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たたかいのうた  作者: 山賊みかん
2/23

しあわせなら手をたたこう

「えっクビ?」

バイト先の居酒屋で青年は間抜けな声を出した。

「いや、首というか、店を閉めようかと思ってね・・・」


店長の壮年男性は困ったような残念なような声で答える


「でも・・・どうしてそんな急に・・・」

「田舎に帰ってそこで店を開くんだ

 実はお袋が倒れちまってな。もう年だし、

 施設に預けるような持ち合わせはないしで

 それしかないんだよね・・・

 田中君には悪いと思うんだけど

 今月の給料は弾むからさ」


「そう・・・ですか・・・

 それは仕方ない・・・ですね」


かくして青年はニートになった。






どうしよう金がない

俺も実家帰ろうかな

もうどうしようもないしな


大学は卒業が決まっている。

しかし就職内定はもらえなかった。

親は帰って来いといっているが

両親にこれ以上負担をかけるわけにもいかない気がする。


ふと、にぎやかな看板が目に入る。

独特のすえたにおいがした。



パチンコか しばらくやってないけど

これしかないような気がするな



明らかにだめなパターンだが、クビになったことが

余程ショックだったのか青年は正常な判断力を失っているらしい



最後の一万円札を挿入し、

じゃらじゃらと皿に玉が送られてくる


まあこの台ならなんとかなるだろ1000回以上回ってるし



・・・・・・・・・・・・・




出ない。なぜだ

隣のやつはこんなに大勝してるってのに!


もう残りは心もとないらしく青年はあせっていた。

隣ではサラリーマンと思しきスーツ姿の男が

店員を呼び出し、玉の入った皿を積ませている

後ろを見るとかなり大勝ちしているらしい

スーツの男はご機嫌の様子だった




どうしようこれは不味い最後の一万円なのに・・・!?


青年は焦りで頭が冷えたらしい

ようやく自分が何をやらかしたのか

この後どうなってしまうのか考えを巡らしているようだ


となりでケイタイの着信音がした。

大勝ちしていた男だ

男はそのまま電話に出た。

「あっどうも課長!えっサボってませんよ!

 先方の都合で時間がずれたんでちょっと気晴らしを!!

 ええ、めっちゃ勝ってます!!笑いがとまりません

 やだなノルマは達成してますよ!!

 ジジババなんて世間に疎いんで楽勝っすよ!」



手が離せないからか男は大声でそのまましゃべり始める

会話の内容から、あまりほめられたものではない職についているらしい



しかし青年は愕然としていた


何でこんなやつが働けて俺は・・・


細かい内容は聞こえていないようだ。



「え?かえって来い?かえってからじゃ先方の約束時間 間に合わないっすよ

 ですよね?はい、、じゃ報告は帰ってからしますんで!お疲れ様っす!」


男は電話を切る

「切り上げっかなー

 ん?何だ何見てんだよ?

 負けてんのか?そんなにらむなよ」


「あっいえ、すみません」

青年も切り上げることにしたらしい

というか玉がなくなっていた。財布も小銭しか残っていない。


青年は席を発つ

男は店員を呼び出し、帰る旨を伝えている。




青年は打ち拉がれていた。

だからだろうか

なぜか男を待ち伏せている。


男が出てくる。

たまたま近所にある 景品を高値で買い取ってくれる窓口に行き

パチンコの景品を日本円に換金した。




男は上機嫌で路地に入った。

男の目の前に青年が路地をふさぐように立っている

「なんだよ?どけよ」

「その金置いてけ」

「何いってんだアホか?

 絡んでくんじゃねえよ負けたからって

 俺これから仕事あんだよ」

「よこせっつってんだよっ!!!」


青年は激昂して男に殴りかかった

拳は男の左ほほに直撃した

男にとって予想外だったのかクリーンヒットする

青年は続けて数発の拳を男に見舞う


拳が止められた。頭に衝撃

鈍い音がする


「あっ------つぅ」

青年はよろめく

男が頭突きを食らわせたらしい

「いってぇなクソガキぃ!!」

男のつま先が青年のへそのあたりにめり込む

青年はたまらず崩れ落ちた。


そのまま なすすべなく蹴られ続ける

「あーーーーいってぇ。なんなんだよコイツ頭いかれてんのか

 くっそ、せっかくのいい気分が台無しだよ。なぁ!」

また蹴りを一発

青年は悔しさからか声をだす

「くっ・・・そ・・・なんで・・・てめぇみたいのが働けて

 俺はクビなん・・・・」


「なんだそりゃ?八つ当たりしてんじゃねえよ

 おめーの不始末だろが、がんばってりゃほめてもらえんのは

 高校生までなんだ!よっ!!!」

再び男のつま先が青年の腹にめり込んだ

たまらず青年は嘔吐する。

「うわっきったねえ、じゃあな甘ったれお坊ちゃん

 まじめに働けよー3Kでなーーーー」




あたりはもう暗くなっていた

起き上がる気にならず青年はうなだれたまま

壁を見つめている

途中何度が人が通ったが、青年を一瞥すると足早に駆けていく

誰も彼に話しかけはしない。


気が済んだのか

青年は死んだ魚のような目で帰路につく


男の言葉が頭の中でこだまする。

口の中で血の味がする。

「俺の・・・せいか?俺が間違ってるって?

 俺か・・俺は・・・だって・・・でも・・・」


もはや言葉の断片を口にしながら

青年は歩き続けた。

電車に乗る気にならない


不思議な脱力感と

猛烈な怒りが青年を支配していた。



善きにつけ悪きにつけ

青年のタガはひとつ外れた

なぜ青年は男に殴りかかったのか

この場合、男のほめられない行為を罰するのは

彼の上司であって青年ではない

だが青年はどうしても許せなかった




それが間違っているかどうかは

誰にもわからない

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