えくすぷろーじょん
何もかも夢だったらいいのに
だが残念ながら夢ではない
目の前に立てかけられている金属バット
昨日の朝にはなかった凹みがある
使用した形跡
そう・・・使用した形跡だ
部屋に引きこもった
すぐに出られるように靴は枕元に置いた。
何事もなく夜になった。
がっかりしたようなほっとしたような
奇妙な心持ちだった
青年は暗い部屋でパソコンを見つめている
次に移るか
もう後戻りはできない と頭の中で反芻する
翌日行動を開始
次は
"サークルクラッシュ常習犯"
近くの大学に通っているらしい
先日と同じように喫茶店でターゲットを探す
現れない
夕方になった
やはり現れない
暗くなってしまったので
その日は素直に帰宅した
さらに翌日も空振り
どうやら情報にブラフがあるらしい
まぁこんな怪しいサイトに
普通そのまま情報を入力したりはしないか
翌日
次のターゲットに的を移すことにする
"後輩いびりお局"
おそらく都内のオフィスビル
写真を見る限り40代後半だろうか
喫茶店が近くになかったので
パン屋とコンビニをはしごして待つ
割とすぐ見つかった。
見つかってしまった。
少し後をつけてオフィスビルに入っていくことを確認
帰路に着く
更に罪を重ねることによる恐怖か
次の獲物を見つけた高揚感か
指先の震えは止まらない
翌日、まったく同じ手順・手管で襲撃
最初よりうまくやれた。
119通報をしてやらねばならなかったので
声は録音されてしまったかも知れない
まぁ男なのか女なのかわからない声とは
昔から言われていた。
それにどうせ逃げ切れるとは思っていない
時間の問題だろう
全力で動くからか心身ともに疲れるからか
その日もよく眠れた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
青年は気づかなかった
その日の襲撃をずっと空撮されていたことに。
ドローンを回収した男は通信機のスイッチを入れる
「撮影成功しました。早いですね。
思ったよりも運動神経はいい様子です。」
『そうかそうか。それならしばらくは持つかも知れんな
しかしあれじゃの。またぶっ飛んだやつが現れたもんじゃな』
「持ちますかね。時間の問題だと思いますよ。日本の警察は仕事熱心です」
『ふむ・・・根回しを早めるとするか、やつから連絡は来ておる。
報酬しだいで協力するそうじゃ』
「やるんですね」
『何度も言うたじゃろ?』
「ええ・・・撤収します」
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二度の成功体験からかやる気が出ていた
次は"重役出勤居眠り部長"だ
少し遠いが仕方がない
前回と同じ手順で下見をし
獲物を発見した後、後をつける
家に帰ったあと
逃走ルートを選定
今度もなんとかなりそうだ
翌日、青年は家を出た
物陰から見ている目線には気づかない
「ヒ・・・何だ!?ヤメっ・・・あ゛ァ」
バットを振り下ろす。
恰幅がいいからか骨太なのか なかなか折れない
少し てこずったが目的は達成
財布に入った札の量に若干びびる
儲けてんじゃねえよ腐れ外道が
いつものように119通報
全力で逃走
青年の頭は暴力で塗りつぶされていた
初回ほど動転していない
食事の量は減ったし体重も減ったし
目の下のクマもだんだんひどくなるが
不思議な高揚感が青年を支配していた。
やれる。まだまだやれる。もっともっとやる。
制裁だ天誅だ聖戦だ壊してやる壊してやる壊してやる
俺のせいじゃない社会が悪い間違ってるのは俺じゃない
世 界 の ほ う だ !!
次の日の朝
ドアを乱暴に叩く音で目が覚めた
「警察だ!田中光!連続強盗傷害容疑で逮捕する!ここを開けろ!!」
朝っぱらだ
よくもまあ仕事熱心だこと
青年は躊躇なく枕元の靴を履き
ベランダから逃走をこころみる
服は着たまま寝ていた
「動くなっ!!」回り込まれていた
ですよねー3階だし
大した高さはない
飛び降りても大した怪我もしないだろう木もあるし
欄干に足をかけ、飛び降りる準備をする
と
頭上で声がした
『その意気やよし!だがちょっと右によけろ!!』
上から声?なんで?
上を見るとスピーカーがある
明らかに合成音声だがはっきりとした声だった
スピーカー?あんなもんいつからあった?
右によけろ?何言ってんだ?
青年の頭に疑問符が大量に沸く
後ろで大きな音がした。
合鍵でも入手していたのか警察と思しき男が3人入ってきている
その手前に開け放たれたクローゼットと
灰色の金属体
なにあれ?
ガス・・ボンベ?
実家に昔設置されていた大型のLPガスボンベに似ている
いや、てゆうか・・・なんであんなもんがクローゼットに?
ふと鼻に違和感
ガスが漏れ・・・ている?
正面から甲高い音
何かが飛んでくる
何だ?
飛翔物はベランダの壁に当たり
パンッと音を鳴らして弾けて落ちる
ロケット花火?
は?
ちょっとまて!まさかっ!?
『コンマ5度修正、角度ヨシ、第二射用意!!派手にかませぇい!!』
ふざけんなっ!!
欄干を蹴る
飛び降りる
背後で熱風と轟音と悲鳴
防風林に左肩から突っ込む
枝をおりながら落ちる
衝撃
「ぐぅ・・あ・・・いってぇ!」
呼吸がうまくできない
「なん!!なにをしたんだお前っ!!動くな!動くなよ!」
ピストルを向けられた
おっと日本の警察は優秀ですね
体の感覚は痛みでしびれているが、立ち上がることはできた
手をあげて降参のポーズをとる
「よっ!・・・よし動くなよ」
ピストルを片手で保持したまま警官が手錠に手を伸ばす
と
視界が真っ白になった
「今度は何だっ!?」警官が叫ぶ
同時にけたたましい音が近づいてくる
なんだ?目がいかれたのかな?
結構な衝撃だったしな
青年はもう頭が働かない
何が起きてるのかよくわからない
けたたましい音がたくさん近づいてくる
暴走族の音に似てるな
呆けた頭でそう思った
『応答せよ!警部補!マルボウです!マルボウが襲撃してきました』
無線の声がする
なんだこれ
聞きなれた鈍い音がした
警官が昏倒している
目の前に大きな男が現れた
バイクに乗っている
こちらを一瞥し、ヘルメットを投げた
反射的に受け取る
「乗れ」
短く言った
「ちょ・・・えっ!?」
「乗れっつってんだよっ!!早くしろオラぁ!!」
怖い。素直に乗った。
バイクが走る
街の情景がすっ飛んでいく
混乱してもうどうしていいかわからない
青年を乗せたバイクはそのまま街の西に向かい
トンネルの前にあるちょっとしたスペースに止まった
「降りろ」
素直に降りる。
青年が降りると男もエンジンを切って降りる
男は青年よりずっと背が高い180cmはあるだろう
筋肉もついているらしくがっしりとした体躯は
一撃で殺されそうだった
青年は口を開く
「なんなんだアンタ。てゆうか俺の部屋!?どうなってんだよ!なんだよこれ!?」
男はうんざりした顔をした
答えずに右耳のあたりに手を伸ばす
「確保しました。どうします?」
『了解。上々じゃな。つれて来い。身辺チェックをせよ。意識はないほうがいいじゃろ』
「了解」
青年が理解するより早く
男の右ストレートが青年のあごを打ち抜く
あっけなく青年は崩れ落ちた
男は青年のポケットをまさぐり携帯と財布を取り出した。
携帯をためつすがめつしてからSIMカードを抜き取る。
自分のポケットからラジオペンチを2本取り出す
「ちょっとまて・・・てめっ・・・なにして」
体が動かない
男はそのままSIMカードをねじ切って捨てる
携帯と財布を青年に戻し、
また自分のポケットに手を入れた。
取り出したのは手のひらサイズの黒い機械
男がスイッチを入れる
機関銃のような乾いた連続音がする
紫電が目に入った
「ちょっ・・・やめっ!!」
青年の意識はそこで途切れた
一応ここまでがプロローグ
この後はだいぶ空気がライトノベルっぽくなると思います。
鬱展開って書くほうもきついのですね。勉強になりました。
胃が痛いです。
先に申し上げておきたいのですが
この後、貞操観念の強い方には
著しく不愉快になると思われる
描写が多々あります。