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たたかいのうた  作者: 山賊みかん
9/23

おむしゃはじめ

「もうよいぞ」

立ち上がって口を拭う


リンが素早く姫に駆け寄り手当てを始めた

「契約成立じゃ。

 とりあえず風呂に入って身を整えるとよい

 肩の具合はどうじゃ?」

少し動かしてみる

痛むが動かせないほどではない

擦り傷のほうが痛むくらいだ

その旨を伝える


「頑丈でなにより。なら一人で入れるな

 ミリタ、風呂とタオルの場所教えてやれ

 ヤンは片付け済んだら迎えに行ってこい

 では解散!」



ミリタに案内され風呂に入る

一人で入るには大きいが

それほど豪華というわけではなかった

「掃除も楽じゃないからね~」とミリタ

彼は案内が済むと早々に消えた


体を洗いながら先ほどのやり取りを思い出す

すべてを納得したわけではない

しかし、わからないことが多過ぎる

現状 従うしかなさそうだ


逆らえば殺されてしまうかもしれないし

もともと何もかも捨てる覚悟で行動したのだ

考えてみると大した違いがなかった

またアレをやると思うと気が重いが


湯船に浸かりながら

行動しているときには頭から締め出していたこと

考えなかったことが泡のように浮かんでは消える


一般人として社会に戻るにはやりすぎてしまっている

部屋の爆破は自分のせいになっているんだろうか

死人は出たのだろうか

姉は結婚して海外にいるからいいとしても

両親はどうしたろう


朝の清浄な日差しと温かな浴室


自分の心中や現状とのギャップに

自嘲の笑いを浮かべるしかなかった



――――――――――――――――――――――――――――――

ミリタとヤガミの姿が見えなくなった。


少女は大きく息を吐きソファーにダイブする

「うぁ~~~~~きんちょうしたよぉぉおおお」

猫が呼応して長く鳴いた

手足をバタバタさせた後

全身の力を抜き、猫のように伸びる

整えていた髪止めを乱暴に外し、ドレスを脱ぎ捨てる

「コルセットとか発明したやつはアホじゃ

 簀巻きにして逆さ吊りにしてやりたい」

「・・・演出過多ですよ。

 ナイフは護身に使うんではなかったんですか・・・

 ご自分の体をもっと大切にしてください」

救急セットを片付けながらリンが言う


「だって・・・あいつ目ヤバいんじゃもん

 最初に上下関係をわからせてやらねば危ない

 しっかし・・・暴れ出さんでよかった

 立ち上がったときは焦ったわぃ」


「その時は私が撃って

 ヤンが止める手はずだったでしょう」

床に着いた血痕をふき取り

脱ぎ散らかされた服をてきぱきと拾う


「最初の一発はくらうじゃろぅ?あ~怖かった

 慣れない格好つけはするもんじゃないなぁ

 今夜からはもぅ普段どおりにするぞぅ~」

「・・・はいはい、わかりましたから服を着てくださいね」

「いつもの楽なカッコもってきてぇ。にょうぅわぇええぇえ」

「・・・はいはい」


黒猫が大きな欠伸をして耳をかいた

――――――――――――――――――――――――――――――



風呂から上がる

体を洗ったタオルを絞り

体を拭いてから脱衣所への引き戸を開ける


バスタオルで顔を埋めて髪を拭く

ガシガシやりながら目を開ける


目の前にリンがいた


「うっ!?えっ!?」

視界が90度回転する

肋骨あたりを押され背中から床に落ちる


足を払われた と気づいた時には

マウントポジションを取られていた


治りかけた肩から激痛

「なにすんだっ!!」

深く考えず口を開くが

リンは全く意に介した様子もなく

青年の顎と こめかみの辺りを掴み

ぐりぐりと青年の頭を左右に動かす

顔を近づけてよく見ている


形容し難い香りがして

こんなときだというのに

別の意味で鼓動が早くなる


「・・・ひげ良し、頭髪まぁよし

 眉,整えた形跡なし、死ね。歯並びよし」

今死ねって言ったか?

リンがカミソリを取り出す。

「ちょ・・・」

「動くな」

たまらず動きを止める

剃刀が肌を削る感触がする

生きた心地がしない

「・・・力を緩めなさい」

無茶言うな

一通り顔を剃られ剃刀の感触がなくなった


「歯は磨きましたか?」

「みが・・いて・・・おりません」

舌打ちが聞こえた

いやな予感がする


案の定 リンは歯ブラシとコップを取り出し

「口を開けなさい。殺しますよ」

開けた

いささか乱暴に歯を磨かれる

他人に歯を磨かれるのは初めての経験だった

不快感しかない

てゆうかそれぐらい口で言え

自分でやるわ

なんのつもりだ


開放された

コップを渡される

「顔を洗って、口をゆすぎなさい。念入りに」

言われた通りにした


「言ってくれれば自分でやるよ」

恨めしげに言う

「・・・素人仕事で先方に失礼があってはいけませんから」

歯磨きの玄人って何だ

てゆうか先方って誰だ


「もういいか?」うんざりと言う

「・・・ええ」

とリンの視線が下に下がった


股間を蹴られる


「・・・これだから男は」

吐き捨てるように言いリンが出て行く


理不尽過ぎる・・・!!

痛みにもだえながら拳で床を何度か叩く

しばらく立ち上がれなかった




リビングに戻ると誰もいなかった

机の上に紙が置いてある

書き置き?


『上の階、右の一番手前の部屋

 そこが貴様の部屋だ

 別命あるまで待機

 夕食は19時予定』


今朝起きたのとは違う部屋だ

怪訝に思いながらも従う


ホテルの一室のような部屋だ

ベッド、机、椅子、空の本棚、壁掛け時計

これまた味気がなかった


机の上にラップで包まれたサンドイッチと

ミネラルウォーターが置いてあった


とりあえず机に座る

腹が鳴る

サンドイッチを食べた


やることがない

ベッドに座り

しばらく一人でつらつらと考えごとをする



ドアがノックされた

「はい」

返事をするとドアが開く


「やっほ」

見たことのない女性だった

気取ったところのない気さくな挨拶


『別命』とやらだろうか

昨夜の紹介になかった人物であるため

若干の緊張を含み問いかける


「ん~、まぁ別件といえばそうなるのかな?」

と言いながら青年の隣、ベッドに腰掛ける


素早くしなやかな動き

どことなくネコっぽい人だった


「じゃあそういうことで」

同時に顔が近づき唇をふさがれる


意味がわからず頭が真っ白になる

相手の舌が口内に侵入する生あたたかい感触



相手の肩をつかみ肘を張った

「んっ?タマゴサンドのお味」

「なにするんですか?」

「なにって・・・姫ちゃんから聞いてないの?」

「わけがわかりません」

「ほぉ~~・・・そりゃいかん・・・別料金だわ」

女性は天井を仰ぎながら言う


「端的に説明するとね」

「はぁ・・・」

「お姉さんはキミとエッチするために雇われた女です」

「はぁ?」

全然意味がわからない

いや言葉の意味はわかるが状況の意味がわからない


「まぁ私も詳しいことはわかんないし

 深く突っ込むとお互い危ないから

 とりあえず言われた通りにしましょ」

言うが早いか服を脱ぎだす女性

静止するがその手を掴まれ女性の胸元に押し付けられる


「ねっ?」


なぜだか全てがバカバカしく思え

青年は天井を仰ぎ見る



とりあえず



状況に流されることにした



――――――――――――。




――――――――――――――――――――――――――――――

エレベーターの前で三人の人物が立っている


「ひぃふぅみぃよぉ・・・」

「上乗せは口止め料込みじゃから。勘違いすなよ?」

「んふふ、確かに

 姫ちゃんのお仕事は好きよ?儲かるから」


札を数えながら上機嫌の女性と、若干背の低い少女が言葉を交わす


「他に何か問題はなかったか?」

「ん?別にぃ?普通だったよ。

 気弱そうに見えたけどちゃんと男の子だったし

 乱暴過ぎるってこともなかったし?」

「そうか、ならばよい。追加じゃ」

「まじっ?やったぁ!姫ちゃん今度うんとサービスするからねっ!」

「そのうちな。今は手が足りとるからな」

苦笑しながら応じる少女



「じゃあ、送っていきますので着けてください」

背の高い金髪の男がそう言って

真っ黒なフルフェイスヘルメットを差し出した。


「ん~これしなきゃダメ?中が全く見えないから

 やっぱりちょっと怖いんだけど・・・」

「ヤンは妙なことはせん。ちゃんとエスコートするから大丈夫じゃ

 知らないほうが良いことなんて世の中ごまんとあるじゃろ」

「それはまぁ、そうね、わかってはいるんだけどね・・・」

いいながらも慣れた手つきでメットをかぶる女性

「じゃあね」


チンッという到着音と共にエレベーターが開いた


――――――――――――――――――――――――――――――




ベッドの上に仰向けに寝転がりながら青年は天井を見ている


奇妙な寂寥感と満足感が混ざり合って胸中に波紋を立てる


終わってみるとあっけなかった


理想のようなものはあったのだが

零れ落ちた自分にはもう無意味な気がする

正直どうでもよいことのように思えた

ただ奴らの目的がまったくわからない


時計を見ると19時は回っている

だが起きていく気にならず青年はそのまま天井を眺めていた


とドアが開け放たれ金髪の男性が入ってきた

「おいこら、飯の時間だぞ。とっとと降りてこい」

「いいよ、そういう気分じゃない」

「知るかっ!とにかくてめぇが座らねぇと俺らも食えねえんだよ」

「・・・なんでだよ」

「アネゴの方針だ。ここにいる以上お前に逆らう権利は・・・ねぇ!!」

言いながら男は青年を軽々担ぎあげ階段へ向かう

「ていうか俺の作った飯が食えねえとか許さんぞ素人童貞ふぜいがっ」


思いつく限りの罵倒を浴びせ

物理的にも反撃したが

防がれた上、どこ吹く風で運ばれる

卓につかされた


「遅いぞ素人童貞。冷めてしまうではないか」

「素人童貞さんおっすおっす」

「・・・フッ」


・・・お前らな


メニューはすっぽん鍋

馬鹿にし過ぎだろう



腑に落ちない思いのまま食事はとった


うまいのがまた更に腹立たしい

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