表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

毛布の王様

作者: 望月 暁生

その国が暖かいと呼ばれるワケは…

昔々あるところに、とても寒くて冷たいことで有名な国がありました。

その国は四方八方しほうはっぽうを山に囲まれ、緑が芽吹くのはほんの一時期だけで、ほとんどの季節が雪におおわれた国でした。

国民の多くは地下にこしらえた家に住み、滅多なことでは外出しないため、内気で外交の少ない国だと言われていました。


その国の王様と王妃様には一人の息子がおりました。

間もなく14歳になろうかという王子様は、それはそれは寒がりで、一日中暖炉の側を離れずに、本を読んでばかりいました。

おしゃれ好きのため厚着をするのはカッコ悪いから嫌だ!と言い張り、薄手の瀟洒しょうしゃな衣服を好んでされるのですが、なにぶん寒がりな御方おかたのため、結局は上から何枚もの毛布をマントのようにまとい、ずるずると引きずって歩くという、なんとも不思議ふしぎ不格好ぶかっこうな姿であるにも関わらず、それに満足まんぞくして自由気ままに日々を過ごしておられました。



ところがある時、王子様はほんの不注意から自分をくるむ温かい毛布を暖炉だんろに近付け過ぎてしまい、危うく大火傷おおやけどを負うところを優秀ゆうしゅう侍女じじょのおかげで間一髪かんいっぱつまぬがれるという事件を起こしてしまいました。

王子様は焼けげた毛布をながめながら、「これはマズい」と呟きます。

臣下の多くがそれを聞いて、やっと気付いて下さった……と内心で安堵あんどしながら「どうかなさいましたか」「お怪我けががなくて何よりです」「どうぞお気をつけ下さいまし」と口々に応えました。


すると、王子様は言いました。


「私はこれまで、毛布というものは温かく肌触りが良ければそれで良いのだと思っていた。

特に動物の毛皮を使ってこしらえた物は手入れこそ大変なのだろうが、毛布としてガウンとしては最上さいじょうのものだと思っていたのだが……しかし違った。

これからは、もっと安全性に関してもしかるべきだな。まさかこんなに燃えやすいものだとは思わなかった……

燃えにくいだけじゃない。引きずったりこすったりしても解れにくい素材で、もっと気密性きみつせいを高めて素材自体の保温ほおん能力のうりょくを高めれば、薄手の物も作れるのではないか?

そうすれば今よりもっと身にまとい易く、うでの自由を制限する事も無くなるだろう。

足運あしはこびの面でもすぐれた、見た目にも優雅ゆうが洒落しゃれた物を作れようぞ!」




この事件をきっかけに、独自どくじの毛布を開発かいはつすることに目覚めた王子様は、数年かけて研究し、試行錯誤しこうさくごの末に自信作を作り上げ、その翌年からは次々に新しいデザインの毛布を世に発表するようになりました。


人々はそれを外套がいとうや衣服として身にまとうだけでなく、建物や乗り物など様々な防寒に使い回すようになり、それに比例して多くの人々が外出を厭わなくなってくると、ゆるゆると流通が盛んになり、活気付いた街で市場が設立し、観光客が徐々に現れ、この土地ならではの資材や技術が重宝されるようになりました。

そうして、だんだんと形象けいしょうを変えたその国は、寒くて冷たいことで有名だったはずが、いつの間にか真冬の自然美しぜんびに囲まれた「暖かい氷の国」とうたわれるようになったのでした。





こうして、はからずも自国の繁栄はんえいに多大の貢献こうけんした王子様は、王位にいてからも毛布に対する情熱じょうねつおとろえることはありませんでした。


そしていつからか、その功績こうせきちなんで「毛布の王様」と親しみを込めた呼び名でしょうされ、何代にも渡ってかたがれるようになるのです——が、それはだ誰も知らないお話。




相も変わらず寒がりでおしゃれ好きな王子様は、今日も暖炉前の居心地良い空間に居座って、ぬくぬくとお気に入りの毛布にくるまりながら資料を読みふけり、議案ぎあんっているのでした。





―おしまい―




2011/10/14 初稿 2016/03/22 改稿

とても寒がりな王子様なのに、どこよりも寒くて閉塞した自国を飛び出そうとは思わなかった所がミソかも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ