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アルバニアと17さん

作者: 望月 優響

ボクの名前は「17」です。

学校の名簿番号でもなければ、生まれた日にちでもありません。

生まれた時から、みんなに「17」と呼ばれていました。


ボクは、あるところで、何かを支えている役割をしています。

何かは分かりませんが、生まれた時からの知り合いの「16」さんと「18」さんと一緒に、両手を上げて、板のようなものをずっと支え続けています。


一体何を支えているのだろう、と不思議に思い友達の二人に相談したこともあります。

しかし、二人も支えている何かは分からないようでした。

気になった二人も、隣、そしてまた隣のみんなに聞いていきましたが、どうやら誰もそれが何か分からないようです。

何やらこの板のようなものの上にも、ボク達のように列で誰かが並んでいるということを噂で耳にしました。


「何かは分からないけど、きっと大切なものに違いない」


ボクは何だか誇らしく感じ、今までよりも頑張って、それをみんなと支え続けました。


しかしある時のことです。


張り切り過ぎたのか、ボクは壊れてしまい、一時的にその場所を離れました。

それもそのはずです。生まれた時からずっとそこで大切なものを支え続けていたのです。

ボクは少し休憩をしたら、もうひと頑張りしよう! と気合を入れました。


そして、ボクがボクの場所に戻った時です。

体にボクのお腹に書いてあるものと同じ「17」という名前のボクが、そこにいたのです。

「あぁ、君が前のここの持ち場だった奴か。ボクは君がいない間に生まれた17さ。ここはもうボクが働いているから君はどこか別の場所へ行くと()いよ」

ボクは酷くショゲました。それはまるでしなびた大根のよう。

しかし、めげていても何も始まりません。

ボクはボクと同じ姿をした人達の列を歩いて、ボクが必要とされる場所を探し歩いていきました。

しかし、体についている数が増えていくだけで、ボクはとうとう一番端っこにいる「100」さんの所まで来てしまいました。

どうやら、もうここにはボクの場所はなさそうです。


ボクは酷く酷くショゲました。

階段を降りて、四角い白い建物を出る頃には、干からびた大根のようになっていました。


外に出てみた所、白い空間が地平線の果てまで続いています。

所々には、四角や三角をした物があり、時には斜めを向いていてある時には積み上げられたようになっています。

ボクは、トボトボと歩いていきました。


「やい、お前」

 ボクは最初、その場所を通り過ぎようとしました。

 それがボクの事を示していると分からなかったからです。

「やい、お前」

 ボクの肩を叩くように届いた声に、今度はしっかり振り返りました。

 とても大きい白い猫が、長方形の塀の上からボクを見下ろしています。

「こんなところで、他の誰かと出会うなんて珍しいな。お前は誰だ?」

 恐ろしい顔つきの猫だったので、ボクは少し震えて答えました。

「17です」

 ボクの名前を聞くと、大きな猫は首を傾げました。

「名前を教えてもらえないか?」

 おかしなことを言う猫です。もしかしたら、ボクの声が小さくて聞き間違えてしまったのかもしれません。

 今度は少し大きな声で言いました。

「ボクの名前は、17です」

 白い猫は、首元をボリボリ掻き、腑に落ちないような顔で言いました。

「17……ふむ。あまり宜しくない名前だ。よし、私が君に名前をつけよう。どうせだから、カッコいいのが()い。"フロスティ"などどうだろう? 昔私が別の世界にいた時に知った、白という意味をもつ言葉だ。今日からお前はフロスティだ」

 勝手に話を進める白猫に戸惑いながらも、ボクは文句をつけました。

 今まで使って来た名前を改めるなどとんでもない。

 すると、白い猫はボクにこう言いました。

「17というものは名前ではない。数字だ。数字は別に君である必要ではない。そうであろう?」

 ボクはふとボクが前いた場所のことを思い出しました。ボクと同じ姿をした同じ名前のボクが、ボクの代わりにいたことを。

「それに比べて、この名前は宜しい。私が、君の為に、君だけに与えた、大切なものだ。これに代わるものはない」

 言ってることは無茶苦茶でしたが、なぜかボクはそれを否定しませんでした。

 なぜでしょう。猫が恐いせいでしょうか。

 悲しくもないのに涙をボクがポロポロ流すと、猫はボクを慌てたように慰めました。


 しばらくの間、ボクはボクの体より2倍はある猫とあれこれと話していました。

 ボクがいた場所、ボクがしていたこと、そしてボクも知る事はできなかった大切なものについてボクは猫に話しました。

 猫は、うむうむ、と真剣な顔でボクの話を聞いていました。

「ボクが支えていた大切なものは何だったんだろう」

 ボクはその答えを知るはずもないのに、その猫に尋ねてしまいました。

「それは、フロスティにとっては本当は大切でないものであるよ。それよりも大切なものはたくさんある」

 ボクはポカンと口を開けてしまいました。

 ボクや16さんと18さんでも分からなかったことを、まるで知っているようでした。

「本当に大切なものというのは、目に見えないが確かにそばにあるもの、心で知っているが頭では忘れてしまったもの、泥のように汚いが宝石のようにきれいなもの。そのようなものだ。そして、失ったときに初めてそれが何かを知ることも大切なものの特徴だ。フロスティはそれを失った今、何か悲しいと思うかい」

 ボクは首を横に振りました。

 なぜでしょう。今まであんなに頑張って支えて来たのに、何だか楽になった気がしたのです。

 ボクが質問をしようとしたとき、ボクはまず猫の名前を尋ねました。

「私か? 私はアルバニアというものだ」

 それがどのような意味の言葉なのかは分かりませんでしたが、「素敵な名前だね」とボクは微笑み返しました。すると、アルバニアもにっこりと笑いましたが、すぐにその瞳は悲し気になりました。

「私の不幸はこの名前は自分がつけた名前であることなのだよ」

「自分で?」

 アルバニアはコクリと頷きました。

「私は生まれた時から独りであった。フロスティのように数字を振られることすらなかったのだ。だから、私は自分で自分の名前をつけることにした。初めはワクワクしたものであったが、空しいものであったよ。だからこそ、フロスティに私は名前をつけた。私のような孤独を、この世界をこれから行くフロスティに味わってほしくなかったからだ」

 何だかボクも悲しい気持ちになりましたが、同時にアルバニアに感謝の気持ちも湧いてきました。

「名前をくれて、ありがとう」

 ボクが言うと、照れ臭そうにアルバニアは手を振りました。

「うむ、良い、良い」


 アルバニアは数々の世界を渡り歩いてきたといいます。

 どこの世界も素敵でしたが残酷であったとも言います。

 アルバニアの話はとても面白く、ボクは聞き入ってしまいました。

 その時、ボクは、あっ、と声をあげました。

「アルバニアにとって大切なものは何?」

 アルバニアは、微笑みましたが、うーむと唸り、しばらくの間考えこみました。

「大切なものは多くある。しかし全てを話す事は難しい。何せ1万年を生きているからな。大切なものはある日突然に訪れる。そして知らぬうちに置いて来てしまうものだ。私も多くに気が付かされそして多くを忘れてきてしまった。子どもの頃の大切なものは今では数少ない」

「大切なものって難しいんだね」

 アルバニア、うむうむ、と頷いた。

「だがフロスティ。本当に大切なものは、いつでも自分の持ち物の中に入っている。それだけは、落とす事はない。だが、これが曲者だ。大切なものの中に埋もれてしまっているからね。時と共に色んな落とし物をすることで、初めてそれが何か分かるものなんだ。それだけは覚えておくように」

「分かったよ」

 何だかとても難しい話をした気がしますが、何となくアルバニアの言っていることは分かった気がします。


 気が付くと、暗い空に白い月がのぼり、あわい光を放っていました。

 アルバニアは「どれ、そろそろ私も行こう」というと、立ち上がり、大きなあくびをしました。


「フロスティ、これから君はこの世界を冒険するだろう。しかし心配はいらない。自分が自分であり続けられる場所を探しなさい。これにおいては誰かが助けられるものではないが、これは素敵なことだ。自分でしか見つける事ができない、自分の真の姿を探し続けることはこの世で一番幸せなことだ。大丈夫、きっと分かるはずだ。それは数字でもなければ、私が与えた名前などでは語り切れないもの。それをフロスティが見つけられることを私は信じているよ」

 最後の最後までアルバニアのいう事は難しかったですが、応援をしてくれたことは間違いありません。

 ボクは、強く頷き「必ず見つけてみせるよ」と頷きました。

 アルバニアは微笑むと、「では」といい、暗い空を駆け昇って行きました。


 この時のボクは気付かなかったのですが、後々になってこの出会いはかけがえのない思い出になり、アルバニアは忘れられない存在になりました。

 ボクは今、フロスティとして、それぞれが違う、名前を持ち、性格をし、姿をしたみんなと一緒に働いています。

 そして、大切なものもたくさんできました。

 友達、恋人、家族、趣味、疲れたときは休んでも良い事、自分にしかできないことは考えなくても元々からあること、笑い合える毎日、まだまだたくさんあります。

 そして、アルバニアに次会った時は、ボクが見つけた大切なものの特徴をぜひ伝えたいと思います。

 大切なものは、自分でしか見つけられないものであることです。

最後まで読んで頂きありがとうございます!

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