくれたと、それは喜びにあふれていた。もう一通は娘のおやからだった。突然の難儀を救ってくれ、礼のことばをみつけられないそうだ。近くの医者に訊ねたところ、無理にでも便通させる方法など知らないと言われたそうだ。すぐにも礼に出向きたいのはやまやまではあるが、暮れのこの時期は掛取りで忙しい。年が明けたら礼に出向くとあった。

 そして、五組揃っての祝言をすますことができた。仁平と富永が半ば強引に縁を結んだ恰好にはなっているが、なかなか似合いの組み合わせになっている。その証拠に皆の顔つきにしまりがなくなり、浮ついた様子がある。いずれ冷や水をあびせてやろうと仁平がねらっていることなど誰も気付いていないようだ。

 また松吉が何度か顔を見せ、その度に噂話を残していった。

 老松の亭主に続き、弓張りの伝兵衛が引き立てられ、桶富も役人の手にかかったそうだ。三人とも貯め込んだ金をそっくり奪われたうえに厳しい取調べを受け、弱り目に祟り目だろう。そして、内藤と嶋村の二人が姿を消したそうだ。重吉が言わなかったのか、それとも自分の考えなのか、松吉の口からはそう伝えられただけだった。

 内藤は、急ぎすぎたのだ。余人に真似できないことをしようという気概はみとめるが、あくまで己がし遂げての話だ。己に能がないのであれば潔く諦め、ほかの手段を講じべきだった。厭がっている者に無理をおしつけたり、力づくで達成しようとしても上手くいくわけがない。あまつさえ、玄人女を使って誤魔化そうとしたのが決定的な間違いだ。

 老松と伝兵衛から奪った書付の写しも効果があっただろう。しかし、上役に披露するのに玄人を使ったのは致命的だ。花柳の病に侵されている女に遊ばれたと知った上役が黙っているはずがないではないか。姿を消したということは逐電か。だとすると内藤は婿養子だったということか。

 そこまで考えると、なんだか内藤を哀れに思う仁平だった。が、仁平はそんなことに関心を向ける余裕などない。間もなく師走。穏やかな年の暮れを迎えたいと願うだけだ。



 師走となって絢女の腹も少し目立つようになってきた。子を宿すと女は気性が荒くなるというが、特に絢女はその傾向が強いようだ。眦も少し上がっているようだし、言葉の端々にも厳しさがある。些細な事で小言を言われても、仁平は首をすくめてみせるだけだった。

 決して招きたくない客が来たのは、皆で餅を搗いているときだった。一臼搗いて若者に交替し、絢女に叱られながらつまみ食いをしていた仁平が、敷地内に立ち入る武士を見つけた。侍が二人して何の用だろうか。そう思った仁平は、用心のために皆のいるところから離れようと、自分から相手に近づいていった。

「どなたかと思えば、姫路の与力様ではないですか。奇遇でございますな」

 相手を認めた仁平は、自分から声をかけた。

「おお、やはり。急に見かけぬようになったと思えば、斯様なところに家移りをしておったか。それにしても越前屋、豪勢な屋敷ではないか」

 本田家物産方与力の内藤だった。妙に馴れ馴れしいもの言いで、広大な敷地や建物の数に驚いているようだ。そのくせ厚かましいというか、あからさまに仁平が迷惑そうな顔をしたというのに気付かないふりをしている。

「暮れの慌ただしいときに旅でございますか、お役目とはいえ、難儀なことでございますな」

 内藤が姿を消したという噂は松吉を通じて知っている仁平だが、そんなことはおくびにも出さない。知らぬこととして押し通すつもりだ。

「所要で江戸へ下らねばならなくなった。宮仕えの辛いところだ」

 仁平が何も知らないのか、それとも惚けているのかつかみきれないのか、内藤は曖昧な返事をした。所要と言っただけで公用とも私用とも明言していない。そこへ宮仕えという一語を付け加えれば藩の用事と勘違いする。そんな魂胆かもしれない。

「それはまた難儀な、もういくらもせぬうちに元旦でございますよ。ですが、旅の宿で迎える元旦も乙なもの。寒うございますから、風邪などに気をつけてくださいませ」

 そして、この分では京で元旦でございますかと指を折ってみせた。しかし、内藤の言うことなど嘘だということくらい丸分りだ。まず、身なりが汚れすぎている。袴の裾には土ぼこりがこびりついている。とても姫路から真っ直ぐ江戸へ向かっているとは思えぬ汚れだ。それに、柄袋がかかっていないのも不自然だ。長旅のことだから柄袋はもちろん、鞘袋をかける者が多い。ましてや藩の用事であれば体裁を構うだろうに、そういう気配りが全くない。穿った見方をすれば、いつでも抜刀できるよう用心しているともとれる。

「左様、元旦は京であろうかの」

 内藤は仁平の言葉に素直に応じた。応じておいて、借財を申し出た。

「ときに越前屋、心苦しいのだが少しばかり路銀を貸してくれぬか」

 尊大な態度はそのままだが、どこか媚びている様子が窺えた。

「これはまた、なにかと思えば路銀でございますか。ですが、お役目による旅なれば駄賃帳をお持ちのはず、路銀など必要ありますまい」

 仁平がそう切り返すと、おやっと言いたげな顔になった。まさか駄賃帳のことを知らないとでも高をくくったのだろうか。そうでなくとも、国元を出てから幾日も旅篭ですごすわけがない。大蔵谷宿が初めの宿のはずなのだが、それをどう説明するつもりだろうか。

「そのことなれば、急のことゆえ受け取っておらぬ。手持ちの金子のみ握って出てまいったのだ。多くはいらぬ、五十か百もあれば良いのだが」

 それを聞いた仁平は、一瞬考えるふりをした。そしてようやく気付いたように、咲に糸で束ねたものを二つばかり持ってくるよう命じた。

「これはうっかりしておりました。茶店やら渡し賃に困っておいでなのですな。そういう払いは銭でなければ相手が困りますからな。それくらいの銭ならお貸しするまでなく、差し上げますよ」

 いかにも物分りが良さそうにうんうんとうなずいてみせた。


 これはなんだと内藤が気色ばんだのは、咲に手渡された包みを内藤に渡した瞬間だった。風呂敷に包んだ金包みの手触りに疑問を感じたようだ。一方で仁平は、きちんと中身が間違いなく入っていると感じていた。

「なにと申して、お金でございます。百ほどと申されましたが、気を利かせたのでしょう、二百ほどあるようです。それだけあれば当分の間、払いに困ることはないでしょう」

 つまらぬことを聞くなと言いたげな仁平だ。すると内藤は包みを開いて頬を紅潮させた。

「越前屋、いかに戯言とはもうせ、ちと度が過ぎるぞ。なんだ、これは」

 つき返した手を震わせていた。

「ご不興ならばお返しいただきましょう。手持ちの金子だけ持って出たということですので、きっと小銭がなくて困っておいでだろうと思ったまでのことですから。二百文といえば大工の日当でございますよ。落ちてなどおりませんし、誰もめぐんでなどくれませんからな」

 内藤が言ったことを逆手にとって、仁平は呆れてみせた。

「このような端下金ではないわ。五十両、いや、百両ほど都合つけてもらいたい」

 内藤は苛立っているようだ。しかし仁平はあからさまに厭そうな顔をした。

「百文ではなく、百両せございますか。冗談にもほどがございますよ、そのような冗談、どう笑えば良いか困ってしまいます。どうか他をあたってくださいませ」

 鉈を振り下ろすような言い方だった。すぐにでも敷地から出てゆけと暗に言っているのに、内藤は食い下がった。こんな広大な敷地の屋敷を構えているのだから、それくらいの余裕があるはずだ。それに知らぬ仲ではないではないかと嵩にかかって言いたてた。そこで仁平は、身の丈に合わない屋敷を手に入れたおかげで散財したこと、無理を押し付けられた仲でしかないと内藤に言ってのけた。それでも内藤は食い下がった。こんな屋敷を構えながら、金がないとは言わせないとまで言った。

 まいりましたなと呟いた仁平は、仕方がない言いたげに続けた。

「たしかに、いささかの金子は蓄えてございます」

「それみよ、あるではないか」

「ございますが、給金を払わねばなりません。それに節季払いのこともございます。ですから、ないのと同じなのでございます」

「だが、高がしれておろう」

「これはこれは、趣味が悪うございますな。まあ、いいでしょう」

 そう言うと、仁平は給金にいくら、節季払いにいくらと具体的な額を言った。

「其の方、使用人に三十両もの給金を払っておるのか。多すぎだ、その半分でかまうまい」

 内藤が目を剥いたが、仁平は取り合わない。

「たしかに。ですが、手前は惜しいと思ったことなどございませんよ」

 そんなことを指図されるいわれはない。それより、内藤の卑しさが鼻につく。

「どうしてもと仰るのであればご用立てしても構いませんが、証文をいただきとうございます」

 根負けしたふりをして仁平が証文を求めると、内藤は満面の笑みをたたえて矢立を取り出した。

 書き上がった証文を検めた仁平は、請け人を求めた。すると内藤が筆をしめらせる。

「お前様が書いてどうするのです。万一のときに肩代わりしてもらえないではないですか」

 そんなことは常識だろうとさえ言った仁平は、つめ印まで求めたのだった。

「そのようなことができるか。姫路へ戻るを厭うからこそこうして頭を下げておるのだ」

 広がっていた笑みがすっと消え、眦が吊上がる。喜んだり怒ったり、まったく忙しい男だ。だが仁平にしてみれば当たり前のことで、これを忘れるようなら世間の笑いものになってしまうだろう。

 ここに至って内藤は、実は仁平が貸す気など更々ないことを思い知った。

「左様か、用立ては叶わぬか、ならばもう頼まぬ。そのかわりと申してはなんだが、しばらく休ませてはもらいたい」

 内藤ががっくりと肩を落とした。そして腕組みをして忙しく顔を方々へ向け、天を仰いでみせた、

「お断りします。先ほども申した通り支払いの金を出してあります。疑うわけではございませんが、奥へお通しすることはできません。殊にお前様はいまだに盗人を供にしておられます。あとは申さなくともおわかりでしょう。休むのなら、向かいの土手になさいませ。腰を掛けられるようにしてありますし、あれも手前の地所でございますから」

 仁平はきっぱりと断った。言葉は丁寧だが、いつしか内藤のことをお前様と呼んでいる。なにっと内藤が気色ばんだが仁平は退かず、ここは本多領ではないと言い放った。むむむっと唸った内藤だったが、それ以上無理を言ってもどうにもならぬと悟ったようだった、しかし、金がだめならと搗きたての餅に手を伸ばした。

「手を触れてはならぬ」

 鋭い声を発したのは絢女だ。

「これは村人への挨拶のために搗いたものです。お手前方が口にするものではありませぬ」

 絢女は内藤に激しい敵意を向けていた。

「なんだ、餅の一つや二つ、客に振舞うても良いであろう。だいたい其方は何者か、返答次第によってはただですまさぬぞ」

 仁平が、つまらぬ挑発をするなと内藤に言おうとしたとき、絢女が凜と言い放った。

「元松平家上女中子安方配下、富永絢女」

「なにっ、子安方配下だとっ。おのれ、儂が手助けを求めたにもかかわらず無視しおってからに。今からでも遅うない、姫路へまいれ」

 絢女の正体を知った内藤が猛り狂った。なんとしてでも姫路へ連れ帰ろうと絢女の腕を掴んだ。

「やめなさい。絢女は子を宿して気がきつくなっております。必ずどちらかが怪我をするから、手を放しなさい」

 しかし頭に血がのぼった内藤には、仁平の声など聞こえないようだ。

 背後ですっと富永が動いた。が、餅搗きの最中のことで脇差しすら長屋に置いてきている。それと察して山ノ下文鹿が長屋へ掛けた。日田からやってきた若者は絢女の腕を知らず、富永でさえ半信半疑のようだ。が、仁平は十分に太刀打ちできると睨んでいる。

「放しなされ。放せ」

 絢女は腕を振り払おうともがいていた。しかし、ここで逃げられては後がないと、内藤も必死に抱かかえにかかった。

「ええいっ、放さぬか!」

 絢女が懐剣を握るなり、右手を高々と突き上げた。

 内藤の二の腕を割り、唇を切り、鼻梁を断った切っ先は、目蓋を割って額にも傷を負わせていた。白く見えた傷口に血の粒が湧き出て、すぐにボタボタと滴った。

「離れよ、血で汚すでないっ」

 青ざめてなお気丈にふるまう絢女を下がらせ、仁平は内藤の正面に立った。


 腕から血を滴らせる内藤は、顔面も血で染めていた。特に深い傷は腕のようで、無傷な方の手でそこを庇いながら呻いていた。

 慌てて内藤を後ろに退げた嶋村が、おのれと呻いて鯉口を切った。


「日田松平家、子安方警護役筆頭同心、富永十郎左ヱ門。体捨流にてお相手いたす」

 相手が刀を抜くというのなら、それから護るのは自分の務めと富永も刀を腰に差した。しかし、仁平も黙ってはいなかった。こんな者を相手にすれば富永の名に傷がつくと言い出したのだ。屋敷内の誰がしたことであっても、その責めを負うのは自分だと言い、文鹿が持ってきた木剣を手にした。

 町人である仁平が木剣で相手をするなど、命知らずだと若者たちは思っただろう。嶋村にしてみれば、舐められたと思ったに違いない。しかし富永は、あっさりと脇へ退いた。

「おい盗賊、お前はすぐに鯉口を切るが、それは癖か? 臆病なのだろう。抜くか? 姫路では穏便にすませたが、ここは領外。素人だが相手をしてやる。山で獣を相手に覚えた棒振り、流派もなにもないことを断っておく」

 威勢のいいことを言ったわりにへっぴり腰で、わずかに開いた足を真横に揃えて突っ立つ仁平を見て、若者たちが盛んに声を上げた。素人以前だという声さえ聞こえる。嶋村も同じように感じたのか薄笑いをうかべながら刀を抜いた。

 それっ、それっと右に左に刀を振り下ろすのは、横への逃げ場はないぞと牽制しているのだろうと仁平は思った。まるで地回りのようなこけおどしをする男だ。そんなことに付き合うのは莫迦らしいし、怯えたふりをする方が得策のように思われた。

 やがて嶋村が正眼に構えた。が、以前も感じたことだが方がいかっている。無駄に力が入っていると動きがぎこちなくなるものだがと仁平は相手を見つめていた。そして誘われたように自分も木剣を構えた。腰の折れ曲がった年寄りのように無様な構えだ。

 ザッと嶋村が間合いを詰めた。が、まだ剣尖が交わるまでには一歩足りない。

 次の一歩でもう一度間合いを詰め、その次に打ち込んでくるだろう。

 足を踏み出し、すぐに送り足をひきつける。その瞬間は足が止まるものだ。嶋村のように身体に力が入っていると滑らかな動きができないものだ。次に間合いを詰めてきた瞬間が勝負だ。仁平が冷静に考えていることなど嶋村は想像すらしていないようだ。

 ザッ

 薄笑いを消して嶋村が踏み込んだ次の瞬間、仁平が前に向けて跳躍し、曲げていた腰をピンと伸ばした。

 不意の動きに嶋村はどう思っただろうか。一瞬のことで何を思う間もなかったはずだ。嶋村の刀は相手のいない空間にふるえ、その顎の下には木剣が強く圧しつけられたのを感じたはずだ。

「熊の一撃だ。抜き身でなくて良かったなあ」

 勝って当然。仁平の口は、まるでそう言っているようだった。


 この男は、自分が負けたことを悟れずに悪足掻きをするだろう。誘ってやるかと仁平は思った。

 前のめりになった姿勢を正しく戻した仁平は、二歩、三歩と後ずさりして構えを解いてやった。その頃になると、体よくあしらわれたと悟ったのか、嶋村の顔色が赤黒くなった。木剣に強く擦られてできた傷痕からうすく血が滲んでいる。さて、どうするだろうかと思った矢先のことだった。ギリッと唇を噛んだ嶋村がいきなり斬りつけてきた。

「勝負はついたというのに、悪足掻きか。猪だな、まるで」

 やみくもに斬り下ろしてくるのを右へ右へとかわしながらからかうと、目を血走らせた嶋村は大上段に振りかぶった。

 これが仁平の誘いであった。必ず仁平は右へかわすと思いこませ、後先考えずに攻撃させるのが目的だった。

 ヒョイと左前へ踏み出した仁平が左の足を軸にしてくるりと身体を捻ると、目の前を嶋村が行き過ぎる。がら空きの背中におもいきり木剣を打ち込んだ。

 ガツッという衝撃とともに、呻き声が上がった。

「狸だろうが山犬だろうが、これくらいの芸当はするものだ。狼に噛まれたら、腕など食い千切られてしまうぞ」

 硬直して呻いている嶋村に言い捨てると、嶋村の小手をしたたか打った。まるで片腕を斬りおとすような激しさで。

 呻いていた嶋村が急に黙りこんだ。というより、息が詰まってしまったようだ。

 クハッと息を吐いた嶋村はあまりの痛みに仰け反り、無事な左手で刀をやみくもに振り回した。

「あくまで刀を捨てぬのだな」

 右の肩はおそらく折れているだろう。あの手ごたえでは腕の骨だって砕けているかもしれない。左手一本で重い刀をどうするというのか、潔く降参しないことが不思議なくらいだ。一方で、いまだに刀を振り回しているのは明確な敵意だと考えるのは仁平だけではないだろう。

 まるで鼠をいたぶる猫のようだが、完璧に思い知らせてやらねばならぬ。仁平は大きく迂回して嶋村の左腕にも一撃をくれた。

 とうとう堪えきれなくなって嶋村が悲鳴を上げ、同時に刀が地に転がった。

「負けたのなら膝をつくのが礼儀ではないか」

 木剣で脛を打たれて、ようやく嶋村は地に這った。


「見事! 仁平殿、良い手本を見せてもろうた。どうして負けたのやら合点がまいらなんだが、これでわかり申した」

 富永は、しきりと太刀筋を手で真似て、最後にポンと打ったのだった。


 そうして新しい歳を迎えた仁平たち。

 梅の花とともに嬉しい報せがもたらされた。

 大坂の米問屋の寄り合いで仁平のことが話題になったというのだ。

 胸の患いに困っている者が何人かいるというのだ。いくら医者に診せたところで、結局は自宅で寝たきりになるのが定めだ。かかる費用だって莫迦にならない。それならば、空気の良いところで養生させたほうが良いのではと考える者があらわれたのだそうだ。ありがたいことに医者はいつも近くにいるし、流行の蘭方医だ。どうせ寝たきりにさせるのなら世話になってみようと考えたようだ。やがて松吉の船でやってくることになっている。子種屋についても、大名と同様に子が授からないことを悩む者が多いのだとか。大坂では娘に店を継がせるのが一般的だが、そんなにうまく産み分けることなど不可能だし、幼い間に死んでしまうことも多い。それで、大名にも広まっている方法なら試す価値があるとなったのだそうだ。

 一人から、一組からでいい。いずれ越前屋の名が大坂で広まることになれば患者が足をはこんでくれる。ほころびかけた蕾がほのかな香りを放っているのを仁平は楽しんでいた、

「旦那様、旦那様。また雲隠れするつもりですか。ちょっと絢女さん、旦那様を見かけなかったですか」

「いいえ。如何されました?」

「ゴミを捨てる穴を掘ってくださるっていってたのに、何もしてないんだから」

 お咲が探す声がする。仁平は一つ首をすくめると、もの陰でそれをやりすごした。

 穴なら明日でもいいじゃないかとでも言いたげに、春めいてきた街道へと足を向けるのだった。


  完


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