3話 はじめての闘い~光と影の皇子~
鴨氏族、鳥の神々や眷属を信仰した人々のことである。
八咫烏がこの鴨氏の先祖を自称している。
それと同時に、鴨氏族とはいっても、被差別民や貴族、能力者集団、神の末裔、大陸由来民など
様々な伝承による系統が分かれていると鴨氏伝承では語られている。
秦氏と鴨氏が氏族を融合するため、結婚していったいわれも、神社や各地で大きく語られているという話さえある。
「鴨・賀茂・・・カモ」など、氏族や姓名が同じだからといって、その本質は
全く異なる次元のものであることは、彼らの生態が物語っている。非常に複雑で解釈の難しい氏族だった。
一見すると非常に似ているものの、その本質は180度別のときもあるのである。
まさしく今この状況も、二つの異なる鴨氏が対立している絵であるかのごとし、であった。
祖先に賀茂建角身命または伝説上ではその子孫に
賀茂別雷を持つ。
「そして俺の祖先は、太陽の神アマテル=饒速日の直系だ!」
饒速日命は一説には賀茂別雷のことといわれている。
「こいつ・・・・・・・・・・・なんだこりゃぁあああ?!(ガスマスクの男たち)」
「おれは・・・・・・・・・・・(テルヒコ)」
「俺は、太陽だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
即座にワカヒコの心臓に光となって激突したテルヒコはその余波である日輪そのものを、勢いよくワカヒコに
追突させていた。「わーーーーーーーーーーーーーーーーーー!(ワカヒコ)」
ワカヒコは付近のマンションに激突し、マンションは大きく崩壊した。普通の人間なら確実に即死だ。
だが、彼は生きていた。
「ははははははは!初試合では一本取られたね!なかなか楽しかったよ!でも僕は殺せないよ?
影の肋骨はほとんど折れたけど。(ワカヒコ)」
スッ・・・・・・・・・・・・・
彼自身の姿は黒い羽とともに消えていた。それと同時に、ヒトガタがふっと空気中から彼の姿のあとで落ちてきた。
あのヒトガタは、ワカヒコのダミー(影・シャドー)だったのだ。
「あれが僕のほんとの姿、本気と思わないことだね。君の力がみたかったんだよ。ていったら負け惜しみになっちゃうか笑 すっごくたのしかったよ!(ワカヒコ)」
「君が本当に太陽の意志に選ばれたものなのかどうか、僕の目で見定めさせてもらうよ。
太陽の末裔を名乗るのは、僕たちのほうがふさわしいということも今後教えてあげるよ・・・・・・・・!
まずは君の友達、そこのブス(マユ)を君自身の手で殺すことから始めてみなよ!じゃあね・・・・テルヒコ!(ワカヒコ)」
「若様!我々も戻るぞ!(ガスマスクの男2)」
「いや、まずこの青年をどうにかしてからでなければ、若様に示しがつくまい。土蜘蛛のことも・・・。総員石上隊員の弔い合戦だ!またこれでメンバーが一人・・・。これだから実戦は嫌だ!(蜘蛛男)」
「なんだあいつ・・・・でもなんだかあの顔、あの声・・・・・・・知ってるような。もしかしてあいつ、ユウト?!いや、眼の色が違う・・・・・。ユウトもひねたやつだったけど、あんな奴じゃなかった・・・(テルヒコ)」
「なんだかわけがわからんことばっかりだけど、言えることは一つある。おりゃ、お前たちの思ってるような
お前らの同類じゃないってこと。それだけは確信できたぜ!(テルヒコ)」
「ようしやってやるよ!なんなら俺だってやってやるううううううううううううううううううううううううううううううううう!(テルヒコ)」
うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
「テルヒコアターック!(テルヒコ)」
テルヒコは蜘蛛男たちを建物ごと、装甲車ごと全力で衝撃波ごとまるまる吹き飛ばした。
装甲車に激突するテルヒコの体の向こうへ太陽そのものが直接的に、迫ってやってきていた。
「俺はあんたたちブルジョア階級の陰陽師とは違う!おれのじいちゃんは、日下の民の末裔だ!」
日下部氏とは、隼人族や海部氏や尾張氏など、古代太陽を信仰した部民の末裔とされる。
彼らは饒速日ではなく、火明命の後裔を自称した。
実はこのホアカリ(火明命)、先に紹介した天孫饒速日命とは同じ人物で、同神とする一方で
伝承などから別人だとする意見が根強く支持されていた。
「俺が信じるのは、日本の太陽神ただひとつだ!」
テルヒコの言うニギハヤヒとは、もっぱら本来の日の神、太陽神である火明命のことである。
こちらが彼の住む児湯地方の名前の由来となった出自および伝説を持つ。
女神とされる天照大神とはまた別に存在したのではないかという話もある。いわば、影の太陽である。
そしてさらには、物部・秦一族は大陸からやってきて、のちにホアカリ系の一族の上から
同族と名乗り、戦闘後か交流後等の後に強制的に血統を乗っ取って
乗っかった可能性があることも多くの研究者から示唆されているのである。
天孫や王族なども日下の民を自称し、一説には
彼らの持つ神話伝承を何らかの形で譲り受けたものとされている。それが友好的な形による譲渡なのか
力による制圧、略奪なのかはだれも知る由もない。大陸から来た秦氏族と南方から上陸した日下部氏族の間に
起こった出来事がこれらの確執を生み出したのか、そして八咫烏陰陽道は支配者の末裔で、テルヒコは今にも駆逐されそうな
残党群であるのかー。双方の都合、そして一方的な言説では、その答えは今は出せないだろう。
ホアカリとニギハヤヒという、二つの名前がある太陽神、「アマテル」・・・。
その末裔である二羽の鳥。憎しみか、親近感か、緊張か相互理解か。
そもそも完全にテルヒコが理解できているかは別の話であった。
相互理解に時間はかかりそうだ。
だがいえることはただひとつー。
いつの時代も、勝者が笑い、敗者は真実ではなくなるということだった。
テルヒコの遺伝子に、屈折した何かが刻まれている理由も、その因果なのか。
そんなことを考えている余裕など、今現時点で彼にはなかった。
テルヒコもその(忘れ去られた太陽族)末裔だというのか、屈辱にまみれた半生を生きてきた彼の背後に
日の光が宿業をあざ笑うかのように燃え上がってその姿を
隠そうとはしないのであった。まるで自らを覆い隠すすべての存在を、赦さないといわんばかりの強烈さで―
その輝きは蜘蛛男たちの精神を狂わせ、ゆがんだ感情を爆発させるには十分なものであった。
そして神話についても歴史についても認識不十分の、青年という存在性が彼らを十二分にいらだたせるのだった。
日下部と物部氏
火の鳥と影の鳥
対立する二つの鳥族。
「若様こそ我々陰陽道の新たなる希望!(蜘蛛男たち)」
「君たちの背負う重みは、わが一族の背負う使命の重みと比べるに足らず!ここで死んでもらうぞ!テルヒコ君!(男たち)」
光の中で男たちに包囲される青年の後ろ姿が悲しげでもあり、鬼気迫った。
被害者の歴史、果たして加害者の歴史が体現する力なのか-。
強烈なスピードで、太陽の光の中で取っ組み合いになる、マユとテルヒコ。
俺たち、どうしてこうなっちゃったんだろうな、マユ・・・・・・・・・・。
土蜘蛛の腕をへし折る青年テルヒコ。
その力はどこからくるのか。決着はどうなるのか。
この物語の結末はどうなってしまうのか。蜘蛛さながらの体勢となった男たちは
かたずをのんで、見守るほかなかった。そんな瞬間、「ぎゃ~~~、隊長!(蜘蛛のような姿勢の男)」
折れる腕から出た酸が、男たちの肉体を溶かしてゆく。
3本足をへし折った際、聞き慣れた少女の声が聞こえる。
「お願い、誰でもいい・・・助けて・・・・・・・・・・(マユ)」
ニヤッ
懇願する声とともに、ほくそ笑む表情の化け物を見たテルヒコは、学生時代の彼女の言動を思い出した。
「キモッ!近づくなよなにこいつ・・・あんたが肩でも触るとわたしまでクラスであんたと同じ程度の生き物になるじゃない!(過去のマユ)」
躊躇した途端、土蜘蛛と化した少女は俊敏にテルヒコの体を投げ飛ばし
カサカサッとガスマスクの男たちを盾にして一人一人を襲いだした。
「なにぃい?おい、マインドコントロールがされているはずじゃ?!(ガスマスクの男2)」
「殺す、誰も・・・・・パパもママも、お金も学校も職場も友人も信じない・・・・・・!(マユ)」
「マユ―!そのままじっとしてろ!(テルヒコ)」
遠くから閃光になった青年は、マユの体を打ち砕き、一瞬にして貫通していた。
「て、テルヒコくん・・・・・・・・・・・・このごみぃいいいいいいいい!(マユ)」
「?!!(テルヒコとその周囲)」
「こんなごみ男に負けるなんて、あいつに負けるなんて・・・・・・・・・・
許せない、許せない―――!(マユ)」
タイミングよく雷が彼ら二人のもとを直撃する。
「これが、あいつの本質だったのか?!そんな、う、嘘だあああああ!(テルヒコ)」
ズドーン!(雷が落ちる音)
皮肉にも、雷を別けるほどの力を持つというその神の力は茫然としたテルヒコには感じられなかった。
その姿は少女の原型をとどめるものではなくなっていた。「そこまで堕ちてしまったか!(テルヒコ)」
少女はパッと姿を消し、遠くのマンホールから顔を出したかと思えば、カサササッと素早い速さで
まさしく蜘蛛そのもののように逃げていく。「Ⅽ班!土蜘蛛の実験体が逃げました!至急捕獲して
施設に連れてください!久しぶりの成功例です。(ガスマスクの男1)」
「こちとら失敗はゆるされないんでねえ!警察を増員して対抗するぞ!(ガスマスクの男2)」
これはもう自分の手に負える事態ではなくなってきている・・・・・・・・・
テルヒコはそう直観し、先ほど覚えたタックル一つで無理くりに男たちを突っ切り、
撃たれそうになりながらも、バイクで逃げだした。
蜘蛛のような姿勢の男たちの足からローラーブレードが飛び出し、時速4~50キロのスピードで
蜘蛛男たちの集団がバイクのテルヒコを追いかけてゆく。
その中にはパトカーも4~5台混ざっているようだった。
「警察は市民の味方じゃないのかよぉお!?!」
一安心したら、テルヒコの自己認識は、謎の声や意識は薄れており彼だけのものとなっていた。
「それにしても、マユ・・・・・・・・・・・彼女はどこへ?!」
ギャー―――!謎の声が向こうでこだまする。もしかして、それはさっきのマユ?!
駆除チームに撃たれた?!・・・・・・・・・・・
そうだといわんばかりに、追っ手は数を増しているように見えた。
ドラマチックな再会も、瞬時におわる。結婚を約束していた友人は、成長すれば人間と怪物になる。
現実はこんなにも醜くて、夢がなく、あっけないのか。
だとしても、夢以上の現在がある不思議。