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秋風シリーズ

秋空

 すっかり秋っぽくなってしまった、と感じ始めたのは数日前。

まだ九月の上旬は湿っぽい風が吹いていたが、最近は実に心地よい。

 

 ゆっくり頬を撫でる渇いた、それでいて優しい風。

こんな風を感じる事が出来るのは秋だけだ。密かに僕は願ってみる。ずっと秋だったらいいのに。


「あぁ、でもダメだ。冬にならないと……おでんが……」


僕の中では冬(イコール)おでん、となっている。

あのコタツに入りながらおでんをつつく極楽な気分は、冬ならではのイベントだ。

秋では味わえない。しかし秋には秋の楽しみ方がある。


 放課後の廊下の窓を、何の毛無しに開けてみる。

暑くも寒くも無い風が、紅葉を揺らす音が聞こえる。

ザザザ、というあの音だけで安眠できそうだ。

 それに加えて、グラウンドや体育館からは運動部の掛け声。

そして文科系が集う旧校舎からは、少し音程の外れた吹奏楽部の演奏、そして楽しそうな生徒の笑い声。

 

これぞ放課後、という雰囲気。

なんだかこんな時、一人でいるとセンチメンタルな気分になる。

センチメンタルという言葉の意味は良く知らないが、要は切ないけどちょっと楽しんでます、って意味だろう。


「……いや、絶対違う……今度調べてみよう」


 そっと窓を締め、帰宅部の僕はそろそろ帰ろうと昇降口へと向かう。

その途中、ふと図書室の前で足が止まった。

そうだ、ついでだし、センチメンタルについて調べてみようなどと思ってしまったのだ。


 しかし僕の目の前にある図書室は現在使われていない、旧図書室。

この高校には新しく建造された新校舎と旧校舎があり、今僕が居るのは旧校舎。

その旧校舎の図書室は現在物置状態だ。しかし辞書くらい置いてあるだろう。


「しつれいしまーす……」


どうせ誰もいないだろうが、癖というか何というか。


「…………」


なんだろう、なんだか綺麗だ。

物置として使われてるにしては、普通に整理整頓されている。

本棚には古そうな本が並び、そこには分厚い辞書も。

机の上にも埃は溜まっていない。もしかして誰かが普段掃除でもしているんだろうか。


「もしかして穴場かも……」


ここなら一人で過ごす時、誰にも気を使わず本が読めるかもしれない。

でも掃除されているんだ、少なくとも誰かは……


 と、窓際へと寄った時、目の端に人影が写った。

もしかして幽霊でも見てしまったのだろうか、とそちらを振り向くが、そこには勿論幽霊など居ない。

一人の女生徒が静かに本を読んでいるだけだ。

タイの色からして三年……上級生か。

ちなみに僕は一年。


 もしかして、この人がこの旧図書室を掃除している人だろうか。

なんだか普通に美人だ。和風美人、という言葉にピッタリの印象。

物静かな雰囲気で、窓際の席で本を読んでいる。


 どうしよう、この人がこの教室の主なら……一応断りを入れておいた方がいいだろうか。

僕もここを使ってもいいですかって……。


しかし相手は上級生。

それだけでも話しかけるのに勇気が要るのに、美人な異性なのだ。

更に勇気が要る。あぁ、神様、僕に勇気を下しあ……


 と、その時、女生徒は僕の存在に気付いたのか、目を合わせて微笑んできた。

ヤバい、これはヤバい。僕の心臓は一気に高鳴ってしまう。

しかし今だ、今しかない。話しかけるなら今しか……!


「ぁ、あのっ……僕もここ使っても……いいですか?」


緊張のあまり、おかしなイントネーションで話しかけてしまう。

あぁ、もうダメだ。今すぐ逃げ去りたい。しかしそんな事をすればマジで変な奴に思われてしまう。

なんだか目の前の美人もキョトンとしてるし。


 しばし沈黙。

なんだか妙に空気が重い。何故何も言ってくれないんだろうか。

もしかして、僕はドン引きされてしまったのでは?


 すると女生徒は胸ポケットから手帳のような物を取り出すと、そこにサラサラと何やら書いて、僕に手招きしてくる。僕は手招きに応じ、そっと近づき差し出されたメモ帳に書かれた文字を見た。


『もちろん。好きに使ってね』


メモ帳に書かれた綺麗な字。

あぁ、良かった。

ちょっと安心した。でもなんで筆談なんだろう。


 僕の疑問が女生徒に伝わったのか、更にメモ帳へと文字が書き込まれた。

再びその文字に目をやる僕。そこには……


『私、声が出せないから。ごめんね』


「え……?」


思わず間抜けな声が出てしまう。

声が出せない……女生徒。

そういえば、上級生にそんな人が居ると……噂で聞いたことがある。

病気か何かで声が出なくなってしまった人が居ると……。


「ぁ、えっと……その……」


 僕が戸惑う様子が伝わってしまったのだろうか。

女生徒は引き続きメモ帳へと書き込んでいく。


『私は犬養(いぬかい) (すみれ)といいます。気軽に名前で呼んでね』


菫……なんだか名前と印象がぴったりだ。

物静かで和風美人……まさに菫という感じだ。

菫という漢字の意味がどんなのかは知らないが。


「え、えっと……(ひいらぎ) 美影(みかげ)と申します、一年です。よろしくおねがいします……」


ペコリ、とお辞儀しながら自己紹介する僕。

すると菫先輩は更にメモ帳へ文字を書き込んでいく。


『美影っていい名前だね』


おおぅ、名前を初めて褒められた。

美しい影ってなんか中二病っぽいとは言われた事はあるが。

全国の美影さんに謝れ! とその度に言ってきた。


「ありがとうございます……菫先輩の名前も……素敵です」


『ありがとう』


なんだろう。

声が出せない先輩を前にして……こんな事を思うのは不謹慎極まりないが、筆談……僕もしてみたい。

いやいや、さすがに不謹慎だろう。

先輩は声が出せなくて、仕方無く筆談しているのだ。

そんな面白半分に真似して良い物ではない。


 先輩は今まで読んでいた本を鞄に仕舞い、僕へ向かいの椅子に座るよう促してくる。

僕は素直に座り、菫先輩と対面。

なんだろう、凄いドキドキする。


『本は好き?』


「は、はい、好きです……」


『どんな本を読むの?』


「えっと……最近はクリスティとか……」


『そうなんだ。私はSFとかファンタジー系かな』


SFとファンタジー……僕はあまり読まない。

決して専門用語や漢字が多いから……という理由では無い。

単純に推理小説が好きなだけだ。


「何か……オススメとかありますか?」


僕がそう言うと、先輩は鞄から先程仕舞った本を取り出し差し出してくる。

本の題名は《十五人の子供達》


どんな内容なんだろう、とあらすじだけ読んでみる。


≪AIの彼女は母親となった。十五人の子供を自ら製造し、自分を殺せとプログラミングする。彼女はただひたすらに望む。いつか自分が作った子供達が、自分を殺してくれる事を≫


なんだか想像以上に重い内容のようだ。

舞台は西暦2080年。世界大戦が勃発し、瓦礫の山と化した東京から物語は始まる。


 主人公は自販機を破壊し、食料を調達。

しかし自販機から放たれた警告音が鳴り響き、銃で武装した男達が……


「って、す、すみません、読み耽っちゃって……」


菫さんは微笑ましい物を見るかのような表情で、どうぞどうぞと促してくる。

いいんだろうか。いや、ダメだろ。この本は菫さんの物なんだから……


『貸してあげる。また感想聞かせてね』


「い、いいんですか? でも栞が挟んでありますけど……」


『大丈夫。私は三週目だから』


あぁ、もう周回プレイに入ってるのか。

じゃあ……借りようかな。


「ありがとうございます……えっと、じゃあ……僕のオススメも……」


 僕も鞄からクリスティの小説を取り出す。

しかし僕が持っているのは『ナイル川に死す』という小説だ。

正直『スタイルズ荘の怪事件』から読んで欲しい。


 いや、でも……人によっては読む順番なんてそれぞれだし……

いや、しかし……


『ごめん、私そろそろ病院行かないといけないから、また今度貸してね』


「ぁっ、す、すみません! 今度絶対オススメもってきます!」


 そのまま先輩は鞄を持ち、僕へと手を振りながら旧図書室から出ていく。

僕も思わず手を振り返し、先輩を見送る。

ヤバい……なんか……センチメンタルだ。


「センチメンタルの使い方……間違ってるよね……」



 ※



 高校からの帰り際、僕はいつも寄っている行きつけの喫茶店へ。

秋だからだろうか。喫茶店の入り口には『焼き芋あります』の文字が。

なんだ、この「冷やし中華あります」みたいなノリは。


 喫茶店の中へと入ると、他に客は相も変わらず老人ばかり。

それぞれ隅の席を陣取っており、僕は僕でカウンターのいつもの席へと。


「おう、おかえり、美影」


「ただいま、爺ちゃん」


 ちなみにここの喫茶店は爺ちゃんと婆ちゃんの老夫婦で経営している。

爺ちゃん婆ちゃんと言っても、僕の爺ちゃん婆ちゃんでは無い。

幼いころから実の祖父と一緒に通っている内、僕はマスターの事を「爺ちゃん」と呼ぶようになっただけだ。


「爺ちゃん、ココアとシュークリーム」


「いつものな。ちょっと待ってろ」


僕がいつも頼むのは甘いココアとシュークリーム。

ここのシュークリームは婆ちゃんのお手製だ。一部の学生には熱烈な人気を誇っている。

まあ、今この店には学生など僕しか居ないが。


「おまちどう。で? どうした。何かいいことでもあったのか?」


「え、分かるぅ? エヘヘ」


「気持ち悪いな……何があった」


気持ち悪いとか失礼な。

爺ちゃんは煙草に火を付けつつ、コーヒーを一口。

ちなみに爺ちゃんは口髭を生やし、バーテン服を着こなしている。

ジェントルメン……という言葉があっているかどうか知らないが、雰囲気は伝わるだろう。


「実は……」


 僕は爺ちゃんへと菫先輩の事を説明。

中々に和風美人な先輩と面白おかしく筆談したと、多少色を加えて。


「で? オススメの本は結局貸せなかったのか」


「うん……だってナイル川に死すしか持ってなかったから……」


「あぁ、クリスティなら一通りあるから持っていくか?」


ちなみに爺ちゃんも相当の読書家だ。

私室に何度かお邪魔した事があるが、壁が見えないくらい本棚に囲まれている。


「でも……推理小説が初めての人にクリスティって大丈夫かな……」


「何を言うとるんだ。俺なら「そして誰もいなくなった」をオススメするがな」


あぁ、確かに面白いけども。

でもどうせなら最初から読んでもらいたくない?

伝説を最初から!


「俺は順番なんて気にしなかったがな。一番ワクワクするのをオススメするのが筋だろう。相性が合えばどんどん読んでくれる」


それはそうだろうけど……。

まあ、菫先輩もかなりの読書家っぽいし……大丈夫かしら。


「ところで、その先輩にオススメされた本っていうのはどんな本だ」


「あぁ、これ……」


僕は菫先輩から借りた本を鞄から取り出し、爺ちゃんへと。

爺ちゃんは僕と同じ様にあらすじから読み始め……そのまま……


「…………」


「…………」


「…………」


「…………爺ちゃん?」


「黙ってろ」


酷い、僕一応客なのに……。

しかし一度夢中になった爺ちゃんは止まらない。

このままでは僕より先に読んでしまいそうだ。


 僕はココアを一口飲みつつ、シュークリームを頬張る。

うん、美味しい。婆ちゃんの特製シュークリーム……


「おい、美影、この本貸してくれ」


「何いってんの。駄目に決まってるでしょ」




 ※




 翌日の放課後、僕は再び旧図書室へ。

まだ菫先輩は来てないようだ。ちなみに僕の鞄の中には、迷いに迷ったあげく、爺ちゃんのアドバイス通り「そして誰もいなくなった」が入っている。


「先輩まだかな……」


窓を開けて秋の乾いた優しい風を感じながら待つこと十分。

旧図書室の扉が開いた。僕は先輩が来た、と思いそちらに顔を向けるが……


「……ぁ、君……美影君?」


入ってきたのは知らない上級生の女生徒。

何で僕の名前を知っているんだろう。


「ごめんね、菫なら……来れないから。本人からきっと待ってるだろうからって……伝言受け取ってて……」


「え? ぁ、はい、分かりました……」


委員会か何かで来れないんだろう。

しかし……


「菫……入院したから……ごめんね」


「……え?」


 それから僕は、女生徒から事情を聴く。

どうやら先輩は度々入退院を繰り返しており、今回も特に心配はいらないだろう、との事だった。

でも心配だ。途方もなく不安になってくる。

もう菫先輩に会えないのでは……と、不謹慎極まりない妄想すらしてしまう。


 どうしよう、お見舞いに行きたい。

でも僕は知り合って一日しか経っていない。

友達でも何でもない、ただ学校が同じというだけだ。

そんな奴がお見舞いに行って……良い物だろうか。


 そんな事を考えている内、なんだか居ても立っても居られなくなる。

心配だ。物凄く心配だ。

先輩から借りた本を読んでみるも、まったく内容が頭に入ってこない。


一目でいいから……先輩に会いたい。

それで別に大した事ないって……確認を……


「うぅぅぅぅぅ」


どうしよう、こんな時相談できるのは爺ちゃんだけだ。

携帯でちょっと……どうすればいいか聞いてみよう。


 最近爺ちゃんは携帯電話をやっと持った。

その携帯へとコールする僕。数コール後、爺ちゃんは出てくれる。


『もしもし。美影か。どうした』


「ぁ、爺ちゃん……昨日話した先輩が入院しちゃったんだけども……僕どうしよう。お見舞いとか……行っていいのかな……」


『何処の病院だ?』


「えっと……〇×市民病院……」


『近いな。お土産はシュークリームでいいか?』


いやいやいやいや、既にお見舞いに行くことになってるんですけども。

僕、お見舞いに行くか行かないかの相談をしているのですけども。


『んなもん難しく考えるな。面会謝絶でもないなら行っとけ』


「いや、あの、爺ちゃん? 向こうの都合とか……」


『行かなきゃ分からんだろ。ダメそうなら帰ってくればいい』


そうなのか? 本当にそういうものなの?

大丈夫?


『お前の悪い癖は難しく考えすぎる事だ。それは慎重じゃないぞ。ただのアホだ』


アホとか言われた!

爺ちゃん酷い!


『シュークリーム用意しとくから。さっさと取りに来い』


そのまま一方的に電話を切る爺ちゃん。

なんだかお見舞いに行く事が決定してしまった。

でもシュークリーム……先輩食べれるかな……。




 ※




 それから僕は喫茶店でシュークリームを受け取り、先輩の待つ病院へ。

看護師さんへ面会できるか、と聞いたところ、どうやら問題ないらしい。

 そのまま聞いた番号の病室を探す僕。

普段は方向音痴な筈なのに、なんだか簡単にたどり着いてしまった。

まだ心の準備が出来ていないというのに。


「…………」


 意を決し、病室の扉をそっとノック。

すると中から「はい」と返事が。

あれ、今の……先輩の声……じゃないか。

先輩は声が出せない筈だし……。


「失礼します……」


 そっと中に入ると、そこには先輩一人。

あれ、今の声……誰の……


「み……か、げ君? きてくれ、たの?」


「……先輩?」


先輩は声を出している。

少し擦れた、それでも綺麗な声を。


 すると先輩は近くにあったメモ帳へとサラサラと文字を。

僕は先輩の近くへとより、差し出されたメモ帳を見る。


『昨日、いきなり声が出るようになっちゃって。ごめんね、検査入院してるんだ』


「え? ほ、ほんとに?」


「ほ、んとだよ」


先輩は微笑みながら僕へと、そう返してくれる。

なんだ……病状が悪化したとか、そういうのじゃない。

むしろいい方向じゃないか。


ヤバい……なんだか安心したら……足の力が……


 僕は近くにあった丸椅子へと座り、まずは先輩へといきなり着てごめんなさいと謝る。

すると先輩は優しい表情で首を振ってくれる。


『ぜんぜん。嬉しい。ありがとう。まだ上手く声出せないから、筆談で我慢してね』


「いえ、そんな……良かったです……」


良かった……本当によかった。


ぁ、そうだ。

爺ちゃんのお土産を渡さなければ。


「あの、これ……僕の行きつけの喫茶店で売ってるシュークリームなんですけど……食べれますか……?」


嬉しそうに頷く先輩。

良かった、食事制限とかされてたらどうしようかと……


『行きつけの喫茶店って、高校の近くにある所?』


「ぁ、そうです。老夫婦が経営してる……」


『そこのシュークリーム、食べてみたかったんだ。ありがとう』


おおぅ、爺ちゃんグッジョブ。

そのまま僕はシュークリームの入った箱を開け……って、五個も入ってる。

僕二個分の料金しか払ってないんですけども。


『美影君も一緒に食べよ』


「ぁ、はい。じゃあ……いただきます。ぁ、何か飲み物買ってきましょうか」


『お願い。紅茶系がいいな』


「了解です」





 ※





 それから僕は、先輩とシュークリームを頬張りながら楽しいひとときを。

僕は鞄から爺ちゃんオススメの「そして誰もいなくなった」を出し、先輩へと渡した。


『ありがとう、借りるね。私が貸した本はどこまで読んだ?』


「ぁ、えっと……女の子のAIと出会うところまで……あの子、強いですね。バッサバッサと敵をなぎ倒して……」


『うんうん、ネタバレしていい?』


「えっ、いや……あの……」


『冗談』


満面の笑みで筆談する先輩。

なんだろう、ものすごく楽しい。

このまま時間が止まってしまえばいいのに……。


『そろそろ時間かな』


その筆談で、僕は時計を見る。

既に時刻は午後六時を回っており、実は面会時間なんてとっくに過ぎている。


「ぁ、ごめんなさい、長居しちゃって……」


『全然大丈夫。最後に……お願いして良い?』


お願い……なんだろうか。

新たにジュース買ってこい系だろうか。

勿論喜んで買いに行くが。


 先輩は少し躊躇いがちに、首を傾げつつメモ帳へと文字を書いていく。

しかし何か不満なのか、すぐに破り捨ててしまった。

え、なんだろう。


 僕はつい、その先輩が破り捨てたメモ帳を手に……

すると先輩は鬼の形相で僕の手を掴んできた。


えっ、何?!


「ま、って……読んじゃ……ダ、メ……」


「あ、いや、はい……」


なんだろう、読んだら命が危ない。

そんな風に思ってしまうほど、先輩は顔を真っ赤にして怒って……


「あの、先輩……お願いって……」


僕の言葉に先輩は項垂れつつ、サラサラと再びメモ帳へ文字を。


『ごめん、なんでもない』


え、すごい気になる。

もの凄く気になる。


『じゃあ、気をつけて帰ってね』


「ぁ、はい……じゃあ、失礼します」


ペコリ、とお辞儀しつつ退室する僕。

あの先輩の筆談……なんだったんだろ。

気になるけど仕方ない。読んだら首の骨折られる勢いだったし……。


 


 ※




 それから数日後、先輩は検査入院を終え退院。

僕と先輩の旧図書室での楽しいひとときは……今も続いている。

作者的に悲劇が待っていそうな雰囲気だったが、一安心だ。


 先輩の声も少しづつ戻ってきているが、医者からまだ無理をするなと言われているらしい。

僕と先輩は筆談での会話を続けている。


 結局、あの時の筆談はなんだったんだろう……と思いつつも、僕は聞けないでいた。


もうこの疑問は……秋の風にどこかに飛ばしてもらおう。


僕は先輩が元気そうな笑顔が見れれば……それでいいんだから。




 ※




《市民病院 菫が入院していた部屋にて》



「……なにこのメモ……キスして? どこのリア充よ……」




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― 新着の感想 ―
[一言] 途中で「菫先輩、死んじゃうの?」って本気で思いましたよ(苦笑) 朋先輩に楓さん……美影君の恋愛遍歴の終着点になれると良いですね、菫さん! (実は私の初投稿作のヒロインも菫という名前でして特別…
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